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東京地方裁判所八王子支部 昭和48年(ワ)356号 判決 1974年11月28日

主文

被告安間建設株式会社および同安間徳子は、原告に対し、連帯して金三、七〇一、七二六円および内金三、四〇一、七二六円に対する昭和四五年五月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告安間建設株式会社および同安間徳子に対するその余の請求ならびに同安間徳造に対する請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告安間建設株式会社および同安間徳子との間に生じたものは、これを三分し、その一を原告の、その余を右被告らの各負担とし、原告と被告安間徳造との間に生じたものは全部原告の負担とする。

この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、原告に対し、連帯して金五、九二一、〇四四円および内金四、九四一、〇四四円に対する昭和四五年五月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和四五年五月二五日午後三時三〇分ごろ、普通貨物自動車(以下「原告車」という)を運転して厚木方面から秦野方面に向つて進行し、神奈川県厚木市中町二丁目一四番一四号先道路にさしかかつた際、同所において、対向進行してきた被告安間徳子(以下「被告徳子」という)運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という)に衝突され、その結果右膝蓋骨粉砕骨折、胸部打撲の傷害を受けた。

2  本件事故は、被告徳子が被告車を運転進行中、対向車線を横断するに当り、対向車の有無およびその動静に十分注意すべき義務があるのに、これを怠り、対向してくる大型車の通過のみに気を取られ、後続の原告車に注意せず、しかも右折の合図をしないまま急に対向車線を横断しようとしたため発生したものであるから、同被告は民法第七〇九条により、被告安間建設株式会社(以下「被告会社」という)は、被告車を所有し、これを自己の業務に使用していたものであるから、被告車の運行供用者として自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)第三条により、被告安間徳造(以下「被告徳造」という)は、被告会社を代理して被告車を管理する地位にあつた者であるから民法第七一五条第二項により、それぞれ原告の被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の損害

(一) 休業損害 金一、〇七四、八二〇円

原告は、本件事故当時、中村薬品株式会社に勤務し月額金八五、八二〇円の収入を得ていたが、本件事故により昭和四五年五月二五日から昭和四六年四月二五日まで欠勤を余儀なくされたため、一一か月分の給料金九四四、〇二〇円と昭和四五年一二月に受くべき賞与金一三〇、八〇〇円の収入を失つた。

(二) 逸失利益 金二、八八六、二二四円

原告は、本件事故当時、三四歳の健康な男子であつたところ、本件事故により右膝関節に伸展一八〇度、屈曲九〇度の著明な拘縮を残し、右後遺障害は自賠法施行令第二条別表第一二級第七号に該当するので、一四パーセントの労働能力を喪失したが、右の状態は少なくとも症状の固定した時点から二七年間継続するものと考えられる。そして、原告が本件事故当時、前記会社から月額金八五、八二〇円の給料と年間金二二三、九一〇円の賞与を得ていたので、右収入を基礎にホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して、原告の逸失利益を算出すると、金二、八八六、二二四円(¥1,258,690×14/100×16.3789)となる。

(三) 慰謝料 金一、五〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故により前記のような傷害を負い、九五日間入院したほか、二二四日(実日数)間通院して治療を受けたが治癒するまでに至らず、前記のような後遺障害があつて自動車の運転に支障をきたし、そのため営業成績も低下する一方なので、前記会社にいずらくなり、昭和四七年八月末日をもつて前記会社を退職した。また、原告は、本訴を提起するに先立ち被告会社を相手に損害金の支払いを求める調停を申し立てたが、被告会社は、被告徳子に責任を転嫁するのみであつて、右請求に応じようとせず、全く誠意を示さない。以上のことを考慮すれば、原告の被つた精神的苦痛を慰謝するには金一、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

(四) 弁護士費用 金九八〇、〇〇〇円

原告は、被告らに対し、金四、九四一、〇四四円の損害賠償請求権を有するところ、被告らがこれを任意に支払わないので、原告代理人らにその取立てを委任し、その報酬として、昭和四七年九月四日金一〇〇、〇〇〇円を支払つたほか、判決言渡時に金八八〇、〇〇〇円を支払うことを約した。

(五) 損害の填補

原告は自賠責保険から金五二〇、〇〇〇円の支払いを受けたので、これを前記損害金に充当した。

4  よつて、原告は、被告らに対し、連帯して金五、九二一、〇四四円および内金四、九四一、〇四四円に対する本件事故の日である昭和四五年五月二五日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実を認める。

2  同第2項の事実中、被告車が被告会社の所有であることは認めるが、その余は否認する。本件事故は、原告の前方注視義務違反および制限速度違反の過失によつて発生したものである。

3  同第3項の事実中、(五)の事実を認め、その余は知らない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因第1項の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、被告らの責任について判断する。

1  成立に争いのない乙第一号証の一、同号証の四、五、同号証の七ないし一〇、原告および被告安間徳子の各本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

