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東京地方裁判所八王子支部 昭和46年(モ)1640号 判決 1972年3月25日

債権者 全逓信労働組合 ほか一名

債務者 関行男

債務者補助参加人 国 代理人横山茂晴 ほか一〇名

主文

債権者らと債務者間の、当庁昭和四六年(三)第五四八号組合掲示板の自由に対する妨害禁止仮処分事件について、当裁判所が同年一二月一〇日になした仮処分決定はこれを取消す。

債権者らの本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は債権者らの負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、債権者ら

「主文第一項掲記の仮処分決定はこれを認可する。訴訟費用は債務者の負担とする。」との判決。

二、債務者

主文第一、二、三項同旨の判決。

第二、当事者双方の主張

(申請の理由)

一、債務者全逓信労働組合(以下単に全逓という)は、郵政省に勤務する労働者を主体として組織する労働組合であつて、同全逓国分寺支部は右組合の支部である。

二、債権者らは昭和四一年八月一六日郵政省当局に対して国分寺郵便局内における全逓専用掲示板の設置とその利用を申し入れ、郵政省当局はこれを承認して同郵便局庁舎二階に掲示板を設置した。債権者らは、ここに右掲示板上に排他的な占有権限を取得し、以後右掲示板上にその所有にかかる宣伝物(ビラ・ポスター)などを貼付し、組合活動のため使用占有している。

三、ところが、国分寺郵便局長でもある債務者は、昭和四六年二月二六日債権者らが前記掲示板上に貼付した「゛悪質管理者追放"センチメートル、横約五五センチメートル)を何らの理由もないのに実力をもつて撤去し、同月二七日同様に債権者らが同掲示板上に掲示した「国費を使い私生活も千渉する買収労務管理プラザー制度を根絶させよう。労働者の敵!元東京郵政局長浅見喜作、国分寺局長関行男、集配主事中条に責任をとらせよう。11・27」と手書きした掲示物(縦約五一センチメートル、横約三六センチメートル)を撤去し、同月二九日「この掲示板は全逓のものだ!表現の自由をウバウ憲法の敵!関行男は責任をとれ!みんなで追放しよう!全逓国分寺支部」と手書きした掲示物(縦約五一センチメートル、横約三六センチメートル)を撤去した。

四、債権者らが専用掲示板に掲出した掲示物を撤去する債務者の実力行使は現在いわゆる年末闘争として展開されている全逓の正当な組合活動を妨害する目的で、債権者らの掲示板上の占有権もしくは掲示物の所有権を侵害するものであり、これを放置するときはその組合活動に重大な損害を生ずるおそれがあり、闘争の現状などから見ると将来にわたつても右侵害の危険性は大である。

五、そこで、債権者らは債務者の前記三記載の行為により惹起された急迫な状態を防ぐため、前記組合掲示板上に有する占有権もしくは同掲示板上に貼付されることを予想される掲示物の所有権を被保全権利として、御庁に「債務者は昭和四六年一二月二〇日午後六時迄に至る間、国分寺郵便局二階全逓信労働組合国分寺支部事務所前廊下にある全逓信労働組合掲示板に債権者らが掲示する印刷物、ポスター、ビラなどのうち人身攻撃にわたるものを除いては、これを実力で撤去したり、破りすてるなどの行為をしてはならない。」旨の仮処分申請をなし、同裁判所は昭和四六年一二月一〇日これを認容して同趣旨の仮処分を決定した。よつて、右決定を認可するとの判決を求める。なお、本件仮処分の債務者は国家機関としての郵便局長ではなく、私人たる関行男個人である。

(申請の理由にする債務者並びに補助参加人の認否)

