東京地方裁判所八王子支部 昭和49年(わ)651号 判決 1979年6月08日
主文
一、被告人を罰金一五、〇〇〇円に処する。
二、右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
三、訴訟費用は被告人の負担とする。
四、被告人に対し、選挙権および被選挙権を有しない期間を短縮し、これを三年とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和四九年六月一六日施行の立川市議会議員一般選挙に際し、立候補することを決意し、自己に投票を得る目的で、いまだ立候補の届出のない同年同月二日および三日の両日にわたり、別紙一覧表記載のとおり、同選挙の選挙人である東京都立川市砂川町二七四五番地二四坪倉正守方ほか一一戸を戸々に訪問し、同人らに対して自己に投票するよう依頼し、もつて戸別訪問するとともに、立候補届出前の選挙運動をしたものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人の判示所為中事前運動の点は包括して公職選挙法二三九条一号、一二九条に、戸別訪問の点は包括して同法二三九条三号、一三八条一項に各該当するが、事前運動と戸別訪問とは一個の行為にして二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により犯情の重い戸別訪問の罪の刑で処断することとし、所定刑中罰金刑を選択し、所定金額の範囲内で被告人を罰金一五、〇〇〇円に処し、同法一八条により被告人において右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとし、公職選挙法二五二条四項により同条一項の五年の期間を三年に短縮することとする。
(訴因に対する判断)
訴因別表13は、これを認めるに足りる証拠がないが、判示事前運動および戸別訪問の各罪と包括一罪の関係に当るとして起訴されたものと認められるから、主文において特に無罪の言渡をしない。
(公訴権濫用の主張について)
弁護人らは縷々述べて本件公訴提起は検察官が公訴権を濫用してした違法不当な起訴であるから公訴を棄却すべきである旨主張するが、本件審理の全過程を通じて検察官の公訴提起を違法不当とする事情は何ら認められないので、右主張は理由がない。
(違憲の主張について)
弁護人らは縷々述べて戸別訪問禁止規定が違憲である旨主張するが、同規定が違憲でないことは、最高裁判所大法廷判決(最高裁判所昭和四三年(あ)第二二六五号、同四四年四月二三日大法廷判決刑集二三巻二三五頁)をはじめとする累次の判決の明らかにするとおりであるから、右主張は理由がない。
よつて主文のとおり判決する。
別紙一覧表
<省略>