大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 昭和39年(ワ)227号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原被告間に原告主張の土地売買契約(注、土地一〇〇坪を代金二六五万円、買主において契約不履行のときは売買代金額の三割を違約損害金として売主に支払う旨の契約)が成立したことは当事者間に争いがないが、<証拠>によれば、被告は、契約締結時には代金に充てるべき入金が予想されていたが、締結後に右入金を確かめたところ予期に反し入金不能を知るに及び妻秀子と相談の結果、契約を解除することとし、契約締結の翌日で、かつ代金支払履行に着手する前である昭和三九年一月二〇日、妻秀子をして被告を代理して、午前中電話をもつて原告会社に解除を申入れ、その旨を承けて当夜被告方に来訪した原告会社担当者に対し、秀子が改めて右事情を説明し、手付金を放棄して契約解除の意思表示をしたことが認められ、<中略>他に右契約を覆えすべき証拠はない。そして、<証拠>によれば、本件土地売買契約は、原告会社が土地分譲営業をなすに当り、現地に一般客を案内して即時現地で巧みに土地欲しさの客に契約締結を迫り、慎重熟慮の機会を与えず成立させる手口によつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はないので、諸般の点を熟慮した買主が代金支払の履行に着手するまでに契約を解除する自由を保有すると解するのが、土地売買の信義誠実の原則上相当であつて、手付金として三、〇〇〇円は少額ではあるけれども、これを解約手付と解して、買主はこれを放棄して契約を解除できるものとして民法第五五七条の適用をゆるすのが相当である。そうでないと、買主は、信義則に反した売主に対して多額の損害金を特約の名の下に支払わされた上で売主側から契約を解除されて土地の入手もできないという不当な結果となる。よつて、本件土地売買契約は、民法第五五七条の規定による被告の解除によつて遡つて無効となつたものであり、被告は約定損害金支払特約に拘束される理由がなく、その支払義務はない。(立岡安正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!