一、申請の理由一記載の事実は認める。

二、申請の理由二記載の事実中、郵政省当局が国分寺郵便局庁舎内に掲示板を設置し、同掲示板に債権者らの掲示物が専ら掲出されてきたことは認めるがその余は否認する。債権者らは本件掲示板につき占有権を有しない。郵政大臣から庁舎の管理の委任を受けている郵便局長が本件掲示板の使用を承諾した事実はない。国分寺郵便局長は債権者らの掲示物の掲示の許可に附随して、その掲示場所として本件掲示板を指定したに過ぎないのであつて、掲示許可によつて、許可を受けた者に掲示板について法律上占有すべき権限が発生するわけでもなく、また事実上の占有が認められるわけでもない。本件掲示板の占有は庁舎管理権者たる郵便局長にあるものというべきである。仮に掲示物の掲示許可により債権者らに掲示板につき何らかの権利が生じたとしても、それは仮処分の被保全権利となるような私法上の権利ではない。郵便局庁舎は国有財産法第三条に規定する行政財産であり、私権の設定が禁じられている。国有財産法第一八条は行政財産について「これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、若しくは出資の目的とし、又はこれに私権を設定することができない。」(第一項)ものとし、これに「違反する行為は無効とする。」(第二項)としている。これは行政財産については一切の私法上の使用権限の設定を排除して公の目的に供するのに、支障ながらしめるためであることはいうまでもなく、行政財産を国以外の者が使用しうるのは「その用途又は目的を妨げない限度において」その使用又は収益を許可された場合に限られる(同条第三項)のであり、右許可のなされた場合であつても、前記国有財産法第一八条第一項、第二項が行政財産の不融通性を厳格に規定した趣旨からすれば、右許可により私法上の使用収益権は生じないと解するのが相当である。そうすると、債権者らの本件掲示板上における私法上の使用権ないし占有権は存在せず、本件掲示板上の掲示物を撤去しても何ら債権者らの私権を侵害するものではない。

三、申請の理由三記載の事実中、債権者ら主張の各掲示物が掲示板上から撤去されたことは認めるが、撤去の主体が債務者であることは否認する。右撤去は国分寺郵便局の庁舎管理者たる同郵便局長関行男が、右管理権の発動としてなしたものであるから、債務者関行男個人の行為としてではなく、国の機関としての行為として評価されるべきである。

四、仮処分の必要性に関する債権者らの主張事実を否認する。仮に右必要性が存在したとしても、債権者全逓の年末闘争は昭和四六年一二月五日郵政省当局と全逓中央本部間の交渉妥結により同月六日終結したので、同日以降右必要性は消滅した。

(債務者並びに補助参加人の抗弁)

仮に前記掲示物を撤去したのが債務者であつたとしても、債務者の撤去行為は、他面において職務上の権限の発動としてなされたものであるから正当な権原によるものである。即ち、債務者は国分寺郵便局長の地位にあり、同局庁舎の管理者であるところ、前記掲示物は郵政省庁舎管理規程第六条、同運用通達による許可条件(その内容が法令違反にわたるもの、政治目的を有するもの、郵政事業もしくは官職の信用を傷つけるようなものまたは人身攻撃にわたるものに各該当しないこと)に違反するものであると認めたので右庁舎管理規程に基づき、庁舎管理権の発動として右撤去をなしたものである。

(債務者並びに補助参加人の抗弁に対する債権者らの認否)

債務者が国分寺郵便局長の地位にあること並びに郵政省庁舎管理規程が存在することは認めるがその余の事実は否認する。右管理規程中掲示物の許可条件を定めた部分は表現の自由並びに労働基本権を保障した憲法に違反し無効である。

第三、証拠<省略>

理由

一、郵政大臣から郵便局庁舎の管理権の委任を受けた国分寺郵便局長がその管理にかかる国分寺郵便局庁舎二階に掲示板を設置し、これまで右掲示板上に債権者らの掲示物が専ら掲出されてきたこと、右掲示板上に債権者らが掲出した前記申請の理由三記載の各掲示物が右記載の各日時にそれぞれ撤去されたことは当事者間に争いがない。

