東京地方裁判所八王子支部 昭和47年(ワ)221号 判決
原告
株式会社教育社
被告
教育社労働組合
主文
1 被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を収去してその敷地を明渡せ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨並びに仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、小・中・高校生向け月刊家庭学習教材「トレーニングペーパー」等の出版及び販売を業とする会社であり、被告は原告に雇傭されている労働者を組合員とする労働組合である。
2 別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という。)の敷地(以下、本件土地という。)は、原告の本社屋(以下、新本社屋という。)の敷地の一部であり、原告は本件土地を所有している。
3 被告は、昭和四六年九月二〇日、本件土地上に組合事務所として本件建物を建築してこれを所有し、右土地を占有している。
4 よって、原告は被告に対し、本件土地の所有権に基づき本件建物を収去して本件土地の明渡を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実はすべて認める。
三 抗弁
1 使用権
(一) 被告は、昭和四六年一月一九日、原告に組合結成を通知するとともに、組合事務所設置等を要求し、団体交渉の末、同年三月一二日、原被告間で武蔵野市西久保二丁目七番所在の当時の原告本社屋(以下、旧本社屋という。)に隣接する建物の一階の一部(約三・一一坪)を本社移転時期まで組合事務所として原告が被告に無償貸与する旨の契約(以下、本件契約という。)が締結された。
(二) ところで、右使用期間の定めは、当時、旧本社敷地の賃借期限が間近にせまり、本社移転が確実であって、旧本社屋の施設使用が右移転時期までに限られるために定めたにすぎなかったので、本件契約に際し新本社屋に移転後も、原告は被告に旧本社屋におけると同程度の新本社屋の施設を組合事務所として貸与する旨の合意がなされた。
(三) 原告は本件契約で被告に対し企業施設使用権を認めたものであって、右施設使用権は組合の団結の存続する限り、合理的な理由なしに、あるいは代替施設の提供なくしては奪うことのできないものであるから、被告は原告の企業経営上重大な支障のない限り継続してその企業施設を使用しうるものである。
また、労働組合は、憲法及び労働組合法の規定により企業所有の施設に対して当然最少限度の広さで組合事務所を設ける権利を有するので、被告は原告に対して企業施設使用権を有するものである。
(四) しかるに、原告は新本社屋に移転後も、被告が組合事務所として使用すべき施設の具体的指定を行わず、一方旧本社屋の解体工事に着手しようとしたので、被告は物的基礎である組合事務所を失ってその活動に支障をきたす虞が生じたため、やむなく自ら右具体的指定を行い本件建物を建築したものである。そして、原告が被告の施設使用権を否定して何らの指定をしない場合は、被告においてその指定を行い自らの負担で組合事務所の設置をなすことも許されるものである。
2 権利の濫用
仮にそうでないとしても、原告は、本件建物によって施設管理、業務運営上何らの支障を受けるものではなく、さらに昭和四六年九月二八日、原告は本件建物の設置を事実上認めたのであるから、原告の本訴請求は信義誠実の原則に反するうえ、被告の組合活動の拠点である組合事務所の収去により被告の組合活動に打撃を与えることを意図するものであって、原告の本訴請求は権利の濫用である。
四 抗弁に対する認否及び原告の主張
1 抗弁1(一)の事実は認める。
同1(二)のうち、賃借期限が間近にせまり、本社移転が確実であったことは認め、その余は否認する。すなわち、原告は、旧本社屋に隣接する建物の一部を組合事務所として提供せよとの被告の申入れに対し、前記のとおり本社移転が確実であったため、移転時期までとする期限を付してその使用を認めたのであって、新本社屋においても被告の施設使用を認めることに合意していない。
同1(三)の事実は否認する。すなわち、前記のとおり本社移転に加えて、移転先について新本社屋のほかは内定の状況であったので、移転後の会社施設の使用計画がたてられず、被告も右事情を了解して期限を定めた本件契約を締結したものであるから、被告には新本社屋の施設使用権原はない。又、憲法及び労働組合法の規定による使用権の主張は争う。
同1(四)のうち具体的指定を行わなかったことは認めるがその余は争う。
2 抗弁2のうち本件建物の設置を事実上認めたことは否認し、その余は争う。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁1について判断する。
1 抗弁1(一)の事実及び同(二)の本社移転時期が間近に迫っていたことは当時者間に争いがない。
2 ところで、被告は本件契約における期限の定めは、本社移転時期が迫っていたので当然その時期までに限ったに過ぎず、移転後も旧本社屋におけると同程度の広さの組合事務所の設置を認める旨の合意がなされ、原告は被告が企業施設を使用することを認めたのであるから企業経営上重大な支障のない限り、継続して使用を許さなければならない義務を有するものであるから被告には本件土地の使用権がある旨主張する。
3 そこで(証拠略)を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 本件契約締結当時、本社移転計画が具体化され、新本社屋に移転するほか、新築中の三鷹駅南口所在三菱銀行ビル八階部分(以下、三菱銀行ビルという。)への移転計画が進められていたので、原被告ともほぼ同ビルに移転することに確定するものと考えていた。
