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東京地方裁判所八王子支部 平成13年(ワ)2548号 判決 2003年4月24日

原告

被告

Y1

ほか一名

主文

一  被告Y1は、原告に対し、金一七〇万二一七七円及びこれに対する平成一三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y1及び被告Y2は、原告に対し、連帯して、金二〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告らの各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告Y1は、原告に対し、金二四五万六一〇七円及びこれに対する平成一三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  第一、二項につき仮執行の宣言

第二当事者の主張

一  事案の概要

本件は、原告が、自転車に乗って進行中、被告Y1運転の自動車に衝突されて転倒し、負傷したとして、同被告に対し損害賠償を請求するとともに、同被告が交通事故の場合の措置を執らずに現場から逃走した上、被告Y2と共謀して、いわゆる身代わり犯人を立てたとして、被告Y1に対し上記措置義務違反に基づき、被告らに対し犯人隠避教唆に基づき、それぞれ慰謝料を請求する事案である。

これに対して、被告らは、原告は、ありもしない衝突事故、受傷及び損害を主張して、一銭でも多くの金員を賠償名下に取得しようとしているものであるとして、原告の請求を全面的に争っている。

二  請求の原因

(1)  被告Y1に対する交通事故等に基づく損害賠償請求

ア 交通事故の発生

原告は、平成一二年三月一八日、自転車に乗車して青梅線方面から多摩川方面に向けて進行し、進行方向と直角に交わる奥多摩街道を横断しようとして、青梅市河辺町四丁目二一番地先の交差点において、自転車に乗車したまま青信号に従い横断歩道上をゆっくりと渡ろうとしたところ、折から奥多摩街道を小作方面から青梅方面に向けて進行してきた被告Y1の運転する普通乗用自動車に衝突され、その場に転倒し、全治約六か月間を要する傷害を負った。

イ 被告Y1の責任

上記交通事故は、被告Y1において、前方を注視し、信号機に従って進行すべき注意義務があるところ、これを怠り漫然と進行した過失により、直前になって、青信号に従い横断歩道を自転車に乗って進行中の原告に気づき、衝突を避けられなかったものであり、原告に過失はない。

被告Y1は、上記自動車の保有者でもあり、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条により、原告が被った損害を賠償する義務がある。

ウ 原告の損害

<1> 原告は、前記交通事故により、左膝打撲(当初診断)の傷害を負い、青梅市立総合病院に搬送され、実日数二日の治療の後、青梅市内の沢井診療所に平成一二年三月二一日から同年九月一八日まで通院し(通院実日数六三日)、以下の損害を被った。

<2> 治療費等 二四万一六五〇円

a 青梅市立総合病院

治療期間 平成一二年三月一八日から同月二一日まで

治療費 三万五三九〇円 診断書料六〇〇〇円

b 沢井診療所

治療期間 同年三月二一日から同年五月三一日まで

治療費 五万三四七〇円 診断書料六〇〇〇円

治療期間 同年六月一日から同年八月一五日まで

治療費 四万六八一〇円 診断書料六〇〇〇円

治療期間 同年八月一七日から同年九月一八日まで

治療費 一万〇七九〇円

治療期間 同年三月二一日から同年九月一八日まで

診断書料二万一〇〇〇円

c 再春堂薬局

治療期間 同年三月二一日から同年五月三一日まで

治療費 二万七七六〇円 診断書料三〇〇〇円

治療期間 同年六月一日から同年八月一五日まで

治療費 二万二四三〇円 診断書料三〇〇〇円

d 以上合計

治療費 一九万六六五〇円

診断書料四万五〇〇〇円

<3> 休業損害 二一六万七七〇二円

a 原告は、前記事故当時、午前八時三〇分から午後四時まで、兄Aの経営する有限会社棚澤バッテリー商会(以下「棚澤商会」という。)に事務員として勤務し、また、午後五時から午後一一時まで、自ら経営するお好み焼き屋「たぬき」(以下「たぬき」という。)において稼働していた。

