大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 昭和44年(ワ)42号 判決 1972年10月18日

原告

檜山孝一

ほか一名

被告

京王帝都電鉄株式会社

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

原告ら、「被告は原告檜山孝一に対して金四、七七六、五〇〇円、原告檜山信子に対して金四、三二六、五〇〇円及びこれに対する昭和四四年一月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

被告、「原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

二  請求の原因

1  原告らの二女檜山聡美(昭和三四年九月三〇日生、小学校二年生)は、昭和四三年一月一二日午後二時四分ころ、東京都八王子市打越町二〇二番地所在京王線電車軌道北野二号踏切道(以下本件踏切道という)において、被告会社が運行する八王子発上り電車(列車番号一四八〇C列車)に接触はね飛ばされて即死した。

2  本件事故現場の右踏切道は、複線軌道がカーブする中心点にあり、下り八王子方面は、踏切附近にある立木等も影響して、見とおしは僅か七・八〇メートルしかなく、しかも近隣に被告会社の運行する高尾線及び国鉄横浜線の踏切道があり、各踏切道の警報機の警報が入り交つて、本件踏切道に設けられている警報機の警報と混同し易く、また本件踏切道附近で、八王子発新宿行上り線と、新宿発八王子行下り線の各列車がしばしばすれ違うようにダイヤが編成されており、通行人の危険が多く、従前から事故多発踏切であつて、約二〇年前に韓国人の子供一名が死亡する事故があつたほか、戦時中に訴外田代房枝が死亡し、昭和三六年九月一八日に訴外田代ムメが負傷し、同四三年八月九日には訴外峯田伊三郎(六〇才位)が死亡するなどの事故が発生している。

3  したがつて、かような危険度の高い踏切道については、被告において、通行人の安全を図るための保安設備として、遮断機を設置すべき義務あるのに、これを怠つて遮断機を設置しなかつたため、本件事故が発生するに至つたものである。

すなわち、亡聡美は、本件事故当時、本件踏切道に至り、下り八王子行列車の通過を待つて一時停止し、同列車が通過して約七〇メートル先のカーブに姿を消したので、安全なものと考えて自転車で本件踏切内に乗り入れたところ、その数秒後に上り列車が進行してきて、逃げる間もなく、これに接触されてはね飛ばされるに至つたものであつて、本件踏切道に遮断機が設置してあれば当然に防止できた事故である。

4  かりに、そうでないとしても、本件踏切道は、右のように極めて危険度の高いものであるから、保安設備として遮断機を設置しなかつたのは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があつたものというべきであるから、被告は本件事故によつて蒙つた原告らの損害を賠償すべき責任がある。

5  本件事故によつて蒙つた亡聡美ならびに原告らの損害は、次のとおりである。

(1)  亡聡美の損害

イ 逸失利益、金一、六五〇、三〇〇円

亡聡美は、本件事故当時満八年三月の健康な女子で、その余命年数は六七・二五年(昭和四一年簡易生命表による)で、二〇才から六〇才までの四〇年間は就労が可能であつて、この間少なくとも一ケ月二四、九〇〇円(昭和四二年日本統計年鑑産業別常用労働者間給与総額による)の収入を得られたはずであり、一ケ月平均生活費一二、五〇〇円を控除した金一二、四〇〇円の純益が得られるものであつたから、右稼働可能期間四〇年について、ホフマン式計算法によつて現価を算出すれば金一、六五〇、三〇〇円となり、同額の得べかりし利益を喪失した。

ロ 慰藉料 金三、〇〇〇、〇〇〇円

本件事故によつて生命を奪われたことによる精神的損害は、少なくとも金三、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。

ハ 合計 金四、六五三、〇〇〇円

(2)  原告らは、亡聡美の取得した損害賠償請求権を、各自二分の一宛の金二、三二六、五〇〇円を相続した。

(3)  原告孝一の蒙つた財産的損害

原告孝一は、亡聡美の葬儀費用として金四五〇、〇〇〇円を支出した。

(4)  原告両名の精神的損害

原告らは、亡聡美の父母として、最愛の子を一瞬にして失い、著しい精神的苦痛を蒙り、これを金銭に見積れば少なくとも各自金二、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。

6  したがつて、原告孝一は金四、七七六、五〇〇円、原告信子は金四、三二六、五〇〇円の損害賠償請求権を取得したので、被告に対して同額の金員と、これに対する本件訴状送達の翌日の昭和四四年一月二六日から支払済みに至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  答弁ならびに主張

1  請求原因事実の認否

請求原因1の事実は認める、同2の事実中、本件踏切道から八王子方面の見とおしが良好でないこと、本件踏切道附近で上下線の列車がすれ違うダイヤが編成されていること、原告主張のような事故が発生したことは認めるが、その余の事実は否認する、同3の事実中本件踏切道に遮断機が設置されていなかつた事実は認めるが、その余の事実は否認する。同4の事実中本件踏切道が土地の工作物であることは認めるが、その余の事実は否認する、同5の事実は不知、同6の主張は争う。

