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東京地方裁判所八王子支部 平成17年(わ)2150号 判決 2007年2月21日

主文

被告人を懲役9年に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1  A,B及びCらと共謀の上,金品を強取しようと企て,平成15年10月2日午前1時40分ころから同日午前2時50分ころまでの間,神奈川県鎌倉市<以下省略>D方に,1階東側住居兼職員出入口ドアをこじ開けて侵入し,そのころ,同人方2階において,D(当時76歳)及びE(当時72歳)に対し,その身体を押し倒し,両目,口を粘着テープでふさぎ,両手,両足を粘着テープで緊縛するなどの暴行をそれぞれ加え,同人らの反抗を抑圧し,Dほか3名所有又は管理に係る現金約4173万1250円及び金延板1個等約47点(時価合計約864万5000円相当)を強取し,その際,前記暴行により,Eに加療約2か月間を要する第1腰椎圧迫骨折,胸部打撲の傷害を負わせ,

第2  F,A,B及びCらと共謀の上,金品を強取しようと企て,平成16年3月22日午前1時20分ころから同日午前1時50分ころまでの間,横浜市<以下省略>G方に,1階南側風呂場の腰高窓の施錠を外して侵入し,そのころ,同人方2階において,就寝中のG(当時74歳)及びH(当時64歳)に対し,その両目,口を粘着テープでふさぎ,両手,両足をネクタイで緊縛し,さらに,Gの顔面を数回殴打するなどの暴行をそれぞれ加え,同人らの反抗を抑圧し,同人ほか1名所有の現金3万円及びノートパソコン1台等5点(時価合計48万円相当)を強取し,その際,前記暴行により,Gに加療約2週間を要する口腔内裂創等の傷害を負わせ,

第3  A,B及びCらと共謀の上,金品を強取しようと企て,平成16年3月31日午前2時ころ,東京都八王子市<以下省略>I方に,地下1階資材置場の北側明かり窓などの施錠を外して侵入し,そのころ,同人方1階事務所において,同人所有の現金約20万円及び腕時計2個ほか7点(時価合計8000円相当)を窃取した上,同日午前2時55分ころ,2階10畳和室において,J(当時74歳)に対し,その口などを手で押さえ,頸部を手で締めつけ,両手首をビニールひもで緊縛するなどし,2階8畳和室において,I(当時76歳)に対し,その両肩を押して,同人を布団上に仰向けに押し倒し,その身体に布団をかぶせ,頸部を手で締めつけるなどの暴行をそれぞれ加え,同人らの反抗を抑圧し,金品を強取しようとしたが,同人らの長男に見つかり逃走したため,その目的を遂げず,その際,前記各暴行により,Jに加療約10日間を要する頸椎捻挫,両手挫傷の傷害を負わせ,Iに全治約2週間を要する右前腕表皮剥離・挫創,頸椎捻挫などの傷害を負わせた。

(証拠の標目) 省略

(事実認定の補足説明)

弁護人は,判示第3の事実について,被告人は,犯行現場付近にいたことはあるものの,実行行為をしておらず,また,共犯者らとの間で,住居侵入・強盗の共謀もしていない,と主張し,被告人もこれに沿う供述をしているので,以下説明する。

C及びAの各供述等の関係証拠によれば,次の事実が認められる。①被告人は,本件犯行以前にも,判示第1,第2の犯行を含め数回にわたり,B,C及びAらと共に,民家に侵入して家人に暴行を加え,金品を強奪することを計画して実行したことがあり,その際,被告人は,民家に入って金品を強奪する実行役を担当していた。②本件犯行の数日前ころ,B,C及びAは,Bの情報を元に,本件の被害者であるI方に侵入し,家人の老夫婦を緊縛するなどした上,金品を強奪することを計画した。そして,そのころから本件前日の夜までの間に,Aが,被告人を強盗等の犯行に誘った。③本件前日の夜,B,C,Aら6名は,強盗等の犯行を実行するため,自動車でI方付近に赴き,BとCが,I方の所在を確認するなどした。④その後,「K」等と称する中国人(以下「K」という。)が電車に乗って,被告人が自動車に乗って,それぞれやって来て,Bらと合流した。被告人は,Bらと共に,I方及びその付近の下見をした上,「I方の明かりが消えたら,BとCが先にI方に入って侵入口を確保し,その後,被告人ら他の実行役の者が侵入口からI方に侵入し,強盗を行う」旨の打合せをした。⑤本件当日午前2時ころ,BとCは,侵入口を確保するため,見張り役のAと共にI方に行き,北側明かり窓の施錠を外してI方地下1階に侵入した。Bらは,1階につながる玄関ドアが施錠されていたため,いったん戸外に出て,Kを呼び出して,1階の窓の施錠を外させ,I方1階に侵入し,玄関ドアの施錠を外して侵入口を確保した。⑥見張りをしていたAは,I方付近に人が集まってきたのを見て,犯行が発覚する危険を感じ,Bらに電話をかけて犯行をやめるように言った後,Bらが犯行をやめることを了承していないのに一方的に電話を切り,被告人,Kと共に自動車で現場付近から立ち去った。⑦BとCは,I方を出て,残っていた3名と合流し,予定どおり強盗等の犯行を実行することを確認し合った上,同日午前2時55分ころ,I方に侵入し,強盗等の犯行に及んだ。以上のとおりである。

