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東京地方裁判所八王子支部 平成2年(ワ)1560号 判決 1991年9月24日

原告 二羽義弘

原告 二羽文子

原告ら訴訟代理人弁護士 安藤良一

同 仲沢和人

原告ら訴訟復代理人弁護士 野々山哲郎

被告 日浦陸雄

被告 株式会社 大道建設

右代表者代表取締役 山本訓之

被告ら訴訟代理人弁護士 楢原英太郎

同 染井法雄

主文

一  被告らは各自、

1  原告二羽義弘に対し、金四五四万七九七二円及びこれに対する平成二年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

2  原告二羽文子に対し、金四一六万七九七二円及びこれに対する平成二年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

「被告らは各自、原告二羽義弘に対し金三五六八万〇八八八円、原告二羽文子に対し金三四五八万〇八八八円及び右各金員に対する平成二年三月二六日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告ら

「原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

(事故の発生)

1 平成二年三月二六日午後一〇時三五分頃東京都秋川市平沢東一丁目二番地先の道路上において、道路左側に駐車中の普通貨物自動車(八王子一一さ三九一三、以下、被告車という)の後部荷台右側角に、多摩橋方面から八王子市方面に進行中の二羽弘運転の原動機付自転車(秋川市い四七四八、以下、原告車という)が衝突し、同人は下顎部頚部打撃による頚椎骨折の傷害に基づき同日午後一一時一三分青梅市立総合病院で死亡した。

(被告らの責任)

2 被告日浦陸雄は被告株式会社大道建設(以下、被告会社という)の工事部長であった者であるが、同日午後八時頃、本件事故現場の道路左脇にある同会社の資材置場兼駐車場から、右事故現場に被告車を運転して持ち出して駐車させていたものであり、本件事故現場付近の道路は、東京都公安委員会により終日駐車禁止の道路に指定されており、しかも、被告日浦は、被告車の尾灯及び非常点滅表示灯も点灯しないで左側端に寄せずに同車を違法に駐車させていたものであり、同被告は同車を通勤にも使用していた関係でこのような駐車を常時繰り返していたものである。したがって、同被告は、本件事故発生を未然に防止すべき注意義務を遵守していないから、本件事故は同被告の過失により発生したものであり、民法七〇九条により、本件事故により発生した損害を賠償する義務がある。また、被告会社は被告車を、本件事故当時自己のために運行の用に供していた者であるから自賠法三条本文により、被告日浦と連帯して右事故により発生した損害を賠償すべき義務がある。

(損害額)

3 弘は、本件事故により次のとおりの損害を被った。

(一) 治療費 一万三八六四円

(二) 逸失利益 三九三七万四三四二円

弘は、昭和四八年一月一七日生まれの健康な男子で、本件事故当時東京都立福生高等学校第二学年に在学中の学生であり、平成三年三月同高校を卒業すれば以後四九年間稼働することができるから、昭和六三年賃金センサスにより同人の一年間の収入を四五五万一〇〇〇円と推定し、生活費控除を五〇パーセントとして年別ライプニッツ計算法により、同人の得べかりし利益の本件事故時の現価を計算すると、標記の金額となる。

算式 四、五五一、〇〇〇×(一八・二五五九-〇・九五二三一)×〇・五

(三) 慰藉料 一六〇〇万円

(原告らの相続及び固有の損害)

4 弘は原告ら夫婦の間の長男であるから、原告らは弘の被告らに対する前項の損害賠償債権をそれぞれ二分の一の割合で相続して取得した外に、次のとおりの固有の損害を被った。

(一) 原告二羽義弘が支出した葬儀費用 一〇〇万円

(二) 原告らの固有の慰藉料 各一〇〇〇万円

(損害の填補)

5 原告らは、被告車加入の自賠責保険会社である大正海上火災保険株式会社から同保険金一二五一万三八六四円を受領したので、これをそれぞれ二分の一の割合で損害金の填補に充てると、原告らの損害賠償債権の残額は、原告義弘につき三二四三万七一七一円、原告文子につき三一四三万七一七一円となる。

(弁護士費用)

6 原告らは、原告ら訴訟代理人らに対し本件訴訟の提起・追行を委任し、次のとおりの報酬をそれぞれ支払うことを約束した。

(一) 原告義弘分 三二四万三七一七円

(二) 原告文子分 三一四万三七一七円

(請求)