2  本件事故は、被害者の一方的過失によつて発生したものであるから、被告には何らの責任もない。

本件事故当時、被告会社桜上水電車区運転士仲田耕作は、第一四八〇C列車を運転して京王八王子駅を定時に発車し時速約六五キロメートルで、前方の北野二号踏切道の安全を確認して進行をつづけ、同踏切道二〇メートル手前にさしかかつた際、同踏切道左側(上り線寄り)から、被害者が、警報機の警報を無視して突然自転車に乗つて踏切内に進入してきたので、直ちに非常警笛を鳴らすと共に、非常制動措置をとつたが至近距離のために停止することができず、列車の前頭車両左前面下部に被害者を接触させたうえ約一五九メートル先で停車したものである。

そして、右列車は、下り八王子行列車が本件踏切道を通過して約三一〇メートル八王子寄りの地点ですれ違つたが、両列車とも当時時速約六五キロメートルで進行しており、下り列車が本件踏切通過後約三〇~三五秒後に本件踏切道に達したことになるところ、本件踏切道に設置された警報機は、列車が踏切到達前二六ないし二八秒から警報を吹鳴し、列車が踏切通過後も若干の余韻を残すようになつていたので、本件事故当時下り列車の通過後殆んど時間的間隔をおかずに引きつづき上り列車のための警報機が鳴り出し同時に赤色の点滅灯が明滅し、かつ方向指示機が列車通過方向を指示して作動するので、是非を弁えない乳幼児ならば格別、小学校二年生の被害者が通常の注意を用いていれば当然回避し得た事故であり、結局、本件事故は、被害者が警報機の警報を無視して列車通過を確認しないままに、列車の直前に自転車を乗り入れた過失によつて生じたものであつて、被告には何らの責任もない。

3  本件踏切道の保安設備としては、警報機、点滅灯、方向指示機が設置されており、踏切通行者が、これら踏切保安設備に注意を用いれば、危険はなく、したがつて、遮断機を設置しなかつたことが被告の過失となるものではないし、また工作物の設置保存に瑕疵があつたということもできない。

本件踏切道は、踏切道改良促進法とこれに基づく踏切道の保安設備の整備に関する省令(同令施行前は昭和二九年運輸省通達鉄監第三八四号「地方鉄道及び専用鉄道の踏切道保安設備設置標準)等によれば、ほんらい保安設備を要しない第四種踏切道に該当し、警報機を設置すべき第三種踏切道の基準よりは、かなり低いものであつたが、被告会社は、従前から踏切道の保安設備には特段に意を用い、設置標準を上廻る設備を行つてきており、本件踏切道についても、その基準をこえて、昭和四〇年八月一〇日に、第三種踏切として警報機等の保安設備をしてきたものであり、更らに本件事故後の昭和四三年一〇月一日からは、第一種踏切道に格上げして遮断機を設置している。

すなわち、本件踏切道における昭和四一年五月二七日当時の通行量は、鉄道交通量一時間当り最高一六、一日当り二二六、道路交通量一時間当り最高二〇二人、一日当り一、〇六八人であつて、これを前記設備基準に照らせば、第三種踏切道の基準である一日当り二、六〇〇人以上の道路交通量よりは、はるかに交通量が少なく、第四種踏切道として保安設備を要しなかつたものであり、本件事故当時においてもその交通量は、ほぼ同量であつたので、警報機の設置を要しなかつたものであるのに、その基準をこえて警報機等の保安設備を設け、通行者の安全を図つていたもので、遮断機を設置しなかつたからといつて、責められるべき理由はなく、工作物の設置保存に瑕疵があつたものともいえない。

4  本件踏切道と、国鉄横浜線の踏切道とは、直距離で一五二・七メートルあり、どの路線の警報機が鳴つているかを誤認するようなことはあり得ず、また本件踏切道附近に被告会社高尾線踏切はないから、これとの警報機誤認ということも生じ得ない。

そして、本件踏切道附近において、上下線列車がすれ違う場合も生ずるが、大都市周辺の交通を確保するためには、ある程度の過密ダイヤの編成もやむを得ないことであつてそのことを非難されるいわれもない。

5  したがつて、本件踏切道に遮断機を設置しなかつたことについて、被告には何らの過失もなく、また工作物の設置または保存にも瑕疵はないから、被告に賠償責任はない。

四  証拠〔略〕

理由

一  原告らの二女檜山聡美(昭和三四年九月二〇日生、当時小学校二年生)が、昭和四三年一月一二日午後二時四分ころ、本件踏切道において、被告会社の運行する電車(列車番号一、四八〇C列車)に接触はね飛ばされて即死した事実は当事者間に争いがない。

