東京地方裁判所八王子支部 平成9年(ワ)1306号 判決 1999年9月07日
原告
神山正隆
ほか一名
被告
工藤忠義
主文
一 被告は原告神山正隆に対し金一四七万〇三七九円、原告神山美代子に対し金一四七万〇三七九円及びこれらに対する平成六年一二月二九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告神山正隆に対し金二五四三万二〇二九円、原告神山美代子に対し金二五四三万二〇二九円及びこれらに対する平成六年一二月二九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 原告らの主張
別紙「請求の原因」のとおり(請求の原因第四項は争いがない)
二 被告の主張
本件事故は、被告車が道路左側を直進し本件交差点を通過しようとしたところ、神山卓(以下「亡卓」という。)の運転する原動機付自転車が被告車の直前で右折したために被告車に衝突したものであって、本件事故の原因は亡卓の前方不注視にある。よって、原告らの損害賠償額を算定するに当たっては大幅な過失相殺がなされるべきであり、原告らの損害は自賠責保険金の支払いによりすべて填補済みである。
第三判断
一 甲第一、第二号証、第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし二〇、第五号証、第六号証の一ないし二〇、第七ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし五、第一二ないし第一四号証、乙第一ないし第三号証、証人嶋津光延の証言、被告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
被告は、平成六年一二月二九日午後七時三三分ころ、自己の所有する普通貨物自動車を運転して東京都東久留米市南町二丁目五番先路上を田無市方面から小金井街道方面に向けて時速約四〇キロメートルで進行中、小金井街道方面から田無市方面に向けて道路の歩道寄りを対向して進行してきた亡卓(昭和四九年七月二九日生)の運転する原動機付自転車が本件交差点の手前で道路中央寄りに進路を変更したのを約一三メートル前方に認めたのであるから、自動車運転者としては対向車や前方の交差点を通行する車両の動向に注意し、安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、減速することなく、また、右折車両の動向に注意することなく漫然と運転を継続した過失により、折から同交差点を小金井街道方面から新青梅街道方面に右折しようとした亡卓運転の原動機付自転車に自車右前部を衝突させ、その衝撃で亡卓を跳ね上げて路上に転倒させ、前額、右顔面下顎骨折による脳挫傷、前胸打撲骨折により、同日午後八時一九分ころ、小平市内の公立昭和病院で死亡させた。
右認定事実によると、被告は自賠法三条により原告らの被った後記損害を賠償する責任がある。
二 前掲各証拠及び当事者間に争いのない事実によると、本件事故と相当因果関係のある損害は次のとおりである。
1 治療費 四万二一二〇円
2 文書料 三万一四一〇円
3 逸失利益
亡卓は、本件事故当時満二〇歳で大学一年生であったから、本件事故に遭わなければ、二三歳から六七歳まで稼働し、その間大学卒業者として相応の収入を得ることができたと推認することができるから、その間の得べかりし利益を平成六年の賃金センサス男子労働者新大卒全年齢平均の年収額である六七四万〇八〇〇円を基礎にし、生活費控除率を五〇パーセント、四四年間のライプニッツ係数を一五・二五七八(一七・九八一〇-二・七二三二)として計算すると、亡卓の逸失利益は次のとおり五一四二万四八八九円となる。
(計算式)
六七四万〇八〇〇円×〇・五×一五・二五七八=五一四二万四八八九円
4 葬儀費用 一二〇万円
5 慰謝料 二〇〇〇万円
6 亡卓の損害額合計 七二六九万八四一九円
7 過失相殺(五五パーセント)後の損害額 三二七一万四二八八円
前記一認定の事実及び前掲各証拠によると、亡卓にも前方不注意の過失があったことが認められるから、原告らの損害額を算定するに際しては亡卓の過失を斟酌すべきである。そして、前掲各証拠によると、本件事故は信号機の設置されたT字型交差点における直進車(被告の運転する普通貨物自動車)と右折車(亡卓の運転する原動機付自転車)との衝突事故であること、衝突時の速度は被告車が時速約四〇キロメートル、亡卓の原動機付自転車が時速約三〇キロメートルであったこと、制限速度は両車とも時速三〇キロメートルであったこと、本件交差点に進入したときの信号機の色は両車とも黄色であったこと、被告は交差点の相当手前で、道路の歩道寄りの部分を進行していた亡卓の原動機付自転車を発見しており、その後、交差点に進入した辺りで原動機付自転車が中央寄りに進路を変更したのを認めたこと、しかし、被告は衝突の態様や衝突時の状況を覚えていないこと、被告車と亡卓の運転する原動機付自転車とが衝突したのは、甲第三号証の三(実況見分調書)の<×>地点付近であったこと、亡卓は徐行することなく、被告車の直前を右折しようとしていたことなどの事実が認められるから、これらの事実を総合して考慮すると、亡卓の過失割合は五五パーセントと認めるのが相当である。