本件事故現場は、歩車道の区別のある幅員一二・二メートルの国道二四六号線上であつて、市街地ではあるが直線で見通しのよい場所であり、制限速度は毎時四〇キロと指定されている。被告徳子は、被告車を運転して西方から東方に向つて進行し、本件事故現場にさしかかり、同所の南側にあるガソリンスタンドでガソリンを補給するため、対向車線を横断すべく、右折の合図をしたうえ、一時停止して対向車の交通を確認した際、対向車線を時速四〇キロの速度で進行してきた原告運転の原告車を認めたが、横断を開始する時点では原告車が前記速度のまま約四八メートルの地点まで接近してきていたのにかかわらず、十分横断できるものと軽信し、被告車を発進させて横断を開始したところ対向車線を進行してきた原告車に被告車を衝突させた。

右認定に反する原告および被告安間徳子の各本人尋問の結果ならびに前示乙第一号証の九の供述記載部分はいずれも措信できず、また、前示乙第一号証の四には、原告車にも制限速度を超えて走行した過失がある旨の記載があるけれども、右は本件交通事故の捜査に当つた警察官の情状に関する単なる意見であつて、原告車が制限速度を超えて走行していたことを認めるに足りる証拠のない本件においては、乙第一号証の四の前記記載部分をもつて前記認定を覆えすに十分でなく、他に前記認定に牴触する証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故は、被告徳子が対向車線を横断するに当り、対向車との安全を十分確認しないまま横断を開始した過失により発生したものといわなければならず、したがつて、被告徳子は、直接の不法行為者として民法第七〇九条により原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告車は被告会社の所有であることは当事者間に争いがないので、被告会社は自賠法第三条により原告の被つた損害を賠償する責任がある。

3  使用者に代つて事業を監督する者は、その被用者が事業の執行につき第三者に損害を加えたときは、民法第七一五条第二項によりその損害を賠償しなければならないが、その前提として、行為者と責任を負う者との間に使用関係が存しなければならないところ、前示乙第一号証の九、成立に争いのない乙第一号証の一二、被告安間徳子本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、被告徳造は、被告会社の代表取締役であつて、そ分の従業員を指揮監督する地位にある者であるが、被告徳子は、本件事故当時、厚木胃腸科医院の事務員として勤務していた者であつて、被告会社に勤務していた者ではなく、たまたま父親である被告徳造を商工会議所まで送り届け、その帰途本件事故を惹起させたものであることが認められる。してみると、被告徳子と被告会社との間には使用関係が存しないことは明らかであるから、被告徳造は原告の被つた損害を賠償する責任がないといわなければならない。

三  次に、原告の被つた損害について判断する。

1  成立に争いのない甲第四、五号証、岡島作成名義部分を除いた部分の成立については当事者間に争いがなく、右除外部分の成立については原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第一号証、原告本人尋問の結果とこれにより成立の認められる甲第三号証ならび弁論の全趣旨によると原告は、本件事故当時、中村薬品株式会社に勤務し、昭和四五年三月一日から同年五月二五日までの八六日間に合計金二五七、四六〇円の収入をあげていたところ、本件事故により同月二六日から昭和四六年四月一〇日までの三二〇日間休業を余儀なくされ、その間に合計金九五八、〇八〇円(320日×¥257,460/86日)の収入を失つたことが認められる。なお、原告は昭和四五年一二月に支給されるべき賞与金一三〇、八〇〇円の収入を失つた旨主張するが、本件全証拠によるも右主張を認めることができない。

2  前示甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証ならびに原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故により右膝蓋骨粉砕骨折、胸部打撲の傷害を受け、東京都中野区所在の小原病院で治療したけれども全治せず、現在も右膝関節に伸展一八〇度、屈曲九五度の著明な拘縮が残つていてこれ以上回復の見込みがなく、右後遺障害は自賠法施行令第二条別表第一二級第七号に該当することが認められる。したがつて、原告は、一四パーセントの労働能力を喪失し右の状態は症状の固定した時点から原告が満六〇歳に達するまでの二三年間継続するものと考えられるところ、原告が本件事故当時一日金二、九九四円の収入をあげていたことは前記1で認定したとおりであるので、右収入を基礎にライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除して労働能力低下による原告の逸失利益の現価を算出すると、金二、〇六三、六四六円(¥2,994×365日×14/100×13.4885)となる。

3  本件事故の態様、傷害の部位程度、入通院期間、後遺障害の程度、その他諸般の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝するには金九〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

4  原告が自賠責保険から金五二〇、〇〇〇円の支払いを受け、これを原告の前記損害金に充当したことは当事者間に争いがない。

5  以上のとおり、原告は、被告会社および同徳子に対し、金三、四〇一、七二六円を請求し得るところ、原告本人尋問の結果によると、右被告らが任意に支払わないので、原告は、弁護士たる原告代理人らにその取立てを委任し、その報酬として認容額の二割相当額を支払うことを約したことが認められるが、本件訴訟の経過その他諸般の事情を考慮し、被告会社および同徳子に賠償を求め得る金額は金三〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

四  以上の次第で、被告会社および同徳子は、原告に対し、連帯して金三、七〇一、七二六円および右金員から弁護士費用を除いた金三、四〇一、七二六円に対する本件事故の日である昭和四五年五月二五日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、原告の本訴請求は、右の限度で正当であるからこれを認容し、被告会社および同徳子に対するその余の請求ならびに被告徳造に対する請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新田誠志)

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