b 棚澤商会における休業損害 一五万〇三一〇円

原告の月給は一九万五〇〇〇円であり、一か月二四日勤務として日給換算は八一二五円、時給換算は一〇一五・六二円である。

原告の前記交通事故に基づく通院等による欠勤日数、遅刻・早退時間に、上記日給換算、時給換算を乗じると、以下のとおりである。

ⅰ 平成一二年三月分休業損害

欠勤二日 八一二五円×二=一万六二五〇円

遅刻三日・三時間分、早退五日・一〇時間分

一〇一五・六二円×(三+一〇)=一万三二〇三円

ⅱ 同年四月分休業損害

遅刻三日・三時間分、早退一三日・二六時間分

一〇一五・六二円×(三+二六)=二万九四五三円

ⅲ 同年五月分休業損害

早退一一日・二〇時間分

一〇一五・六二円×二〇=二万〇三一二円

ⅳ 同年六月分休業損害

早退一一日・二二時間分

一〇一五・六二円×二二=二万二三四三円

ⅴ 同年七月分休業損害

早退一〇日・一八時間分

一〇一五・六二円×一八=一万八二八一円

ⅵ 同年八月分休業損害

早退一〇日・二〇時間分

一〇一五・六二円×二〇=二万〇三一二円

ⅶ 同年九月分休業損害

早退五日・一〇時間分

一〇一五・六二円×一〇=一万〇一五六円

ⅷ 以上合計 一五万〇三一〇円

c 「たぬき」における休業損害 二〇一万七三九二円

原告の「たぬき」での平成一一年度所得は五七〇万九六九〇円、年間稼働日数は三〇〇日であるから、一日当たりの所得は一万九〇三二円であり、完全に閉店した日を一日休業、途中で閉店した日を半日休業とみなし、各月の休業状況に応じ上記所得を乗じると、以下のとおりである(なお、定休日に当たる日に通院した場合は休業日に算入していない。)。

<省略>

一万九〇三二円×(七二+六八÷二)=二〇一万七三九二円

<4> 慰謝料 二〇五万円

a 通院による慰謝料 一五五万円

通院期間 平成一二年三月一八日から同年九月一八日まで

通院実日数 六三日

以上六か月の通院による慰謝料は一五五万円が相当である。

b 救護措置を講じなかったことによる慰謝料 五〇万円

被告Y1は、前記交通事故を起こしたのに、直ちに運転を停止して被害者である原告を救護する等必要な措置を講ぜず、かつ、その交通事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署に報告しなかった。

このため、原告は、交通事故による心身の苦痛にもかかわらず、まず加害者探しから始めなければならず、身体の具合の悪さを押して何度も警察通いをし、前記交通事故の加害者が被告Y1であることを明らかにした。

これに伴う原告の精神的苦痛は、上記aとは別に金銭に見積もると、五〇万円は下らない。

エ 損益相殺 二〇〇万三二四五円

<1> 自賠責保険からの保険金 一〇〇万三二四五円

原告は、自動車損害賠償責任保険から、以下のとおり二回にわたり保険金を受領した。

a 平成一二年八月一一日 五八万一二二五円

b 同年一〇月二六日 四二万二〇二〇円

<2> 被告Y1からの示談金 一〇〇万円

原告は、被告Y1から、同人に対する業務上過失傷害等被告事件の一審判決の直前、示談をしてほしい旨の懇願があったため、一〇〇万円の支払をもって、上記刑事事件について寛大な処分を求める旨の合意をし、一〇〇万円を受領した。

オ まとめ

以上の原告の損害合計四四五万九三五二円から二〇〇万三二四五円を損益相殺すると、原告の被告Y1に対する交通事故に基づく損害賠償請求権の額は二四五万六一〇七円となる。

(2)  被告らに対する犯人隠避教唆に基づく損害賠償請求

ア 被告Y1及び被告Y2らは、共謀の上、被告Y1が起こした交通事故及びその後の措置違反が罰金以上の刑に当たることを知りながら、上記刑事事件の処罰を免れようと企て、被告Y1がBにいわゆる身代わり代として支払った五〇万円の中から、Cに一五万円を渡すなどして身代わり犯人を仕立てることにし、平成一二年三月二四日午後九時ころ、東京都西多摩郡瑞穂町大字箱根ヶ崎七一六番地先路上に駐車中の普通乗用自動車内において、被告Y1及び被告Y2らがCに対し、「Y1が事故を起こした時に乗っていた車は、Cがオートパークから借りて乗っていたことにしてくれ。その車は、代車として三月五日に借りたが、三月一八日より前に盗まれたことにしておいてくれ。」などと申し向け、被告Y1がひき逃げ事故を起こした車両をCがオートパークから借りて使用し、その後盗難に遭ったことにしてくれるよう依頼し、Cをしてその旨決意させ、同年三月二九日午後七時一〇分ころ、東京都青梅市<以下省略>の三警視庁青梅警察署において、上記業務上過失傷害及び道路交通法違反事件の取調べに当たった同署司法警察員巡査部長D外一名に対し、上記依頼に沿う虚偽の申立てをさせ、犯人隠避を教唆した。

