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東京地方裁判所八王子支部 平成10年(ワ)3252号 判決 2000年4月26日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金1億5,000万円及びこれに対する平成11年2月6日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  訴外ヘルス・ケア株式会社は、有料老人ホームの経営等を目的とする会社であり、原告及び被告は、訴外ヘルス・ケア株式会社の発行に係る株式の40パーセントずつを保有し、いずれも訴外ヘルス・ケア株式会社の共同代表取締役となっていた。

2(一)  訴外ヘルス・ケア株式会社は、伊豆ヘルス・ケア・マンションの建設等に関し、訴外伊藤忠商事株式会社から合計49億1,276万円を借り入れた。

(二)  また、訴外ヘルス・ケア株式会社は、訴外伊藤忠商事株式会社に対し、合計79億8,560万5,000円の建物等の工事を注文し、建物等の引渡しを受けた。

(三)  訴外ヘルス・ケア株式会社は、訴外伊藤忠商事株式会社に対し、平成9年9月末日までに、右債務のうち合計22億8,623万5,774円を返済したが、その余の債務を返済できなかった。

そのため、平成3年9月30日において期限の到来していた、訴外ヘルス・ケア株式会社の訴外伊藤忠商事株式会社に対する債務は、137億0,416万4,532円となった。

3  原告及び被告は、訴外ヘルス・ケア株式会社が伊藤忠商事株式会社に対して負担する一切の債務について、それぞれ連帯保証した。

4(一)  原告は、訴外ヘルス・ケア株式会社の訴外伊藤忠商事株式会社に対する債務に係る連帯保証債務の履行として、訴外伊藤忠商事株式会社に対し、合計12億7,652万5,512円を返済した。

(二)  一方、被告は、訴外ヘルス・ケア株式会社の訴外伊藤忠商事株式会社に対する債務に係る連帯保証債務の履行として、訴外伊藤忠商事株式会社に対し、約2,000万円を返済し、訴外伊藤忠商事株式会社から残余の連帯保証債務の免除を受けた。

5  訴外ヘルス・ケア株式会社は、平成9年12月16日に開催された株主総会において、解散の決議をし、平成10年3月31日、清算を結了した。

訴外ヘルス・ケア株式会社の資産のほとんどすべてに訴外伊藤忠商事株式会社の担保権が設定されており、また、負債の額が資産の額を大幅に上回っていたこともあって、原告の訴外ヘルス・ケア株式会社に対する求償権は、訴外ヘルス・ケア株式会社の清算手続において、全く受けることができなかった。

二  争点

1  原告の主張

(一) 原告は、訴外伊藤忠商事株式会社に対し、合計12億7,652万5,512円の連帯保証債務の履行をした。そして、原告及び被告の負担部分は、2分の1ずつである。

したがって、原告は、被告に対し、12億7,652万5,512円から、被告が連帯保証債務の履行として支払った2,000万円との差額の2分の1である6億2,826万2,756円の求償権を有する。

(二) 被告の後記2(一)の主張は争う。

(三) 主たる債務者である訴外ヘルス・ケア株式会社は、平成10年3月31日、特別清算をしたが、訴外ヘルス・ケア株式会社には求償金債務を支払う資力が全くなかったから、民法444条を準用して、弁済した連帯保証人である原告は、弁済額が自己の負担部分を超えないときでも、弁済額に自己の負担部分の割合である2分の1を乗じた額を超える弁済部分について、他の連帯保証人である被告に対して求償できると解すべきである。

2  被告の主張

(一) 被告は、原告が訴外伊藤忠商事株式会社に対し返済する前に、訴外伊藤忠商事株式会社から、被告の訴外伊藤忠商事株式会社に対する137億0,416万4,532円の連帯保証債務の免除を受けた。

したがって、原告の被告の対する求償権は発生しない。

(二) 共同保証人が他の共同保証人に対し求償権を行使するには、当該保証人が自己の負担部分を超えた弁済をしなければならない(民法465条)。

ところで、訴外ヘルス・ケア株式会社の訴外伊藤忠商事株式会社に対する債務は、平成9年9月末日において、137億0,416万4,532円であったから、共同保証人である原告の負担部分は、2分の1に相当する68億5,208万2,266円となる。