(二) このような事情の下で、原被告間の団体交渉がなされ、その結果、昭和四六年三月一二日、本社移転時期が間近であるので、旧本社屋使用期間を会社移転時期までとし、又、前掲のとおり移転先については未確定であったが、少くとも第三者のビルを賃借して事務部門をそこに移転することは明確であったから、その場合のビル使用上の制約をも考え、施設使用時間を午前八時三〇分から午後七時までとし、会社移転時期までは午後八時までとする等の取決めがなされて本件契約が締結された。そして右団交の席上、移転後の組合事務所設置についても問題となったが、移転先が確定していないので具体的な取決めができず、したがって最終的に確定したときに位置、場所、広さ等について改めて交渉するとの話合いがなされた。
(三) 昭和四六年六月下旬、三菱銀行ビルへの移転計画は変更され、新本社屋のほか最終的に三鷹市所在の井野ビル三協ビルほか二か所に分散して移転することに決まった。そこで、被告は職場が地域的に二分されるので新本社屋と三協ビル(後、井野ビルに変更)の二か所に組合事務所の設置を原告に要求したが、いずれもスペースがない等の理由で拒否され、一方、原告は組合事務所として適当な場所を賃借し賃料を原告が負担することを提案したが、原告の予定する場所は地理的に組合活動に支障があるとの理由で被告に受入れられず、交渉は難航し、昭和四六年九月九日から被告は時限ストに入った。
(四) そして、被告は昭和四六年九月二〇日午後二時から組合事務所設置につき団体交渉をすることを原告に申入れこれに応じないときは、実力で本件建物を設置することを計画していたところ、原告は就業時間中(組合員は時限ストを行っていたが、非組合員は就業していた。)であることを理由としてこれを拒否し、同日午後五時以降であれば団体交渉に応ずる旨回答したが、被告は右回答を不満として同日午後二時三〇分ころから原告に何らの通告もなさず、既に用意してあった旧本社屋の解体材を用いて新本社敷地内に本件建物を建築し、被告の要求を実現し、さらに同日、井野ビルの一部(約一坪)に仮組合事務所を設けた。
(五) その後の団体交渉により、同月二三日、原告は井野ビル内の前掲仮組合事務所の設置を正式に認め、同月二八日、被告に対して本件建物を実力では撤去しない旨述べた。
(六) ところで、本件建物は、原告の敷地の長方形の空地部分に建てられているが、右空地には担保権が設定されている。
(七) 以上の事実が認められ、(人証略)のうち、右認定に反する供述部分はたやすく信用することができず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
4 以上認定の事実によれば、被告主張のように新本社屋に旧本社屋におけると同程度の組合事務所設置を認める合意がなされたものとまでは認められないが、組合事務所設置の具体的な位置、場所、広さ等については移転先が確定した段階で再度交渉して決めることとし、少くとも本社の移転先に組合事務所を設置する旨の抽象的な合意は、原被告間になされたものと解することができる。
ところで、本社移転後、原被告間において具体的な組合事務所設置について団体交渉が重ねられたが、その団体交渉継続中に突如として被告は原告に無断で本件建物を設置したものである。かように、原被告間においてはすでに組合事務所設置の抽象的合意がなされているのであるから、原被告は組合事務所の具体的な位置、場所、広さ等について真摯に団体交渉を継続し、これによってその実現を計るべきであって、それまでの間、被告は、原告の企業施設に対して何ら具体的な使用権を取得するものでなく、また、たとえ原被告間に具体的な合意が成立しないからといって被告において一方的にこれを定め、その使用権を確保すべき権原があるものとは解されないものである。
被告は、本件契約により企業施設使用権が生じ、また、労働組合には憲法上及び労働組合法上企業所有の施設に対して当然最少限度の広さの組合事務所を設ける権利があると主張しているが、その根拠に乏しいのみならず、仮にあるとしても、右も一般的抽象的な権利にすぎないから、当然に具体的権利の発生しないことは前同様である。
これを要するに、組合事務所を設置することについて一般的抽象的合意があるとしても、その具体的位置、場所、広さ等を決定し、被告において具体的な権利を獲得することは、まさしく、専ら労使の自主的交渉にまつべき事柄であって、一方的にこれを決定し、実力行使により具体的権利を取得すべき筋合のものではないのである。
そうすると、抗弁1は理由がないものといわなければならない。
三 次に抗弁2(権利濫用)について判断する。
前記認定の事実によれば、被告の申入れた昭和四六年九月二〇日の団体交渉について原告は無条件に拒否したものではなく、また、団体交渉開始時刻について調整の余地がなかったわけでもないのに、被告は何らの通告もなしに、一方的に原告の敷地内に本件建物を建てたのであり、前掲判示のとおり右行為は何らの権原に基づくものではなく、原告にとって本件建物の存在はその位置から原告の敷地の利用及びその営業に支障を生ずる可能性のあることが窺えるのであり、さらに前記認定の本件建物が建てられるに至った事情及び原告が井野ビル内に設置された仮組合事務所を認めた(すなわち、その施設使用を認めた。)事実によれば、本件請求が組合活動に支障をきたすことを意図するものとはいえず、また、前記のとおり実力で本件建物を撤去しない旨の約束をしても、法律上の手続によりその権利を行使することは別段信義則に反するものではなく、その他諸般の事情を考慮しても、本件建物収去・土地明渡を求める原告の本訴請求が権利の濫用にわたるものということはできない。
そうすると、被告の主張する抗弁2は理由がないものといわなければならない。
四 以上被告の抗弁はすべて理由がないところ、前示請求原因事実によると、被告は原告に対して本件建物を収去して本件土地を明渡すべき義務があるから原告の本訴請求は理由があるものとしてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前田亦夫 裁判官 村重慶一 裁判官 小嶋典子)