イ このことによって、警察の上記交通事故に対する捜査が著しく遅れ、原告は、交通事故による心身の苦痛を押して警察通いをし、警察の捜査に協力しながらようやく真犯人を突き止めた。

被告らの行為は、ひき逃げの真犯人を隠すことによって被告Y1の刑事責任を免れさせようというもので、極めて悪質であり、原告の精神的苦痛は倍加した。

被告らの犯人隠避教唆は、被告Y1の交通事故の惹起及び現場からの逃亡とは別個の刑事犯罪であり、警察の迅速公正な捜査という社会法益を侵すものであるが、同時に本来速やかに遂げられるべき事故責任の明確化を遅らせることによって、交通事故の被害者である原告に対しても、著しい不安感、焦燥感、失望感等の精神的苦痛を与えたものであり、原告に対する不法行為に該当する。

ウ 原告の上記精神的苦痛を金銭に換算すると、一〇〇万円が相当であるから、被告Y1及び被告Y2は、原告に対し連帯して一〇〇万円を支払う義務がある。

(3)  結論

よって、原告は、被告Y1に対し、二四五万六一〇七円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一三年一〇月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告Y1及び被告Y2に対し、連帯して一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一三年一〇月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)について

ア アのうち、原告運転の自転車が、被告Y1運転の自動車に衝突され、その場に転倒し、原告が全治約六か月間を要する傷害を負ったことは否認するが、その余は認める。

原告運転の自転車と被告Y1運転の自動車とは、もう少しで接触するという直前の状態まで接近したにすぎない。

イ イは否認する。

ウ ウのうち、<1>の原告の青梅市立総合病院への搬送・治療及び沢井診療所への通院の事実は知らない。その余は全部否認する。

エ エのうち、原告が自賠責保険からの保険金一〇〇万三二四五円を受領したこと及び被告Y1が一〇〇万円を支払って原告と示談したことは認めるが、その余は否認する。原告が受領した上記保険金の額は、正確には一〇八万四四七五円である。

オ オは争う。

(2)  同(2)について

ア アのうち、被告Y1が平成一二年三月二四日に行われた身代わりを立てる話合いに加わったことは否認するが、その余はおおむね認める。ただし、被告Y1及び被告Y2は、被告Y1が実際には交通事故を起こしていないのに、起こしたと誤信したものである。

イ イは否認する。

ウ ウは争う。

(3)  同(3)について

争う。

四  被告らの主張

(1)  被告Y1運転の自動車は、原告運転の自転車に衝突していない。

原告は、自転車に乗って二匹の犬を散歩させながら片手運転をしており、被告Y1運転の自動車の至近への接近に驚いた二匹の犬に引っ張られて転倒し、受傷した可能性がある。

(2)  原告は、ありもしない衝突事故、受傷及び損害を主張して、一銭でも多くの金員を賠償名下に取得しようとしているものである。

仮に、被告Y1に損害賠償責任が認められるとしても、原告の損害は、青梅市立総合病院の診断に従って、事故発生から二週間以内のものに限って認容されるべきである。

(3)  弁済

ア Eは、被告Y2と株式会社友達を共同経営し、「オートパーク」という店を営業しているところ、前記交通事故発生後、被告Y2のため、原告の息子で代理人であるFに対し、数回にわたり、損害賠償金として合計約六〇万円ないし七〇万円を支払った。

イ このほか、Eは、平成一二年七月二八日、被告Y2のため、原告の代理人であるFに対し、損害賠償金として一〇〇万円を支払った。

五  被告らの主張に対する認否

(1)  被告らの主張(1)、(2)は否認する。

(2)  同(3)アのうち、Eが平成一二年八月七日の数週間前及び同月七日に、被告Y2のため、原告の息子で代理人であるFに対し、損害賠償金としてそれぞれ一五万円ずつ支払ったことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一被告Y1に対する交通事故等に基づく損害賠償請求