7 よって、被告らに対し、連帯して、原告義弘は損害金三五六八万〇八八八円、原告文子は損害金三四五八万〇八八八円及び右各金員に対する本件事故発生日である平成二年三月二六日からそれぞれ支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、被告日浦が被告会社の工事部長であり、平成二年三月二六日午後八時頃、本件事故現場の道路脇の被告会社の資材置場兼駐車場から、被告車を運転して本件事故現場に持ち出して駐車していたこと、被告会社が本件事故当時、被告車の運行供用者であったことは認めるけれども、その余の事実は否認し、主張は争う。

3  同3のうち、(一)及び(二)の事実は不知、(三)は争う。

4  同4のうち、弘が原告ら夫婦の間の長男であることは認めるけれども、(一)の事実は不知、(二)は争う。

5  同5のうち、原告らがその主張のとおりの自賠責保険金を受領したことは認めるけれども、その余の主張は争う。

6  同6の事実は不知。

7  同7は争う。

三  被告らの抗弁

本件事故現場付近の道路は、東京都公安委員会により最高速度が三〇キロメートル毎時に制限されている、車道幅員約八メートルの平坦な、直線の極めて見通しの良いアスファルト舗装の道路であり、夜間は道路左脇に約三〇メートル間隔で設置されている電柱の一本間隔置きに外灯が点灯されており、被告車の駐車位置から約一二メートル余りの距離には外灯が点灯されており、かつ、同車の直ぐ前には株式会社川辺機材の看板灯が点灯されていて、被告車は白色であり当夜は晴天であったから、かなり遠方から同車が道路脇に寄って駐車していることを容易に発見することができる。しかるに、弘は、前方注視を怠ったまま、しかも約五〇キロメートル毎時を超える高速度で原告車を運転し、ブレーキをかけずに被告車後部に原告車を衝突させたものである。したがって、本件事故は弘の原告車運転上の一方的な過失により発生したものであり、被告日浦の過失は右事故発生の原因としてはなんら寄与してはおらず、そして被告車には構造上の欠陥及び機能の障害はないから、同被告及び被告会社に原告らに対する損害賠償義務はない。

四  原告らの答弁

被告らの抗弁は争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  同2のうち、被告日浦が本件事故当時被告会社の工事部長であったこと、平成二年三月二六日午後八時頃、本件事故現場の八王子市方面に向かって左側にある被告会社の資材置場兼駐車場から、被告日浦が被告車を運転して持ち出して本件事故現場に同車の前部を同市方面に向けて駐車していたこと、被告会社が本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していた者であることは、当事者間に争いがない。しかし、被告らはその余の事実を否認し、被告会社は自賠法三条ただし書所定の免責の抗弁を主張するので、以下本件事故の発生状況についてみてみる。

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、車道幅員約八メートルの平坦なアスファルト鋪装の直線道路で、道路両側に幅員約一・四メートルの路側帯が設けてあり、中央線の表示もある。右道路は、東京都公安委員会により、最高速度が三〇キロメートル毎時に制限され、終日駐車禁止の指定がされており、非市街地に位置し、交通量は閑散である。夜間、約三〇メートル間隔で設置されている電柱の一本置きに外灯が点灯され、本件事故現場の八王子市方面寄りの直ぐ左側の株式会社川辺機材の事務所の看板灯が点灯されていたが、事故現場の直近の電柱灯は多摩橋方面寄りに約二〇メートルの位置にあり、右看板灯は被告車の蔭になって、多摩橋方面から八王子市方面に向かって進行する車両にとっては、照明効果が多少減殺されるが、前方を注視していれば、約六〇メートル手前では十分に被告車が駐車していることを確認することができる。

(二)  被告車は、長さ七・九九メートル、幅二・一七メートル、高さ二・九一メートル、最大積載量三〇〇〇キログラムのニッサンディーゼル車で、八王子市方面に前方を向けて道路左側の縁石から前輪が約三〇センチメートル、後輪が約四〇センチメートルの距離を置いて駐車されていた。

(三)  同夜は晴天であり、道路上の見通しは良く、二羽弘はかなりの高速度で、前方を十分注視せずに、道路左側中央付近を原告車を運転して進行し、衝突直前まで被告車の駐車に気付いていなかった。他方、被告日浦は、渋谷方面の工事現場に二トン車を運転して行くために、同車の道路側手前にあった被告車を被告会社の前記資材置場兼駐車場から本件事故現場である道路際に運転して持ち出したものであるが、同被告は被告車を翌二七日深更、場合によっては同日午前六時頃まで駐車して置くつもりであった。なお、被告車は、駐車中、尾灯も非常点滅表示灯も点灯していなかった。

