東京地方裁判所八王子支部 昭和47年(ワ)150号
原告
北畠秀
被告
日野自動車株式会社
主文
1 原告と被告との間に雇傭契約が存在することを確認する。
2 被告は原告に対し、昭和四六年一一月一六日以降原告を復職させるまで毎月二五日限り金四七、六二八円を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は第二、第三項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
《以下事実略》
理由
一 被告は自動車の製造販売を業とする会社であるところ、原告は被告との間に昭和四六年四月二九日、雇傭期間を同年八月一五日まで、ただし、以後支障のない限り三ケ月づつ自動的に契約を更新するとの特約付の雇傭契約を締結し(別紙二参照)たうえ、同会社羽村工場において車体組立工として稼働していたが右雇傭契約は同年八月一五日の時点で同年一一月一五日までと自動的に更新されたこと、ところが、被告は原告に対し、同年一〇月一五日、原告が同年一〇月七日塗装課へ応援に行くことを頑強に拒否したことを理由とし、これは前記雇傭契約における更新拒絶の理由である「支障」に該当するとして雇傭契約の更新拒絶の意思表示(以下本件意思表示という)をなしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件意思表示の効力について判断する。
1 ところで前示のとおり被告は、原告と雇傭契約を更新するには支障があるとして更新拒絶を通告しているので、まず、本件雇傭契約において更新拒絶を正当とする「支障」とは如何なる意味、内容を有し、また、被告会社においてどのように運用されてきたかについて検討する。
(証拠略)を総合すれば以下の事実が認められる。
被告会社では新規学校卒業者の定期採用により従業員たる身分を付与する社員制度と、学歴に関係なく不定期の一般募集により従業員たる身分を付与する準社員制度とがあって、原告は準社員として雇傭されたものである。ところで準社員はその採用にあたって原則として準社員雇傭契約承認書(<証拠略>)を提出するものとされ、また、その就業等については社員に対するものとは別個の準社員就業規則等(<証拠略>)によって規律されるものとされている。しかして、右準社員雇傭契約承認書(別紙二参照)によると、準社員の雇傭期間は、一応三か月間とされているけれども、前記のとおり支障のない場合は更に三か月間かつ自動的に契約を更新するものとされ、その勤続期間が六か月を経過した場合は社員登用対象者としての資格が生じ(ただし、男子については年令四五才以下、なお、六か月の勤続期間は登用選考該当月の一五日現在で算定される。)被告会社所定の選考を経たうえ、社員に登用されるものとされているが、勤続六か月、八か月、一〇か月の三回にわたる登用試験に不合格となった者は通算勤続一年後一か月の予告期間を置いて雇傭を打切られるものとされている。右のほか、とくに準社員については就業規則第三〇条第二号(別紙一参照)で被告会社の作業計画の変動のため減員の必要がある場合は解雇されるものとされ、また、雇傭期間の途中でも、当該準社員に就業規則所定の解雇事由がある場合には解雇されることとなっている。右のように、被告会社における準社員制度は、景気等の変動にともなう雇傭の調整としての機能のほか、正社員の補給源としての機能を有しているといえる。ところで準社員は採用されると直ちに各職場に配属され、社員登用対象者として資格が付与されるまでの間原則として三工程の仕事ができるように指導される。しかして、準社員は前叙のとおり社員登用試験を経て社員に登用されるが、被告会社が社員登用にあたって重視するのは当該準社員の各職場における勤務実績、勤務態度等に関する上司の考課内容と出勤率であるが、各職場で通常の勤務実績と勤務態度を維持する限り社員に登用されないことはなく、現に、原告が所属する羽村工場第二製造部車体課ではこれまで社員登用試験に合格しなかった準社員はいなかった。被告会社で準社員の雇傭期間を更新しなかった例はこれまで二、三あるが、それは当該準社員の出勤率が悪く、社員登用試験を受験させるまでもなく社員として不適格であり、またそのほか、勤労意欲がなかったり、共同作業が円滑になされていない特殊の者についてであった。
以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
