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東京地方裁判所八王子支部 平成14年(わ)414号 判決 2003年2月04日

主文

被告人を懲役3年以上5年6月以下に処する。

未決勾留日数中250日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,少年であるが,

第1東京都東村山市内のゲートボール場内において,A(当時55歳)が,既にBらから暴行を受けていたことを知りながら,上記Bらと共謀の上,平成14年1月25日午後10時30分ころから同日午後11時10分ころまでの間,上記ゲートボール場内において,上記Aに対し,こもごも,その頭部,腹部等を角材様のもの等で多数回殴打したり,足げにし,さらに,その頭部を一升瓶で殴打し,その身体に石油ストーブを投げつけたほか,その身体に金属製ロッカーを押し倒して同人を下敷きにし,その上に乗って同人を強圧するなどの暴行を加え,上記一連の暴行によって,同人に全身打撲等の傷害を負わせ,よって,同月26日午前零時8分ころ,同市内の病院において,同人を上記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させた

第2上記B,D及びEと共謀の上,F(当時48歳)及びG(当時54歳)から金員を喝取しようと企て,同月25日午後10時40分ころ,上記ゲートボール場において,上記F及びGに対し,被告人において,叩き割った一升瓶を示し,こもごも「金持ってるか。」「銀行強盗でもしてお金を持ってこい。」「金出せ。」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,もしその要求に応じなければ上記Fらの生命,身体等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して両名を畏怖させ,よって,そのころ,同所において,上記Fから現金1000円の,上記Gから現金約250円の交付をそれぞれ受けてこれを喝取したものである。

(補足説明)

被告人は,判示第1の犯行に及んだ際には,Bら共犯中学生が既に被害者に対して暴行を加えていたことは知らなかったと当公判廷において弁解するが,被告人の当公判廷における供述,証人D及びEに対する当裁判所の各尋問調書等によると,被告人は,犯行現場に到着した際,Dらから,図書館でEが被害者に殴打されるなどしたため,被害者を痛めつけた旨聞かされたほか,被告人自身も被害者の歯が血に染まっているのを現認していたこと等が認められ,このような諸事実を総合すると,被告人が犯行に加担する前に,既にBら共犯中学生が被害者に対して暴行を加えていたことを認識していたことは明らかというべきであり,被告人の上記公判弁解は信用することができない。

なお,被告人は,判示第1の犯行について,被告人が電話でCに対して,「面白いぞ」と発言したことはないし,被告人自身が,被害者をパイプ椅子で殴打したり,被害者の臀部を木の棒で突いたこともなく,被害者を下敷きにした金属製ロッカー上に,「乗れ。」と号令をかけたこともない旨,判示第2の犯行については,Gらに対し,金銭の要求をしたことはないし,叩き割った一升瓶を示したこともない旨当公判廷において弁解する。しかしながら,判示第1の犯行については,被告人が,Cに電話で「面白いぞ」などと発言した点については,共犯中学生のD,E,Bが明確に供述しているほか,被告人も捜査官に対してこれをほぼ認める供述をしていること,被害者をパイプ椅子で殴打した点については,被告人が捜査・公判を通じてこれを否定しているが,共犯中学生のDがこれを明確に証言しているだけではなく,同じく共犯中学生のEも同様の指摘をしていること,被害者の臀部を木の棒で突いた点については,共犯中学生のD及びBが供述しているほか,被告人も捜査官に対してその旨自白していること,被害者を下敷きにした金属製ロッカー上に,「乗れ。」と号令をかけた点については,共犯中学生のD,Bが供述しているほか,被告人も捜査官に対してその旨自白していることなどからして,被告人の公判弁解は信用性に欠け,これらの行為を被告人が敢行したことは動かし難い事実といわなければならない。次に,判示第2の犯行について,被告人は,被害者らに対し,金銭の要求をした点については,共犯中学生のD,Eがその旨証言するほか,被告人も捜査官に対してその旨自白していること,叩き割った一升瓶を示した点については,共犯中学生のDがその旨証言しているほか,被告人も捜査・公判を通じて,判示第2の犯行時に叩き割った一升瓶を手にしていたことを自認していることなどを総合すると,被告人がこれらの行為に及んだことは明らかというべきである。

(量刑の事情)