二  右争いない事実と、〔証拠略〕を総合すると、本件事故は、被告会社電車運転士訴外仲田耕作が、一四八〇C列車を運転し、京王八王子駅発調布駅行二両編成で、上り線を、一四時二分に発車し、約二分後に時速六五キロメートル位で本件踏切道に差しかかつたところ、その手前約二〇メートルの地点で、本件踏切道北側から被害者聡美が自転車を乗入れる姿を発見し、とつさに非常制動をかけるとともに非常警笛を吹鳴したものの、至近距離であつたために停止できず、前頭車両の前部右下部分に被害者が自転車もろとも接触してはね飛ばされ、列車は約一五九メートル進行して停止したこと、本件事故当時本件踏切道には、保安設備として、踏切道両側に警報機、点滅灯、列車通過方向を示す方向指示機が設置されていて、警報機は列車の踏切通過前二七ないし三〇秒前から警報を鳴らし列車が踏切道を通過し終るまで吹鳴を継続し、点滅灯は警報機の警報吹鳴中赤色灯が点滅し、方向指示機は列車通過方向を指示する矢印が明滅しつづけることになつており、各保安設備は異常なく作動していたこと、一四八〇C列車は、京王八王子駅発車後本件踏切道到着前に新宿駅発下り京王八王子行一三八〇C列車とすれ違つており、したがつて、被害者は、同列車の通過を待つて、本件踏切道北側で一時停止し、同列車通過に引き続き上り一四八〇C列車通過のために警報機が警報を吹鳴し、点滅灯、方向指示機等が作動しているのに、下り列車通過によつて上り列車通過の危険はないものと速断して、右方上り線の進行を確認しないまま自転車を踏切道に乗り入れて本件事故にあうに至つたものと推認されること、の各事実を認めることができる。

三  本件踏切道に、遮断機が設置されていなかつた事実は当事者間に争いがなく、原告らは、右遮断機を設置しなかつたことについて被告に過失がある旨主張するから、この点について判断するに〔証拠略〕を総合すると、

1  本件踏切道は、ほぼ東西に通ずる上、下複線軌道と、南北に交差して八王子市打越町から同市北野町七日市場方面に通ずる幅員約二・七メートルの道路上に設置されたもので、京王八王子駅と、北野駅との間の、北野駅西方約三五〇メートルの地点にあり、同踏切道北側は住宅が点在し、南側は数一〇メートル隔てて京王線と並行に走る被告会社高尾線が道路と立体交差し、附近一帯が耕作地で、いわゆる郊外地に所在すること、

2  本件踏切道は、幅員約二・五メートル、長さ一一・八五メートル、線路との交角は左五八度で、軌道が本件踏切道附近から大きく右曲して軌道敷の高低に伴い、北側がやや高く、東西はほぼ平坦であり、南側からの見とおしは左右とも良好であるが、北側からは、左方北野駅方面は同駅附近まで見とおせるものの、右方八王子方面は、軌道が大きく右曲りとなつているうえ、右側に木造二階建建物が接着して建てられ、かつその建物敷地と軌道敷境に高さ一・五メートル位の生垣があるため、踏切道入口から約六〇メートル、踏切道中心から約一〇〇メートルしか見とおしがきかず、危険度は相当高いこと、(見とおしが不良であることは争いがない。)

3  本件踏切道は、大正一四年三月二四日に設置され、当初は農耕のために近隣農家の人、馬、リヤカー等が通行する程度であつたものの、戦前韓国人の子供が軌道上を歩いていて列車に接触死亡する事故が発生したほか、昭和一八年六月一〇日ころ、近隣に住む訴外田代ムメの二才の幼児が遊びに出て本件踏切道で列車にはねられて死亡し、さらに昭和三六年九月頃右田代ムメが、夫の運転する耕耘機に乗つて本件踏切を通行中列車に接触されて負傷する事故が発生したこと、(事故発生の事実は争いがない。)

4  被告会社は、昭和二九年四月二七日付「踏切道保安設備設置標準」に関する運輸省通達、昭和三六年運輸省令第六四号「踏切道の保安設備の整備に関する省令」等の趣旨に則り、踏切道の保安設備の充実に留意し、本件踏切道については、昭和四〇年八月一〇日に同設置標準にいう第三種踏切として、警報機、点滅機、方向指示機を設置し、前認定のように列車通過時に警報機による警報を鳴らし、かつ点滅灯、方向指示機を作動させる保安設備を行つたこと、

5  本件踏切道における昭和四一年五月二七日当時における交通量の調査によれば、道路通行量は、一時間当り最高二〇二人、一日当り一、〇六八人、鉄道交通量は一時間当り最高一六、一日当り二二六、昭和四四年中の調査によれば、道路交通量は一時間当り最高一六六人、一日当り一、三八七人、鉄道交通量は一時間当り最高一七、一日当り二二六であつて、前記設置標準等によれば、警報機を設置すべき第三種踏切道よりは低い交通量であつたこと、