右認定の事実に基づき被告会社における準社員制度を正社員の補給源としての見地よりみると、準社員たる期間は社員としての作業指導にその目的の一環を置きながらも、他面それは正社員登用の準備段階としてその期間中における勤務実績、勤務態度などを総合的に評価し当該準社員が正社員としての適格を保有するかどうかに対する、いわば適格性の審査期間として機能していることも明らかである。それに、前認定の事実から明らかなとおり準社員(ただし年令四五才以下の男子)は雇傭期間を一応三か月間と限定されているけれども、六か月間を経過した時点で正社員登用試験受験の資格を付与され、しかも、右受験は通算勤続一年以内に三回受験できるものとされていて、通常の勤務実績、勤務態度を維持する限り原則として正社員に登用されている実態にかんがみると、準社員の雇傭期間は一応三か月間とされているけれども、これは形式的なもので、実質的には勤続一年以内において自動的に契約を更新することを前提として運用されていたものと解せられる。そこで、かような準社員制度の目的、機能、運用の実態にあわせ、準社員の解雇については準社員就業規則で別途にその事由が限定的に列挙されていることを考えると、準社員雇傭契約承認書で雇傭期間の更新拒絶を正当として認められている「支障」とは、被告会社の単なる恣意的事由を指称するものではなく、当該準社員の勤務実績、態度等が就業規則所定の解雇事由に該当しないまでも、これを看過矯正し得ないほど不良で正社員登用試験を受験させてその結果をみるまでもなく、直ちに職場から排除しなければならないほど明白に社員としての適格性に欠ける場合をいうものと解するのが相当である。
2 そこで、右見地に基づいて原告に対する更新拒絶の正当性の有無につき検討する。
(証拠略)を総合すると以下の事実が認められる。
(一) 被告会社は下請会社である株式会社武部鉄工所に自動車部品の塗装を発註していたが昭和四六年一〇月五日武部鉄工所の火災により同鉄工所に塗装を発註することは不可能となった。そこで、被告会社は、応急的に日野工場と羽村工場塗装課でフレーム塗装を実施することとし他課から塗装課へ応援することとなった。羽村工場車体課からは原告ほか二名が応援に行くべき者として人選された。なお、被告会社では社外応援の場合は格別、本件のように社内応援の場合は準社員もその人選の対象とされてきた。
(二) 原告は、昭和四六年一〇月七日午前七時に出勤したが同八時すぎころ突然熊谷職長に呼ばれ塗装課へ「応援」に行くよう指示された。しかし、従来、職場で、準社員がその地位のまま応援に行くことはないと聞いていたし、それに準社員が応援に行き職場を離れることになれば技術の修得が中座して間近に迫った正社員登用選考に際し不利となるのではないかと懸念した原告は、応援には行きたくない旨述べて応援に行くことを拒絶した。
(三) 原告は、同日午前九時ころ、さらに上司の志村工長から呼出しを受け「応援」に行くよう指示された。しかし、原告は前叙の理由から応援に出されること自体について不安の念を感じていたため応援に行きたくない理由を申し述べたがこのとき志村工長が原告を説得する発言のなかで、塗装課の仕事は楽であると述べたのに対し、右発言は労働者を侮辱するものであるとして原告は興奮気味に志村工長に対し詰め寄り激しい口調で前記発言を取消せと抗議する一幕もあった。
(四) 原告は、同日午前一〇時ころ、熊谷に呼ばれ最初は志村、荒井工長らと、その後しばらくして相賀課長をも含めて三度目の話し合いをした。その際、相賀は、原告に対する説得の過程で「応援」は業務命令である旨強調したが、原告は納得せず応援には行けない旨申し述べた。なお原告は、相賀とのやりとりの間も興奮気味で話合を終え帰ろうとする同人をまだ話しがあると言って腕に手をかけ連れ戻そうとしたこともあった。
(五) さらに原告は、同日午後二時二〇分ごろ熊谷から詰所に呼ばれた。そこで原告は事務課の原田から応援拒否は業務命令違反として就業規則上懲戒解雇になる旨指摘された。そこで、原告は再考し、原田に翌日まで応援に行くかどうか返事を待ってくれと頼み、原田もこれを了承し、明日は応援に行ってくれと言って別れた。なお、この間の原告の態度は比較的冷静であった。
(六) 原告は、翌八日、平常通り出勤し、熊谷に対し、応援拒否の場合に原告に対しとられる処置、応援に行った場合の社員登用試験の受験の可否等につき再度質問したうえ、結局は応援に行き、以後格別の支障もなく応援の仕事を遂行した。
(七) なお、原告が応援に行く前の車体課における勤務ぶりは至って良好で、欠勤も少なく、各工程の作業能力も十分備えているものと評価されていた。