一  交通事故の発生、交通事故の場合の措置義務違反

(1)  甲一から二七、四六、四七、原告本人、被告Y1本人の各供述を総合すれば、次の事実が認められる。

ア 被告Y1は、平成一二年三月一八日午前三時ころからスナックで焼酎の水割りを五杯くらい飲んだ後、同日午前四時三五分ころ、普通乗用自動車を運転し、東京都青梅市河辺町六丁目一〇番地の一先道路を小作方面から東青梅方面に向かい時速約四〇キロメートルで進行するに当たり、睡眠不足により眠気を覚え、前方注視が困難な状態に陥ったにもかかわらず、仮睡状態に陥ることなく自宅まで運転できるものと安易に考え、直ちに運転を中止せず、漫然と上記状態のまま運転を継続した。

そして、被告Y1は、同町六丁目三番地先道路を同方向に向かい進行中、仮睡状態に陥り、同町四丁目二一番地先の信号機により交通整理の行われている交差点の対面信号機が赤色の灯火信号を表示していたのを看過して同交差点内に進入し、折から同交差点出口に設けられている自転車通行帯上を右方から左方へ横断中の原告運転の自転車を前方約二四・八メートルの地点に初めて認め、制動の措置を講じたが間に合わず、自車前部を原告運転の自転車及び原告の左膝付近に衝突させて、原告を同自転車とともに路上に転倒させた(以下、この交通事故を「本件事故」という。)。

イ 被告Y1は、上記日時場所において、上記車両を運転中、本件事故を起こしたのに、直ちに車両の運転を停止して、原告を救護する等必要な措置を講ぜず、かつ、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。

(2)  被告らは、本件事故について、「被告Y1運転の自動車は、原告運転の自転車にもう少しで接触するという直前の状態まで接近したにすぎず、衝突していない。原告は、ありもしない衝突事故、受傷及び損害を主張して、一銭でも多くの金員を賠償名下に取得しようとしているものである。」旨主張し、これに沿う趣旨の乙一の一・二、二の一・二の投書を援用する。

しかし、被告Y1は、前記(1)の事実に係る業務上過失傷害及び道路交通法違反並びに後記第二の一アの事実に係る犯人隠避教唆の刑事事件においては、捜査段階から一貫して、被告Y1運転の自動車が原告を自転車ごとはねて路上に転倒させたことを認めているのであり(甲二一、二四から二七)、上記衝突には目撃者(G)もおり(甲八)、しかも、被告Y1運転の自動車の前部バンパー前面下部右側空気取入口の中央寄りの部分の損傷と原告運転の自転車の左側ペダル及びペダルキャップの損傷とは、位置・大きさが一致し、かつ、被告Y1運転の自動車の前部バンパー前面左側の黒色モール上の擦過痕及び黄色塗料痕付着部と原告運転の自転車の前輪泥除けの凹損及び擦過痕とは、位置・大きさが一致している(甲七)のであるから、誰が、いつ、どのような目的で作成したものか明らかでない前記投書(これに関して原告本人が述べるところも、結局は推論である。)をもって、前記(1)の認定を覆すことは到底できず、ほかにこれを覆すに足りる証拠はない。

したがって、被告らの上記主張は採用の限りでない。

二  被告Y1の責任

前記一(1)の認定事実によれば、本件事故は、被告Y1において、睡眠不足により眠気を覚え、前方注視が困難な状態に陥った時点で、直ちに運転を中止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と上記状態のまま運転を継続した過失並びにその結果、前方を注視し、信号機に従って進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と進行した過失により、直前になって青信号に従い自転車横断帯上を自転車に乗って横断中の原告に気づき、制動の措置を講じたが間に合わず、自車前部を原告運転の自転車及び原告の左膝付近に衝突させたものであり、被告Y1には、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償する責任がある。

他方、原告には、本件事故発生につき過失がないことは明らかである。

なお、甲五〇によれば、被告Y1が本件事故の際に運転していた車両は、Eが所有していたことが認められるから、被告Y1は上記車両の保有者ではない。

三  原告の損害

(1)  治療費等 二一万八九五〇円

ア 甲二八から三三、三四の一・二、三六、三七の一・二、三八、三九、四七及び原告本人の供述によれば、原告は、本件交通事故により、左膝打撲(当初診断)の傷害を負い、青梅市立総合病院に搬送され、実日数二日の治療の後、青梅市内の沢井診療所に平成一二年三月二一日から同年九月一八日まで通院し(通院実日数六九日)、また、同市内の再春堂薬局から、同年三月二一日から同年八月一日まで投薬等を受けたこと、原告は、これらの通院等により、次の治療費等合計二一万八九五〇円を要したことが認められる。