本件は,被告人を含む少年ら多数により敢行されたいわゆるホームレスの被害者に対する傷害致死及びホームレスの被害者に対する恐喝の事案である。

本件各犯行の概要は,以下のとおりである。

被害者Aは,本件ゲートボール場で寝泊まりしながら,東京都東村山市内の図書館に出入りしていたところ,平成14年1月24日,同図書館において,Bら中学生グループが騒いだため,同図書館職員とともに,これを注意したほか,この注意に従わなかったEの顔面を殴打するなどした。これに憤慨したBら中学生グループは,被害者が本件ゲートボール場で寝泊まりしていることを知り,報復することにして,本件ゲートボール場において,被害者Aに対して,翌25日午後6時ころから6時25分ころまでの間,石を投げつけ,その顔面を殴打し,その腹部等を足でけるなどし,その後,同日午後7時58分ころから8時25分ころまでの間,その身体を角材様のもので殴打し,足でけるなどしてから,塾に行くなどのためにその場を去った。そして,Bら中学生グループは,同日午後10時18分ころから,再び本件ゲートボール場に赴き,被害者Aに対し,その身体を角材様のもので殴打していると,同日午後10時30分ころ,付近を通りかかった被告人に対して,被害者Aに暴行を加えるに至った経緯及び既に被害者に暴行を加えたこと等を説明した。そこで,被告人は,Bら中学生グループに加わって,金属製ロッカーを背にして座り込んでいた被害者Aの顔面を殴打したり,その身体を角材様のもので殴打するなどした。また,被告人は,被害者Aのホームレス仲間である被害者F,同Gから金員を脅し取ろうと考え,被害者Fらに対して,叩き割った一升瓶を示したり,「金持ってんのか。」,「持ってるなら出せよ。」などと言ったほか,Bら中学生グループも同様に金員を要求し,被害者Fから現金1000円を,被害者Gから現金約250円をそれぞれ脅し取った。その後,被告人は,Cに対し,「Dたちがホームレスか乞食をボコっている。」,「面白いぞ,ゲートボール場に来い。」などと電話で連絡し,同日午後10時50分ころ,本件ゲートボール場に到着したCに対して,被害者Aに暴行を加えていることやその経緯の概要を説明し,これを受けてCも被害者Aに対する暴行に加担することになって,判示の暴行に及んだものであり,被告人自身は,被害者Aに対して,パイプ椅子でその身体を殴打し,一升瓶でその頭部を殴打し,ライターでその頭髪に火をつけ,その身体の上に倒された金属製ロッカー上に「乗れ」とかけ声をかけるとともに,率先して上記ロッカー上に乗って,共犯者とともに被害者Aを強圧したほか,その背中に木の棒を差し込んで,棒の両端をCとともに持ち上げて,被害者Aを運ぶなどしたり,木の棒でその臀部を突くなどした。その結果,被害者Aは,被告人らの一連の暴行により全身打撲等の傷害を負わされ,被告人らからはそのまま放置された末,判示のとおり,死亡するに至った。その後,被告人らは,被害者Aが死亡したことを報道等により知ったが,翌26日には,中学生の共犯者らが警察署に出頭して,本件犯行を供述していたのに,被告人は,Cとの間で,被害者Aには暴行を加えていないことにしようと口裏合わせを行い,警察署に出頭して虚偽の弁解をしていたため,同月29日,逮捕されるに至った。

以上の事実関係によると,判示第1の犯行の動機は,中学生の共犯者らが意趣返しの目的で被害者に暴行を加えているのに安易に同調したというのであるが,犯行の途中からは,被害者に暴行を加えること自体を楽しんでいたふしもうかがわれ,犯行の動機には酌量すべき余地は皆無であり,また,犯行の態様等を検討すると,共犯者らの暴行により既に全く抵抗できない状態にあった被害者に対して,一方的に執拗な攻撃を加えており,パイプ椅子で殴打したり,ついには,被害者を下敷きにした金属製ロッカーの上に全員で乗って,被害者を強圧するに至っており,戦慄を禁じ得ない熾烈極まりない攻撃と評価するほかはなく,犯行後も,重傷の被害者に対して救護等の措置を講じないで,これをそのまま放置して立ち去っており,被害者に対する思いやりや人間性を全く無視した冷酷で非道な犯行といわざるを得ない。被害者は,中学生共犯者らの図書館における常軌を逸した非常識な言動を注意したことから,理不尽にも,暴力の標的とされ,甚だしい苦痛や恐怖にさらされた末,貴重な生命を一方的に奪われてしまったのであり,その無念さは明らかである上,長期間にわたって音信不通の状態にあったとはいえ,その行方を探し求めていた被害者の遺族は,このように残酷極まりない結果を知らされて,その心痛は甚だしく,本件犯行の結果はまことに重大である。しかも,本件犯行が社会に与えた影響は深刻であり,近時は類似した事件の発生も伝えられており,一般予防の見地も軽視することはできない。なお,判示第2の恐喝の犯行についても悪質な事案であることはいうまでもないところである。

被告人は,Cとともに年長者であり,被害者に暴行を加えていた中学生の共犯者らの判示第1の犯行を制止すべき立場にありながら,これに同調して判示第1の犯行に加担したばかりか,被告人らの加担後の暴行は一層熾烈さを増して,ついには被害者を死亡させるに至っているのであって,被告人が判示第1の犯行で果たした役割を過小に評価することは許されず,中学生の共犯者らにおいては,被害者の死亡の事実を知って,自発的に警察署に出頭し,自ら犯罪内容を供述しているのに対して,被告人はCと口裏合わせを行って,自己の責任を免れようとしており,このような犯行後の被告人の行動は卑劣極まりないことに加えて,上記のとおり,判示各犯行の悪質さや結果の重大さ等を総合すると,被告人の刑責は甚だ重いというほかはない。

そうすると,判示第1の犯行の経緯等にかんがみると,被害者Aにもやや不適切な点があったことを否定できないこと,被告人の両親が被害者の遺族に対して現金50万円を支払うなど,それなりの慰謝の措置を講じていること,被告人は,概ね自己の犯行を率直に認めており,反省の態度を深めているとうかがわれること,本件犯行により,長期間に及ぶ身柄の拘束を受け,進学した高校にも通学できなかったほか,本件犯行が社会に広く報道された結果,厳しい社会的非難を受けるなどしており,一定の社会的制裁を受けたとも思われること,被告人には前科前歴がなく,未だ人格形成途上の未成年者であって,可塑性に富んでおり,今後の更生,社会的成熟を十分に期待することができること,実父が今後の監督,指導を誓約していること,実母が重篤な病気に罹患していること,中学生の共犯者らに対する処分状況,その他,被告人に有利な諸般の事情を勘案してみても,被告人を主文掲記の実刑に処するのが相当である。

(裁判長裁判官 大渕敏和 裁判官 鈴木秀行 裁判官 山田裕文)

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