大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 平成9年(ワ)2903号 判決 1998年7月08日

原告

近江和友

被告

小林夏子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、一四三万〇一三〇円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告ら

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 平成九年五月二五日午前一一時二五分頃

(二) 発生場所 神奈川県津久井郡津久井町青根二七四五番地路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(八王子五六め六五三五、以下「被告車」という。)

右運転者 被告

(四) 被害車両 普通自動二輪車(一多摩な一五五九、以下「原告車」という。)

右運転者 原告

(五) 事故態様 原告が原告車に訴外萩原妃砂子を同乗させて走行中、被告が被告車を運転して交差点から原告進行道路に出るにあたり、原告車と接触し、原告は、自車の前方を走行していた訴外加藤正雄運転の普通乗用自動車(以下「加藤車」という。)に接触破損させた(以下「本件事故」という。)。

2  被告の過失

被告は、前方左右の確認、交差点における一時停止義務を怠った。

3  原告の傷害

原告は、本件事故により、左母指脱臼骨折の傷害を受け、平成九年五月二五日から同年七月九日までの間、実日数一二日、多摩丘陵病院に通院した。

4  原告の損害

(一) 治療費 一万七〇二〇円

(二) 交通費 一万一二八〇円

片道四七〇円、一二回分。

(三) 休業損害 五四万八七〇〇円

(1) 同年五月二六日から同年七月九日までの通院期間中の逸失利益四二万円(一日一万二〇〇〇円)から傷病手当金二万五二〇〇円を控除し、二〇万四〇〇〇円。

(2) 原告は、本件事故により免許停止処分を受け、大型貨物自動車の運転手であった勤務先を同年八月一九日付けで解雇されたので、同年八月一九日から同年一〇月九日までの逸失利益五四万一六五〇円から失業手当金一九万六九五〇円を控除し、三四万四七〇〇円。

(四) 原告車破損 二七万五五〇五円

清水モータースの見積額二六万〇五〇五円、同見積料一万五〇〇〇円。

(五) 加藤車破損 一〇万七六二五円

有限会社キクチ自工の見積額による。

(六) 慰謝料 四七万円

5  よって、原告は、被告に対し、損害賠償金一四三万〇一三〇円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因事実1は認める。

2  同2は否認する。

被告は、国道四一三号と交差する道路から同国道へ左折進入すべく、被告走行側には一時停止の標識と停止線があるため停止線付近で一時停止し、右方を確認中、被告車左方から原告車が中央線を越え反対斜線側を走行してきて被告車に衝突したものであって、被告には過失がない。原告は、原告車を運転するにあたり、峠道の下り坂で右方の見通しの悪い道路の曲がり角で、追越しが禁止されている場所であるにもかかわらず、道路右側に出て追越しをするという無理な運転をしたことにより本件事故を惹起したもので、原告の一方的な過失により本件事故が発生した。

3  同3は不知。

4  同4(一)、(二)、(四)、(五)は不知、(三)は否認する、(六)は争う。

第三  証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1(交通事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

2  同2(被告の過失)について検討する。

(一)  証拠(甲第一、二号証、第六号証、乙第一号証の一ないし九、第三号証、第四号証の一ないし一七、原告本人尋問の結果)によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件事故の発生場所は、おおよそ別紙図面(一)、(二)のような変形の交差点であり、国道四一三号に此の間沢キャンプ場へ至る道路が交差している、交通整理の行われていない交差点である。国道四一三号は、同所付近で下り坂で、右に湾曲し、その幅員は車道部分及び路側帯を合わせ約九・四メートルで、中央にセンターラインがある。此の間沢キャンプ場から右国道へ出る道路は、幅員は約八・二メートルで、一時停止の標識と道路上に停止線があり、国道へ向かって左方の角には土手があって雑草、藪、樹木が繁っていて見通しが悪い。本件事故現場の原告進行方向からみて手前の左側には「注意 この先十字路あり スピード落とせ!」と記載し、十字を描いた交通標識が設置されていた。なお、国道から此の間沢キャンプ場と反対方向へ入る道路の端には、カーブミラーが設置されていた。

(2) 原告は、原告車に萩原妃砂子を同乗させ、国道四一三号を青野原方面から道志村方面へ走行し、時速約四〇キロメートルで本件事故現場に差しかかったところ、手前に設置されていた「この先十字路あり」の注意標識を見落とし、進路前方が交差点となっていることに気づかず、前方約五ないし六メートルを走行していた加藤車(ワゴン車)を追い越そうとし、一旦道路左端によって前方を見て、そこから加速してセンターラインを越えて道路右側に出て、そのまま道路右側の路側帯(道路端)方向へ進行し、前方約五メートルに被告車を発見したが、避けきれず衝突した。