<1> 青梅市立総合病院

治療期間 平成一二年三月一八日から同月二一日まで

治療費三万五三九〇円 診断書料六三〇〇円

<2> 沢井診療所

治療期間 同年三月二一日から同年五月三一日まで

治療費 四万七四七〇円 診断書料六〇〇〇円

治療期間 同年六月一日から同年八月一五日まで

治療費 四万〇八一〇円 診断書料六〇〇〇円

治療期間 同年八月一七日から同年九月一八日まで

治療費 一万〇七九〇円

治療期間 同年三月二一日から同年九月一八日まで

診断書料二万一〇〇〇円

<3> 再春堂薬局

治療期間 同年三月二一日から同年五月三一日まで

治療費 二万四七六〇円 診断書料三〇〇〇円

治療期間 同年六月五日から同年八月一日まで

治療費 一万四四三〇円 診断書料三〇〇〇円

<4> 以上合計 二一万八九五〇円

治療費 一七万三六五〇円

診断書料四万五三〇〇円

イ 被告らは、仮に、被告Y1に損害賠償責任が認められるとしても、原告の損害は、青梅市立総合病院の診断に従って、事故発生から二週間以内のものに限って認容されるべきである旨主張する。

しかし、甲四、三一から三三、三七の一・二、四六及び原告本人の供述によれば、原告が青梅市立総合病院において左膝打撲により加療約二週間を要する旨診断されたのは、本件事故の三日後(平成一二年三月二一日)で、原告は、同病院では応急的な手当だけを受けたものであること、原告は、被告Y1運転の自動車に左膝付近を衝突され、路上に転倒したことにより、肩、首、腰、左足等に痛みやしびれを生じ、同年三月二一日、青梅市沢井二―八五〇所在の沢井診療所において、頸椎捻挫、左膝打撲の診断を受け、同日から同年九月一八日まで、温熱療法、電気治療等を受けたこと、原告が沢井診療所に転医した理由は、青梅市立総合病院が診察まで非常に長く待たされるのに対して、沢井診療所は、原告宅から青梅線で五つ先の沢井駅の駅前にあるが、乗車時間は一五分であり、電話予約が取れ、待ち時間なしに受診できるからであることが認められ、これらの事実と本件事故の態様等にかんがみると、原告の前記治療は、本件事故と相当因果関係があるものというべきである。

その他、原告の本件事故による損害を事故発生から二週間以内のものに限定すべき合理的理由はないから、被告らの上記主張は採用できない。

(2)  休業損害 二一六万七七〇二円

甲四〇から四七及び原告本人の供述によれば、原告は、本件事故による通院等のため、請求原因ウ<3>記載のとおり、二一六万七七〇二円の休業損害を被ったことが認められる。

(3)  慰謝料 一四〇万円

原告が平成一二年三月一八日から同年九月一八日まで通院治療を受けたこと(通院実日数七〇日)、本件事故が被告Y1の飲酒の上での一方的過失に基づくものであること、被告Y1が本件事故を起こしたのに、原告を救護等せずに現場から逃走したことは前記認定説示のとおりである。

ところで、原告は、上記通院による慰謝料と救護措置を講じなかったことによる慰謝料とを分けて請求しているが、被告Y1の上記措置義務違反は、上記事故発生の原因等と相まって、原告の通院慰謝料の増額事由となるものと扱うのが相当であるから、当裁判所は、これらの事情を総合考慮して、原告の通院慰謝料を一四〇万円と定める。

(4)  損害のてん補 二〇八万四四七五円

請求原因(1)エのうち、原告が自賠責保険からの保険金一〇〇万三二四五円を受領したこと及び被告Y1が一〇〇万円を支払って原告と示談したことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、甲三五、四七及び原告本人の供述によれば、原告が受領した上記保険金の額は、正確には一〇八万四四七五円であることが認められる。

(5)  まとめ

以上の原告の損害合計三七八万六六五二円から上記損害のてん補二〇八万四四七五円を控除すると、一七〇万二一七七円となるから、被告Y1は、原告に対し、本件事故による損害賠償として一七〇万二一七七円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一三年一〇月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第二被告らに対する犯人隠避教唆に基づく損害賠償請求