6  そして、前示「踏切道の保安設備に関する省令」によれば踏切道の保安設備とし、遮断機を設置すべきものとされるのは、一日当りの鉄道交通量が二〇〇以上三〇〇未満の甲種線区(見とおし区間の長さ五〇メートル未満で、最高速度が毎時六五キロメートル以上であり、かつ長さ一五〇メートル以上である列車を定期に運転する線区をいう)においては、一日当りの道路交通量二、〇〇〇人をこえるものであることが認められるところ、本件踏切道は、最高速度七二キロメートル毎時で列車を運行するものの、前記のように一日当りの道路交通量は最高一、〇六八人ないし一、三八七人であつて、二、〇〇〇人をこえないので、同省令による遮断機を設置すべき踏切には該当していなかつたこと、

7  本件踏切道の西南方約二〇〇メートル位(被告主張によれば直線距離一五二・七メートル)の地点に、国鉄横浜線の踏切道が設置され、同踏切警報機の警報も吹鳴されるものの、本件踏切警報機の警報と誤認される余地はないこと、

8  被告は、本件事故発生にひきつづき、昭和四三年八月九日に訴外峯田某が本件踏切道で死亡する事故が発生したうえ、地元民等の要望もあつて、同年一一月三日に、これを基準による第一種甲に格上げし、同日以降踏切警報機等のほかに遮断機を設置するに至つたこと、

の各事実を認めることができる。

以上の認定事実によれば、本件踏切道は、北側からの見とおし距離は良好とはいい得ないものの、前記設置基準からみてもその道路交通量、列車交通量等から、一般に遮断機の設置までも要求される程度にはなかつたものというべきであり、したがつて、被告が保安設備として遮断機を設置しなかつたからといつて、これを被告の過失と認めることはできない。

三  原告らは、さらに、本件踏切道に遮断機を設置しなかつたことは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵がある場合に該当する旨主張し、本件踏切道が被告が設置して占有管理する土地の工作物であることは当事者間に争いがない。

ところで、列車運行のための専用軌道と、人車交通の道路との交差点に設けられる踏切道は、列車運行の確保と道路交通の安全とを調整するためのものであつて、かような踏切道にいかなる保安設備を要し、またその要求される保安設備を欠くときに工作物の設置又は保存に瑕疵あるものとされるかは当該踏切道における列車運行、人車交通等の状況に応じ、踏切道設置の趣旨に合致するかどうかによつて判断すべきものと考えられ、もし保安設備を欠くことによつて、その踏切道における列車運行の確保と、道路交通の安全との調整を欠き人車の通行の安全が絶えず脅かされるような状況にあるときは、人車の通行の安全を図るのに最も相当とされる保安設備を設置しないことが、工作物の設置又保存に瑕疵あるものとされ、これによつて、他人に損害を生じさせたときは、賠償責任を負うべきものと解するのが相当である。

そこでこれを本件踏切道についてみると、〔証拠略〕によれば、本件踏切道は八王子市立由井第一小学校、同由井中学校の学童が通学路として利用する者も相当数あり、かつ本件踏切道附近において上下線列車がすれ違う場合も多いことが認められるものの、前認定のように本件踏切道の保安設備としては、本件事故当時には踏切警報機、点滅機、方向指示機が設置されていて、これらが正常に作動していたのであるから、前示列車交通量、道路交通量等からみて、本件踏切道を通行する人車等は、その警報機の警報等に留意し、警報吹鳴中は踏切道に入ることをやめ、或いは列車の進行状況等を確認するなど、通常必要とされる注意を用いれば容易に通行の安全を図り得たものと認めるのが相当である。したがつて本件踏切道の設置又は保存に瑕疵があつたものとすることはできない。

四  してみれば、本件事故は、被害者が踏切警報機の警報を無視して本件踏切道に自転車を乗入れたために生じたもので、本件踏切道の設置又は保存にかしがあつたものということはできないから、被告に本件事故による責任を帰せしめることもできないものというべきである。

もつとも、ほんらい危険な専用軌道踏切には、能う限りの保安設備を設置し、もつて人車の交通の安全を確保すると共に列車の運行の安全を確保して乗客の運送にあたるべきことは運輸機関にたずさわるものが、日夜思いを新らたにして力をつくすべき緊要事であることは多言を要しないところであつて、このことがまた私法上の責任の帰すう如何に拘らないこともいうまでもないところであり、被告の道義的責任が重大であることも明らかであるが、この故に賠償責任を負担させることは相当でない。

五  よつて、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとなるから、これを棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 瀧田薫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例