(3) 被告は、被告車を運転し、此の間沢キャンプ場方面から同交差点を左折して国道四一三号へ入るべく、一時停止の標識に従い、停止線で一時停止したが、左方は前記のように土手となって藪や樹木があり見通しが悪いので、緩い速度で停止線より前へ出ていったところ、左方向から道路右側端に向かって走行してきた原告車の右側面が被告車の前部に衝突した。

(4) 衝突場所は、別紙図面(一)、(二)の有蓋側溝の上を被告車の前輪が越した程度、すなわち、被告車の前輪より前の部分が交差点内に入ったところで、別紙図面(二)の<×>1付近であった。

(5) 原告車は、衝突後、もとの走行車線方向に滑走していき、前方を走行していた加藤車の右側面に衝突し、原告車は右側を下に倒れたが、衝突場所は、別紙図面(一)の<×>2付近であった。

(6) 原告は、本件事故により通院実日数一二日を要する左母指脱臼骨折の傷害を、萩原妃砂子は、原告車から振り落とされて入院加療一〇二日を要する右脛骨後顆骨折、後十字靭帯損傷の傷害を負った。

(二)  以上認定の事実によれば、原告は、国道四一三号上を原告車を運転して時速約四〇キロメートルで走行し、下り坂で、右に湾曲し、進路右方の見通しの悪い、交通整理の行われていない交差点を進行するに際し、進路右方の安全を確認して進行すべき運転上の注意義務があり、かつ、同所は道路の曲がり角付近であったのであるから追越しが禁止されている場所であるのにかかわらず、手前にある「この先十字路あり」の注意標識を見落とした上、同所が交差点であることに気付かず、五ないし六メートルの車間で追走していた加藤車の追越しを図り、進路右方の安全確認をすることなく、原告車を前記速度のまま道路右側部分に進入させ、道路右端付近まで進行させた過失により、折から右方道路から交差点内に進入しようとした被告運転の被告車前部に原告車右側面を衝突させ、その衝撃により、原告車を左斜め前方に滑走させ、前方を走行していた加藤車右側面に衝突させたものである。

これに対し、被告は、被告車を運転して国道四一三号へ左折進入すべく、標識に従って一時停止をし、緩い速度で交差点内に入っていったところ、左方から原告車が斜めに走行してきて衝突したものであって、原告車の走行していた道路が優先道路であったとしても、進路右方の見通しの悪い道路で、追越禁止の場所であるのに、道路右側部分の反対車線に入り、しかも右側部分の右端まで入って追越しをする車両があるということまで被告に予測する義務があるということはできず、本件事故につき、被告に運転上の過失があるということはできない。

(三)  乙第四号証の一七(被告人供述調書)によれば、原告は、本件事故の刑事事件の被告人尋問において、交差点手前に設置してあった注意標識は字がごちゃごちゃと書いてあって分からなかったので見落とした旨述べるが、同号証の一四(注意標識の写真)によれば、右標識について、その大きさ、形状からして、別段見落としたり、読み得ないような標識とは認められない。

また、原告は、原告が走行していた道路は優先道路であるから道路交通法三〇条三号により追越禁止の場所ではなかった旨主張するが、前示認定のとおり、本件事故現場は道路の曲がり角付近であって、同条一号により追越禁止場所に該当するというべきである。

さらに、原告は、原告本人尋問において、道路交通法四三条により被告には原告車の進行を妨害してはならない義務があった旨述べるが、原告の進行していた道路が優先道路であったとしても、前示認定のとおり、進路右方の見通しが悪く、追越禁止の場所で、原告が先行車の追越しを図り、道路の右側部分に入り、しかも右側部分の右端付近まで入ったという状況を考えれば、右条項があるからといって被告に過失があるということはできない。

なお、甲第六号証(原告撮影の写真)中の被告車の位置は、乙第四号証の一三(司法警察員の写真撮影報告書)中の被告車の位置からして、採用できない。

(四)  以上により、本件事故は、原告の過失により惹起されたものと認めるのが相当であり、被告に運転上の過失があるとの原告の主張は採用することができない。

二  よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 関野杜滋子)

図面(一) 交通事故現場見取図図面(二) 交通事故現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例