しかし、原告が訴外伊藤忠商事株式会社に対し支払った金額は合計12億7,652万5,512円であるが、これは、右68億5,208万2,266円を超えていない。

したがって、原告の返済額は、右負担部分を超えないから、被告に対する求償権は発生しない。

なお、原告が主張するように、主たる債務者が無資力の場合には、共同保証人が負担部分を超える弁済をしないでも他の共同保証人に対し求償できるとすると、他の共同保証人は民法465条の利益がほとんど受けられないことになり、民法465条の規定を設けた趣旨に反することになる。

第三  当裁判所の判断

一1  民法465条1項は、「数人ノ保証人アル場合ニ於テ主タル債務カ不可分ナル為メ又ハ各保証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約アル為メ一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第四百四十二条乃至第四百四十四条ノ規定ヲ準用ス」と定めており、連帯保証人が他の連帯保証人に対し求償するためには、自己の負担部分を超える弁済をすることが前提となっている。これは、共同保証人は、負担部分については主たる債務者に対する求償だけで満足すべきであり、それを超えた部分は共同で負担すべきものしているためである。

2  なるほど、主たる債務者に資力がないときは、民法444条を準用して、弁済した連帯保証人は、弁済額が自己の負担部分を超えないときでも、弁済額に自己の負担部分の割合を乗じた額を超える弁済部分について、他の連帯保証人に対し求償できると解することの方が相当との考え方もあろう。

しかし、民法456条1項は、「数人ノ保証人アル場合ニ於テハ其保証人カ各別ノ行為ヲ以テ債務ヲ負担シタルトキト雖モ第四百二十七条ノ規定ヲ適用ス」と定めている。これは、共同保証人は、原則として分別の利益を有し、それに相当する保証債務の履行が固有の義務であるとしているものである。そして、連帯保証人は、主たる債務の担保力を強めるため全部の債務の履行義務を負ってはいるが、分別の利益を定めた右規定に照らすと、実質的には、自己の負担部分は固有の義務であり、負担部分を超える部分は他の連帯保証人の履行義務を担保しているものと解される。

そうすると、連帯保証人は、負担部分に相当する連帯保証債務の履行をしても固有の義務の履行をしているにすぎないから他の連帯保証人に対し求償権を行使できないが、負担部分を超えた連帯保証債務の履行をした場合、他の連帯保証人の義務を代わって履行したことになるから他の連帯保証人に対しては求償権を行使できると解される。このことは、連帯保証人が負担部分を超えない連帯保証債務の履行をした後、債権者との間で、その余の連帯保証債務の履行義務を免除する合意をしたとしても同様である。なぜなら、これは、連帯保証人の固有の義務に係る合意にすぎないものであり、他の連帯保証人に対する求償権の発生の前提となる、他の連帯保証人の義務を代わって履行したことにはならないからである。

なお、最高裁判所平成7年1月20日第二小法廷判決(民集49巻1号1頁)も、「連帯保証人は、自己の負担部分を超える額を弁済した場合は、民法465条1項、442条に基づき、他の連帯保証人に対し、右負担部分を超える部分についてのみ、求償権を行使し得るにとどまり、弁済した全額について負担部分の割合に応じて求償することができるものではない。」と同旨の判決をしている。

3  そして、訴外ヘルス・ケア株式会社の訴外伊藤忠商事株式会社に対する債務は、平成9年9月末日において、137億0,416万4,532円であった。そのため、共同連帯保証人である原告及び被告の負担部分は、2分の1ずつとなるから、68億5,208万2,266円となる。

ところで、原告が訴外伊藤忠商事株式会社に対し支払った金額は合計12億7,652万5,512円であるが、これは、右68億5,208万2,266円を超えていないから、原告は、連帯保証人である被告に対し、求償権を行使できない。

したがって、被告の主張(前記第二の二2(二))は理由がある。

二  よって、原告の請求は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

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