共犯者であるC及びAの各供述は,①不自然,不合理な点がなく,捜査・公判を通じて,おおむね相互に符合しており,被害者らの供述とも合致していること,②被告人が犯行を実行したくないかのような言動をした,と供述するなど,被告人に責任を押し付ける内容ではないことなどに照らすと,いずれも信用性が高い。また,共犯者であるBの供述は,被告人らが現場付近からいなくなった時期等について,Cらの供述と異なる点があるものの,大筋においては,Cらの供述と同旨の内容である。

被告人自身も,捜査段階では,「本件前日の夜,Bらが計画した強盗等の犯行に誘われたので,I方付近に行った,同人らと合流して一緒に行動し,同人の指示があればI方に侵入して強盗するつもりで,自動車内で待機していた。」などと,Cらの供述に沿う内容の供述をしている。被告人は,公判で,「捜査官から,共犯者の3人が全部認めているから,否認しても通らない,旨言われて,自暴自棄になり,また,根負けして自白した。」などと弁解するが,被告人の捜査段階供述は,被告人に有利な内容も含まれており,捜査官が不当な働きかけをしたり,通訳が不正確であったような事情はうかがわれない。任意性があることに疑問の余地はなく,信用性も高い。

前記認定のとおり,被告人は,Bらと共に,現場の下見をし,強盗等の犯行についての打合せをした上,BらがI方に侵入する犯行を開始した後は,後からI方に侵入して強盗を実行するつもりで自動車内に待機していたのであるから,被告人は,遅くとも,犯行の開始直前には,共犯者らとの間で,住居侵入・強盗の共謀を遂げていた,と優に認めることができる。なお,被告人が,犯行開始前に犯行を実行することについて消極的な言動をしたことがあるにしても,結局は,強盗等をすることについて賛成し,共犯者らが実行に及んでいるのである。被告人が当初消極的な言動をしたからといって,共謀の成立を妨げるものではない。また,被告人は,共犯者らが犯行に着手した後,自らは犯行に及ぶことなく現場を離れているが,被告人が犯行をやめることについて,Bら共犯者が了承した事実はないし,共犯者らが犯行を実行するのを防止する措置を講じてもいないのであるから,被告人とBらとの共犯関係が解消されたとも認められない。

これに対し,被告人は,公判では,I方付近に来るまで強盗等の犯行の計画を聞かされたことはなく,現場でその計画を聞かされて,その情報に疑問を感じ,下見にも参加せず,打合せの時にその計画に反対する意見を述べ,Bらに犯行をやめるように連絡し,自分は先に帰った,などと,強盗等の共謀をしたことを否認する供述をしている。しかし,被告人の公判供述は,信用することができるCらの供述や,被告人自身の捜査段階供述と大きく異なっている上,被告人が,現場で強盗の計画を聞かされたというのに,直ちに立ち去るどころか,現場付近で,長時間共犯者らと行動を共にしていることなどに照らすと,到底信用することができない。

(確定裁判)

被告人は,平成17年3月4日東京地方裁判所八王子支部で建造物侵入,強盗,出入国管理及び難民認定法違反の各罪により懲役5年6月に処せられ,その裁判は,同月19日確定したものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。

(法令の適用)