以上の各事実が認められ、前掲各証拠中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
以上認定の事実によると、上司から塗装課への応援を指示された原告がこれを拒絶し、くわえて、その話合いの過程においてかたくなな態度を示し、しかも、興奮の余りとはいいながら一見上司に反抗するような言辞を弄した点で原告に非難されるべき点があったことは否定できない。
しかしながら、原告が右のような態度に出たのは、準社員は応援に出ることはないと理解し、それに、当時は正社員登用試験も切迫していたことから、もし、応援に出るとするとその受験に支障となると憂慮し、そのうえ突然のことでもあったことから心理的に動揺をきたした結果によるもので、ことさら被告の業務に反抗すべく意図したものではなく、いわば偶発的なものといえる点でその情において十分酌むべき点がある。それに、一時的に被告の応援指示を拒否した原告も再考のうえ最終的には被告の了解を得て指示どおり応援に行き支障なく業務を遂行しているし、また、これまでの原告は準社員として真面目に働き欠勤日数も少く、勤務実績、勤務態度も良好で、とくに問題とならなかったことが明らかであるから、かような諸点を考慮すると、原告に前示のようないささか不穏当な言動が偶発的にあったことをもって、直ちに、原告はまったく社員として不適格であり、しかも、その不適格性は正社員登用試験の結果をまたず一見明白であって、直ちに原告を終局的に職場より排除しても異とするに足りないほどのものと解することはできない。
3 以上によれば原告には被告から契約の更新を拒絶されるような支障事由は存しなかったことに帰するので、原告に支障事由が存したことを前提にしてなされた被告の更新拒絶の意思表示は無効というべきであり、また準社員雇傭契約書三条による雇傭打切の意思表示がなされていないので原告と被告との間にはいぜん雇傭関係が存続し、原告は被告会社の準社員としての地位を有するものというべきである。しかして、被告会社が終始原告の右地位を争っていることは弁論の全趣旨により明らかであるから原告は右地位の確認を求める法律上の利益がある。
なお、被告は、雇傭契約の自動更新によって右契約が期間の定めのない契約に移行したことを前提として更新拒絶の意思表示は、実質上解雇の意思表示に相当すると主張するが、右主張の前提が採用し得ないことはこれまで検討してきた点から明らかであるから右主張は採用しがたい。
4 賃金請求権の存否
弁論の全趣旨によれば、原告は本件意思表示後も被告会社に対し就労を請求し続けているにもかかわらず、被告会社においてその労務提供の受領を拒絶していることが明らかであるから、原告は本件意思表示後も賃金請求権を失ういわれはない。
5 賃金額について
原告の賃金が、毎月一回締切りで、前月の一六日より当月の一五日までの分を毎月二五日に支払われる約になっていることについては当事者間に争いがない。
そして、(証拠略)によれば、原告の賃金は日給月給制であって、原告が契約更新をされなかった月の賃金締切日以前三ケ月間(すなわち、昭和四六年八月、九月、一〇月)に支払われた賃金総額は一四二、八八六円と認められるからこれを前記月数三で除した金額すなわち、四七、六二八円が原告の一ケ月平均して受くべき賃金と認めるのが相当である。
以上によれば、被告会社は、原告に対し、昭和四六年一一月一六日以降原告を復職させるまで毎月二五日限り金四七、六二八円を支払う義務がある。
三 以上認定説示のとおりであるから、原告の本訴請求はその余につき判断するまでもなくすべて理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前田亦夫 裁判官 神田正夫 裁判官田中康郎は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 前田亦夫)
別紙一
(1) 第三〇条(解雇)
準社員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
<1> 天災地変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合
<2> 作業計画の変動のため経営上減員の必要がある場合
<3> 精神または身体に障害があり就業にたえないと認められる場合
<4> 雇傭期間中において、理由のいかんを問わず欠勤がその期間の八分の一以上になった場合
<5> 無断欠勤が継続して七日以上にわたる場合