2  右事実に徴すると、本件事故は、被告日浦が駐車禁止の道路上に、尾灯も非常点滅表示灯も点灯せずに、夜間被告車を駐車させていた過失に基づく不法行為により発生させたものと認められるから、同被告は民法七〇九条により本件事故により発生した損害を賠償すべき義務があり、また、右事故は同車の運行により発生したものとみてよいものであり、同車を本件事故現場に運転して持ち出した被告日浦に前記の過失がある以上、被告会社の免責の抗弁は理由がなく、被告会社も右事故により発生した損害を賠償すべき義務があり、被告らの右義務は不真正連帯債務の関係にある。しかし、他方、弘にも前方を十分に注視せずに、しかも、かなりの高速度で原告車を運転した過失があり、右過失も本件事故の原因として寄与していると認められる。そして、本件事故に寄与した過失の割合は、被告日浦の過失を一〇〇分の三五とすれば、弘の過失は一〇〇分の六五とみるのが相当である。

三  そこで、本件事故により発生した損害額について検討する。

1  治療費

《証拠省略》によれば、弘の死亡前に青梅市立総合病院等での治療費に一万三八六四円を要したことが認められる。

2  弘の逸失利益

《証拠省略》によれば、弘は昭和四八年一月一七日生まれの、本件事故当時東京都立福生高等学校第二学年に在学中の学生である健康な男子であったことが認められる。そして、弁論の全趣旨に社会経験則を合わせ考えると、同人は平成三年三月同高校を卒業し、就職して六七才まで四九年間稼働するものと推定されるので、同人の年収を平成元年賃金センサス・産業計・男子労働者旧中・新高卒・全年齢平均年収額四五五万二三〇〇円とみなし、生活費控除を五〇パーセントとして、年別ライプニッツ計算法により同人の逸失利益の本件事故時の現価を計算すると、三九三八万五五八九円となり、同人は本件事故により同額の損害を被ったものといえる。

算式 四、五五二、三〇〇×(一-〇・五)×(一八・二五五九-〇・九五二三)

3  原告ら慰藉料

請求原因4のうち、弘が原告ら夫婦の間の長男であることは当事者間に争いがない。そして、本件事故の態様、原告らと弘との身分関係、生活状況その他の諸般の事情を斟酌すると原告らが本件事故により被った精神的苦痛に対する慰藉料は、それぞれ九〇〇万円ずつと認めるのが相当である。

4  弘の葬儀費用

社会経験則によれば、原告二羽義弘が弘の葬儀を主宰し、その費用に一〇〇万円を支出し、同額の損害を被ったことが認められる。

四  そして、前記の本件事故における被告日浦と弘の過失割合に基づき、前項の損害額につき過失相殺により六五パーセントの減額をした金額を損害賠償額として算定するのが相当であるから、被告らに対する賠償債権額は、弘につき一三七八万九八〇八円となり、原告義弘につき三五〇万円、同二羽文子につき三一五万円となる。そして原告らは、それぞれ弘の債権を相続により、各二分の一の割合により相続して取得したから、それを合算すると、原告らの債権額は、原告義弘について一〇三九万四九〇四円、原告文子について一〇〇四万四九〇四円となる。原告らが、被告車加入の自賠責保険金一二五一万三八六四円を受領したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告らはそれぞれ二分の一ずつこれを各自の債権の弁済に充当したことが認められるから、原告義弘の残債権額は四一三万七九七二円、原告文子の残債権額は三七八万七九七二円となる。なお、本件事案の内容、訴訟の経過・難易度・前記認容額等を勘案すれば、弁護士費用は、原告義弘につき四一万円、原告文子につき三八万円と認めるのが相当である。

そうすると、被告らは連帯して原告義弘に対し、損害賠償金四五四万七九七二円、原告文子に対し損害賠償金四一六万七九七二円及び右各金員に対する事故発生日である平成二年三月二六日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきであるから、原告らの本訴請求は右の限度で理由がある。

五  以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴請求を右の理由のある限度で正当として認容し、その余の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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