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東京地方裁判所八王子支部 昭和38年(ワ)575号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原告が昭和三八年一〇月二日付、同月四日到達の書面をもつて被告太田に対し、右書面到達後一週間以内に(四)の建物のうち子供部屋と廊下を取り毀して原状に回復することを求めるとともに、(三)の建物の無断建築、右子供部屋廊下の無断増築および無断伐採した立木を用材とした門の無断開設の三事実を信頼関係破壊の背信行為であるとして(四)の建物(イ)部分賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、併せて(四)の建物全部の明渡と(三)の建物の収去並びに本件宅地全部の明渡しを求めたこと、原告が昭和四〇年一月二七日附準備書面をもつて右賃貸借契約を一時的賃貸借としての解約の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

そこで右解除および解約の効力について判断を進める。

右解除の意思表示の趣旨は必ずしも明瞭ではないが、要するに被告太田の背信行為によつて原被告間の信頼関係が破壊されたことを理由とする建物賃貸借契約を解除し、解除効は書面到達後七日を経過することによつて発生するものというにあるところ、果して双方間の信頼関係は破壊されたといえるであろうか。

原告が被告太田に対して主観的に信頼の念を完全に喪失し嫌悪の念を懐いていることは前認定の事実並びに弁論の全趣旨によつて明らかであるが、およそ継続的法律関係である建物賃貸借における信頼関係の破壊というのは、かかる主観的な意味ではなくして、客観的に当事者双方の側における諸般の事情を綜合して、なおその相互的法律関係を継続させることが社会通念に照らして妥当でなく、不正義、不衡平と認められるに至つていることを意味するものと解せられるので、この立場から判断すると、前認定のような客観的諸事情は信頼関係の破壊に近づいたかなり重大な事由である。しかしながら調停も不調と確定したわけでもなく、原告の「三年後明渡し」の提案を契機として中断し、原告の取下げによつて形式的には手続終了を見ているが、交渉決裂というべき事態は存せず、本訴においても和解の余地がなお存すべきであるのに、本件口頭弁論終結時においても当事者双方の感情的対立が先立ち、話合いが熟しない。今後において双方が互いに交渉決裂宣言をし合うか或いは一方が相手方の応ずることのできない条件を固執するなどして、話合いの余地がなくなつたときは、前認定の両者間の事態は話合いによる解決不能の膠着状態となるわけで、そのときこそ相互の膠着状態を継続させることが社会通念上ゆるされないものとされ、その法律関係を一方の意思表示によつて進んで消滅させることがゆるされなければならないであろう。よつて、原告主張の理由による解除は、なお尽くすべき協議の余地を存する点において最後的段階の前にあり、未だ有効に効力を生ずるものとなしがたい。(立岡 安正)

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