8 既払金三〇〇七万三五三〇円を控除すると、亡卓の損害額は二六四万〇七五八円となる。
9 原告らの相続額 各一三二万〇三七九円
10 弁護士費用 各一五万円
11 総合計額 各一四七万〇三七九円
三 以上によれば、原告らの本訴請求は、原告らが被告に対し不法行為に基づく損害賠償金としてそれぞれ一四七万〇三七九円及びこれらに対する本件事故の日である平成六年一二月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
請求の原因
一 原告らは、訴外亡神山卓の両親であり、その相続人(相続分各二分の一)である。
二(一) 平成六年一二月二九日午後七時三三分頃、訴外亡神山卓は、原付一種自転車を運転して東京都東久留米市南町二丁目五番地先の交差点に青信号で進入し、信号が黄信号に変わるので、対向の直進車が停止したら交差点を右折しようとして道路中央の右折する地点まで直進しようとしたが、被告が運転する対向の直進車が前方を注視せず道路の中央部を制限速度を約二〇キロメートル違反した時速約五〇キロメートルの速度で交差点に進入してきたため、神山卓が事故を回避しようとしたが、回避できず別紙事故発生状況報告書の赤線部分付近で正面衝突し、前額、右顔面下顎骨折による脳挫傷、前胸打撲により同日午後八時一九分小平市天神町二丁目四五〇番地所在の公立昭和病院で死亡した。
(二) 別紙事故発生状況報告書<1>の自動車に乗車して信号待ちをしていた目撃者は、「信号が黄色になったと同じくらいに右方から進行のワゴン車甲と左方から来た小型バイクが交差点内の×地点で衝突した」と述べている。
(三) 道路交通法三六条四項は「車両等は交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と規定しており、この「交差点における車両等の一般的注意義務」を遵守して、被告が前方を注視して制限速度で安全運転をしておれば本件事故は回避できたというべきである。
(四) 本件事故は、被告が前方を注視せず道路の中央部を制限速度を約二〇キロメートル違反した時速約五〇キロメートルの速度で交差点に進入してきたことに起因するもので、過失は全て被告にある。
(五)<1> 被告は、取調べにおいて、本件の衝突の経過、状況、態様を殆ど認識していない旨供述している。
<2> また被告は、衝突の地点や信号の状況について、当初の供述を変更し、目撃者の供述に合わせる供述をしている。
<3> 被告が衝突状況、態様等を正確に認識していないということは、被告の運転席の直前部分にほぼ正面衝突している状況からして、被告の前方不注意が明白である。
三 右事故による損害
(一) 神山卓の逸失利益
神山卓は、本件事故当時東京農工大学工学部電子情報工学科一年在学中であり、勉学に勤しむ優秀な学生であり、本件事故で死亡しなければ、二三歳から六七歳までの四四年間就労可能であり、その逸失利益を<1>大学卒業者全年齢平均賃金(平成六年度)を基礎に、<2>生活費控除率五〇%、<3>ライプニッツ係数(一七・九八一-一・八五九=一六・一二二)によって法定利率による中間利息を控除し、死亡時の一時払額に換算すると、金五四三三万七五八八円となる。原告らは、亡神山卓の逸失利益の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。
(二) 葬儀費用
原告両名は、亡神山卓の葬儀を行い、その関係費用として金三九六万三七四五円を出費しており、その内金一〇〇万円について、各五〇万円ずつ損害(葬儀費用)賠償請求する。
(三) 死亡慰謝料
神山卓は成績優秀な大学生であり、スポーツ好きの快活な青年であり、これからの活躍が嘱望されていた。このような一人息子を本件で失った原告らの精神的苦痛は著しいものがある。この苦痛の慰謝料は各金一〇五〇万円が相当であり、損害(慰謝料)賠償請求をする。
四 自賠責保険会社から既受領額
原告両名は、自賠責保険会社から平成八年九月一一日死亡に至る医療費金四万二一二〇円、文書料等金三万一四一〇円の合計金七万三五三〇円および死亡における自賠責保険金三〇〇〇万円を受領した。
五 弁護士費用
原告らは、原告両名のために本訴を原告代理人らに委任し、その経済的利益の価額の一〇%である各金二三〇万円を手数料として支払う旨約束した。弁護士費用についても損害賠償請求をする。
六 よって、被告は、自動車損害賠償保障法三条により本件事故により生じた前記損害を賠償すべきであり、原告両名に対し各二五四三万二〇二九円および本件事故の日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(裁判官 矢﨑博一)
事故発生状況略図