被告人の判示第1及び第2の各所為のうち,各住居侵入の点はいずれも刑法60条,130条前段に,各強盗致傷の点はいずれも同法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法240条前段(平成16年法律第156号附則3条1項による。また,有期懲役刑の長期は,行為時においては同法による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第3の所為のうち,住居侵入の点は刑法60条,130条前段に,Iに対する窃盗及び強盗致傷の点は,包括して同法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法240条前段(平成16年法律第156号附則3条1項による。また,有期懲役刑の長期は,行為時においては同法による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,Jに対する強盗致傷の点は,刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法240条前段(平成16年法律第156号附則3条1項による。また,有期懲役刑の長期は,行為時においては同法による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)にそれぞれ該当するところ,判示第1及び第2の各住居侵入と各強盗致傷との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により判示第1及び第2をそれぞれ1罪としていずれも重い強盗致傷罪の刑で処断することとし,判示第3の住居侵入とI及びJに対する各強盗致傷との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により結局判示第3を1罪として刑及び犯情の最も重いIに対する強盗致傷罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示各罪についていずれも有期懲役刑を選択し,以上の各罪と前記確定裁判があった罪とは同法45条後段により併合罪の関係にあるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし,なお,判示各罪もまた同法45条前段により併合罪の関係にあるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示第1の罪の刑に平成16年法律第156号による改正前の刑法14条(加重の限度は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法14条に,裁判時においてはその改正後の刑法14条2項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役9年に処し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,約半年の間に,神奈川県及び東京都内において,仲間と共に,住居侵入・強盗致傷3件を敢行した,という事案である。

本件は,被告人が,中国人を中心とするグループの者らと共に,3回にわたり,多額の現金等を保管している民家の情報を入手して,侵入道具や緊縛道具等を用意するなどの周到な準備をした上,自動車の運転,見張り,犯行の実行などの役割を分担し,バールで窓ガラスを割るなどして,目当ての民家に侵入し,数人がかりで家人の身体を押さえつけ,粘着テープ等で目や口をふさぎ,手足を緊縛するなどの手荒で激しい暴行を加え,バールで金庫をこじ開けるなどして,現金や高価なブランド品等を持ち去ったというものである。組織的,計画的かつ職業的犯行であり,犯行態様は粗暴で,悪質である。本件各犯行による財産的被害は,現金合計約4190万円,物品価額合計約910万円相当と高額に上る。その上,いずれの犯行においても,高齢者を含む合計6名の被害者に対して強度の暴行を加え,そのうち4名には加療約2か月間ないし10日間を要する傷害を負わせている。各被害者が被った肉体的苦痛,精神的衝撃,恐怖感等や,財産的損害は,甚大である。被害者の中には,犯行後相当期間が経過しても恐怖感や不安感に苛まれている者もおり,各被害者はいずれも被告人らに対する厳重処罰を望んでいる。これに対し,被告人は,各被害者に対する慰謝や損害賠償の措置を全く講じていない。現金の被害は全く回復されておらず,物品の被害は,判示第1の犯行による被害品の一部が発見されており,それが回復されたと推測されるにすぎない。

被告人の役割等についてみると,被告人は,いずれも実行役として本件各犯行に加わり,判示第1,第2の各犯行では,同じ実行役の共犯者と共に,バール等でこじ開けられたドア等から住居内に侵入し,家人の身体を押さえつけるなどの暴行を加えたり,室内を物色して金品を探し出したりするなどの役割を担当している。被告人は,首謀者とはいえないものの,本件各犯行において,重要かつ不可欠な役割を果たしている。そして,被告人は,その供述するところによっても,判示第1の犯行により,各共犯者とほぼ同等である600万円という高額の分け前を手にしている。被告人の刑事責任は,相当に重い。

他方,被告人が,判示第1,第2の各犯行について,事実を認めて反省の態度を示していること,判示第3の犯行では,犯行の発覚を恐れて途中で現場を離れたため,被告人自身は住居侵入・強盗の実行行為をしていないこと,前記確定裁判に係る建造物侵入,強盗等の罪以外には,本邦における前科がないこと,本国に被告人の家族がいることなどの酌むべき事情のほか,前記確定裁判に係る建造物侵入,強盗等の罪について,懲役5年6月に処せられていることが認められる。

そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。

(求刑 懲役12年)

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