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東京地方裁判所八王子支部 昭和41年(ワ)580号 判決 1968年1月31日

主文

被告らは連帯して原告に対し金二四万四、六六七円およびこれに対する昭和四一年三月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は七分し、その二を原告の負担とし、その五を被告らの連帯負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告らは連帯して原告に対し金三四万七、三八二円およびこれに対する昭和四一年三月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「被告新徳商事株式会社は鮨加工販売業を営み、被告浅井、同多田の両名はその小平支店の店員であるところ、昭和四一年三月一六日午後四時二〇分頃被告会社の出前業務に従事中の両名は、被告浅井が被告会社所有の軽四輪貨物自動車スズライトを運転し、被告多田が助手席に同乗して、小平市小川町一丁目一一二七番地先き高野街道を青梅方面から新宿方面に向け進行中、「右折」の方向指示器を点滅させて走行していたため、折からその進行方向右側丁字路から小型乗用自動車を運転して高野街道に右折進入しようとした原告が、被告車の「右折」方向指示器の点滅を見て丁字路へ右折するものと予期して自らは高野街道中央部附近まで進入したとき、被告車は右折することなく原告車に危うく接触せんとしつつ街道上を直進し、原告車の前となつて走行したので、原告は警音器を吹鳴して注意したところ、被告両名は被告車を停めて下車し同じく停車した原告に向い、「文句があるか」と喧嘩腰となり、原告が、「方向指示器のことを注意しようとしたのだ」というのを、聴き入れようともしいなので、原告は相手になるまいと、「すまなかつた」とその場を避けようとしたにかかわらず、被告両名は執拗につめ寄り、「すまないぢやすまされない。」「おとし前をつけろ」とおどしつけ、原告を街道わきに引ずつて行き、原告が半ば失神状態になるまで激しく殴る蹴るの暴行を加え、ために原告は、頭部、右眼、前胸部の各打撲傷、左母指突指、脳血圧亢進の傷害を蒙り、直ちに入院して、〓後入院二週間、通院一週間に及んだ。原告は、そのため、治療費一三万四、四一〇円、付添看護婦費二万〇、二二〇円、同紹介手数料二、一〇二円、氷代四、〇〇〇円を支出したほか、同年三月一七日から同年四月一〇日までの間その運転手としての勤務先き有限会社柴又運輸を欠勤し、その間の得べかりし収入三万六、六五〇円を失つた。また、被告両名は、原告の正当な注意を聴き入れようとしないばかりか、逆に言いがかりをつけて不当な暴行傷害を加えたものであつて、そのため原告は計り知れない精神的苦痛を受け、その慰藉料としては一五万円が相当である。被告会社は、被告浅井、同多田両名の共同不法行為による原告の右財産上、精神上の損害合計三四万七、三八二円およびこれに対する民法所定年五分の割合による遅延損害金の賠償支払いにつき民法第七一五条第一項の規定により連帯責任がある。」と述べ、

被告ら訴訟代理人らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として、

「原告主張事実中、その主張の日時場所において被告車が街道上を直進中、丁字路から街道に進入して来た原告車と危うく接触せんとしたことは認めるが、被告車が右折の方向指示器を点滅していたこと、原告車が警音器を吹鳴したこと、原被告車の停車後の事実は否認する。右接触の危険は、原告車が丁字路から街道に進入するに際して一時停止せず突然街道の中央部まで進入したためである。危うく接触を免れた被告両名は、ほつとしてそのまま直進し、十数米先きの小川町一丁目二一七番地小野某方前に用件のため停車し、被告多田が車から降りたところ、原告が被告車の後にピタリと停車して下車し来り、「おい、ちよつと待て。危ねえじやないか、この馬鹿野郎」といきなり怒鳴りつけたので、接触の危険はかえつて原告の落度と思つた被告多田が「どうしたんですか」と問い返えすと、原告は、「てめえ、危ねえぢやないか、この馬鹿野郎」と食つてかかつて口論となつたところへ、被告浅井が降りて来て、「喧嘩してもしようがないぢやないか」といつて仲裁のつもりで原告の襟あたりをポンと叩いたとき、原告は、いきなり被告浅井の胸をねじ上げて地面に押し転ばし、起上るところを又同じように投げつけ、馬乗りになつて暴行しようとするのを、被告多田が見かねて原告の肩を突きとばして抵抗したものである。すなわち、被告両名は原告の暴行に対して防衛したに外ならない。原告の蒙つた傷害および財産上の損害は不知、精神上の損害の点は否認する。また被告両名の右防衛行為は被告会社の事業の執行とは全く無関係であるから、被告会社が連帯責任を負ういわれはない。」と述べた。

立証(省略)

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