二、そこで被保全権利の存否を検討する。債務者並びに補助参加人は、行政財産たる郵便局庁舎には一切の私法上の権利が設定できない旨主張するが、行政財産であつても、その用途又は目的を妨げない限度において私人をして使用又は収益させることも妨げないものと解すべきであるから(国有財産法第一八条第三項参照)、私権の設定も右の限度で許容される場合もあり得るものと解するのが相当である。そこで、以上の前提に立つて本件を見るに、<証拠省略>昭和四六年一一月から同年一二月にかけて本件掲示板にビラの貼つである状況を撮影した写真であることにつき当事者間に争いない<証拠省略>を総合すると、昭和四一年八月一六日全逓国分寺支部(国分寺局分会)が当時の国分寺郵便局長小島棟に対し、ビラ・ポスター類の恒常的掲示の許可を申請し、同局長が掲示場所として本件掲示板のほか一カ所を指定して、その内容が法令違反にわたるもの、政治目的を有するもの、郵政事業もしくは官職の信用を傷つけるようなものまたは人身攻撃にわたるものは掲示しないことなどの条件を付して右申請を許可したこと、右許可後前記掲示物が撤去されるまでの間、本件掲示板は債権者らがその組合活動のため自由に広告物・ビラ・ポスターなどを貼付して利用してきたこと、現在においても、債権者らの前記撤去にかかる掲示物以外の掲示物が貼付されていることが認められ、以上の認定を覆すに足りる疏明はない。右事実によると、債権者らはビラ等の掲示詐可申請およびこれに対する許可によつて、本件掲示板についても、庁舎管理者である国分寺郵便局長から使用許可を受けたものといい得べく、爾来右申請に基づくその使用許可により、本件掲示板の占有を継続していると認められるから、債権者らはその使用または利用を廃止するに至るまでは本件掲示板に占有権を有するものといわなければならない。

三、そこで、次に本件掲示物撤去の主体につき判断するに、<証拠省略>によると、本件掲示物撤去は国分寺郵便局長関行男が同局庁舎管理者の立場において庁舎管理権の発動としてこれをなしたものであることが認められるのであつて、他に債務者関行男が個人としてこれをなしたことを認めるに足りる疏明は存しない。

四、そうすると、関行男個人を債務者としてなされた本件仮処分申請は理由がなく、先に債権者らの申請を容れてなした前掲仮処分決定は、本件掲示物撤去行為の適法性をはじめとするその余の争点につき判断を加えるまでもなく理由のないことが明らかであるから、失当としてこれを取消し、本件仮処分申請はこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡徳寿 河村直樹 北野俊光)

【参考】

仮処分決定

当事者の表示は別紙目録記載のとおり。

右当事者間の昭和四六年(ヨ)第五四八号仮処分命令申請事件につき、債権者の申請を相当と認め、つぎのとおり決定する。

主文

債務者は昭和四六年一二月二〇日午後六時迄に至る間国分寺郵便局二階全逓信労働組合国分寺支部事務所前廊下にある全逓信労働組合掲示板に債権者らが掲示する印刷物、ポスター、ビラなどのうち人身攻撃にわたるものを除いては、これを実力で撤去したり破りすてるなどの行為をしてはならない。

昭和四六年一二月一〇日

東京地方裁判所八王子支部民事二部

裁判長裁判官 西岡徳寿

裁判官 河村直樹

裁判官 北野俊光

当事者目録

東京都文京区後楽一の二の七

債権名 全逓信労働組合

右代表者中央執行委員長

下田善人

東京都国分寺市本多二の一三の三四

債権者 全逓信労働組合国分寺支部

右代表者支部長

井上秋太郎

右債権者ら訴訟代理人弁護士

東城守一

松崎勝一

山本博

栂野泰二

清水洋二

斉藤驍

萩原健二

東京都国分寺市本多二の一三の三四国分寺郵便局内

債務者 関行男

以上

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