<6> 勤務状態が劣悪な場合、または勤労意欲が低い者で会社がこれ以上雇傭する必要がないと認めた場合
<7> 居住の場所が不明の場合
(2) 第三七条(懲戒の種類および方法)
懲戒は次に掲げる四種とし、その一または二以上を併科する。ただし、情状酌量の余地があると認められるときは上長の訓戒にとどめることがある。
<1> けん責 始末書をとり将来を戒める。
<2> 減給 始末書をとり一回について平均賃金半日分以内を減給し将来を戒める。ただし、二回以上にわたる場合においても月収の一〇分の一をこえることはない。
<3> 出勤停止 始末書をとり原則として一四日以内出勤を停止し将来を戒める。
<4> 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時解雇する。
(3) 第三八条(懲戒の基準)
準社員が次の各号の一に該当するときはその情状に応じてこれを懲戒する。ただし、その行為の程度が悪質であると認められる場合は懲戒解雇とする。
<1> この規則または遵守すべき事項に違反したとき
<2> 職場の風紀秩序をみだしたとき
<3> タイムカードの不正打刻、その他虚偽の届出、申告(報告を含む)、願出を行なったとき
<4> 勤務怠慢で業務に対する誠意を認め得ないとき
<5> 正当な理由がなくして所定の作業の遂行を怠ったと認められるとき
<6> みだりにたき火をする等火気を粗略に取扱ったとき
<7> 私物を作成または修理したとき
<8> 許可なく会社の金品を持出し、または私用に供したとき
<9> 故意または重大なる過失によって会社に損害を与えたとき
<10> 素行不良にして他の者に悪影響をおよぼす恐れがあるとき
<11> 業務上の文書、帳票を偽造しまたは故意あるいは重大な過失によって破損、紛失、焼却したとき
<12> 会社の名義または準社員としての資格を利用して自己または他人のために私利を営む行為をしたとき
<13> 正当な理由なくしてしばしば遅刻、早退または欠勤をしたとき
<14> 故意または重大なる過失によって勤務その他業務上必要な手続、届出等を怠ったとき
<15> 前各号に掲げる行為を企て、共謀し、煽動し、使そうし、教唆し、もしくはほう助したとき
<16> その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき
(4) 第三九条(懲戒の基準)
社員が特に次の各号の一に該当するときはこれを懲戒解雇とする。
<1> 刑法に規定する犯罪に該当することをしたとき
<2> 会社内で賭博、窃盗、詐欺、暴行、脅迫その他これに類似の行為をしたとき
<3> 作業上注意を怠りまたは管理不充分なために、火災その他事故を起しまたは他の者を傷害に至らしめたとき
<4> 業務上の指揮命令等に従わず職場の秩序をみだしたとき
<5> 故意または重大なる過失によって会社の名誉、信用を汚したとき
<6> 不正な方法で採用され、または経歴をいつわって雇入れられたとき
<7> 注意を受けたにかかわらずしばしば職場を離脱したとき
<8> 故意に作業の能率をさまたげ、または業務上の機能を阻害したとき
<9> 会社の機密またはその他職務上知り得た秘密を他にもらしたとき
<10> 会社の構内であらかじめ許可なく演説、放送、指示等を行ないまたはビラ、文書、図書、刊行物を配布したとき
<11> 作業時間中あらかじめ許可なく業務外の集会その他これに準ずることを行なったとき
<12> 会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇入れられたとき
<13> 注意、訓戒または懲戒を受けたにかかわらず改悛の情がないとき
<14> 前各号に掲げる行為を企て、共謀し、煽動し、使そうし、教唆し、もしくはほう助したとき
<15> その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき
別紙二 準社員雇傭契約承認書
私事、準社員として雇傭されるにあたり、下記の事項を承認致します。
記
1 雇傭契約期間は昭和四六年四月二九日より昭和四六年八月一五日までとし、支障のない場合は更に三ケ月ずつ自動的に雇傭契約を更新するものとする。
2 各雇傭期間中において準社員就業規則第三〇条に該当するに至った時は前項の雇傭契約期間に拘らず解雇することがある。
3 社員へ登用される資格は通算勤続六ケ月経過後に発生するものとする。通算勤続一年以内に登用されなかった場合には原則として一ケ月の予告期間をおいて雇傭を打切るものとする。
以下省略