一  甲一から二七、四六、四七、原告本人の供述によれば、次の事実が認められる。

ア  被告Y1は、被告Y2及びBと共謀の上、被告Y1が起こした本件事故及びその後の救護等措置違反が罰金以上の刑に当たることを知りながら、上記刑事事件の処罰を免れようと企て、被告Y1がBに対し同事件の身代わり犯人となってくれる者を捜すことを依頼し、その報酬として五〇万円を支払い、BがCに対しその中から一五万円を支払った上、平成一二年三月二四日午後九時ころ、東京都西多摩郡瑞穂町大字箱根ヶ崎七一六番地先路上に駐車中の普通乗用自動車内において、B及び被告Y2がCに対し、「Y1が事故を起こした時に乗っていた車は、Cがオートパークから借りて乗っていたことにしてくれ。その車は、代車として三月五日に借りたが、Y1が事故を起こした三月一八日より前に盗まれたことにしておいてくれ。」などと申し向け、被告Y1がひき逃げ事故を起こした車両をCがオートパークから借りて使用し、その後盗難に遭ったことにしてくれるよう依頼し、Cをしてその旨決意させ、同年三月二九日午後七時一〇分ころ、東京都青梅市<以下省略>の三警視庁青梅警察署において、上記業務上過失傷害及び道路交通法違反事件の取調べに当たった同署司法警察員巡査部長D外一名に対し、上記依頼に沿う虚偽の申立てをさせ、犯人隠避を教唆した。

イ  被告Y1及び被告Y2らの上記犯人隠避教唆によって、警察の本件事故に対する捜査が著しく遅れ、被告Y1が警察に逮捕されたのは、本件事故から約三か月半が経過した平成一二年七月四日であった。

この間、原告は、本件事故による左腰から左足、首筋などの痛みのほか、本件事故を起こした犯人がなかなか逮捕されないこと並びに棚澤商会の勤務をしばしば早退等したり、「たぬき」をたびたび閉店するなどしていたことから、精神的に不安になり、不眠になるなどした。

そして、原告は、このような心身の苦痛を押して、取調べや実況見分の立会等のため、警察に少なくとも五回通わなければならなかった。

二  以上認定の事実によれば、原告は、被告らの上記犯人隠避教唆によって、本件事故を起こした真犯人の逮捕が遅れ、被告Y1が逮捕されるまでの約三か月半の間、著しい不安感、焦燥感、失望感等の精神的苦痛を被ったものというべく、被告らの上記犯罪行為と原告の精神的苦痛との間には相当因果関係があるというべきである。

そこで、当裁判所は、これらの事情を総合考慮して、原告の被告らに対する犯人隠避教唆に基づく慰謝料を五〇万円と定める。

三  損害のてん補

(1)  被告らの主張(3)アのうち、Eが平成一二年八月七日の数週間前及び同月七日に、被告Y2のため、原告の息子で代理人であるFに対し、損害賠償金としてそれぞれ一五万円ずつ支払ったことは、当事者間に争いがない。

しかし、EがFに対し、損害賠償金として、上記三〇万円のほか、約三〇万円ないし四〇万円を支払ったことについては、これを認めるべき証拠がない。

(2)  被告らは、そのほか、Eが、平成一二年七月二八日、被告Y2のため、原告の代理人であるFに対し、損害賠償金として一〇〇万円を支払った旨主張し(被告らの主張(3)イ)、乙五にはこれに沿う記載部分があるが、甲四七及び原告本人の供述によれば、乙五の領収証は、Fがオートパークを訪れ、Eと本件事故等について交渉するうち、Eが、「示談金の領収証を書いてくれれば強制保険に請求できるから、領収証を書いてくれ。」などと言ったので、未受領ではあったが、Eの言うがままに一〇〇万円の領収証を作成し、ただし書欄に「示談金受領分として」と記載して、Eに交付した書面であることがうかがわれる(現に乙五には、自動車保険料率算定会立川調査事務所の受付印が押されている。)から、乙五をもって上記一〇〇万円の支払を証する証拠ということはできず、ほかに上記一〇〇万円の支払を認めるに足りる証拠はない。

四  まとめ

以上によれば、被告Y1及び被告Y2は、原告に対し、犯人隠避教唆による損害賠償として、連帯して二〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一三年一〇月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三結論

よって、原告の被告Y1に対する損害賠償請求は、一七〇万二一七七円及びこれに対する平成一三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、原告の被告Y1及び被告Y2に対する損害賠償請求は、連帯して二〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容するが、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本和夫)

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