東京地方裁判所八王子支部 昭和49年(ワ)7号 判決 1976年5月26日
原告
岩崎筆吉
被告
成田博孝
主文
被告は原告に対し金一〇三万五六五〇円およびこれに対する昭和四九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
この判決は、第一項に限り、かりに執行できる。
事実
原告は、「被告は原告に対し八四五万五〇八二円およびこれに対する昭和四九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として
一 事故の発生
昭和四六年一月一四日午後五時二五分ころ、東京都八王子市石川町二五四〇番地三先の道路で、被告運転の自家用普通乗用自動車(多摩五ぬ六九二〇号)が原告運転の自家用軽四輪貨物自動車(六多摩か四〇〇四号)に追突し、原告が頸部捻挫、後頭部挫傷等の傷害を負つた。
二 責任原因
被告は、右事故の発生につき過失があつたから、民法七〇九条により、右事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。
三 損害
(一) 治療費 五三万八四八〇円
昭和四六年一月一四日から昭和四七年一二月三一日までの分。
(二) 交通費その他雑費 八万五〇二二円
(三) 休業損害 六一一万四二〇〇円
原告は、有限会社岩崎電気水道工事店の取締役であり、事故前三か月間の平均給与は一日六四三六円であつたが、本件事故による傷害のため、昭和四六年一月一五日から昭和四八年一二月一一日までの間に八〇日間稼働したにすぎず、その余の九五〇日間は休業を余儀なくされ、その間の給与六一一万四二〇〇円相当の損害を受けた。
(四) 慰藉料 二三四万九一四〇円
昭和四八年一二月一一日付診断書によると、なお一年間の通院加療を要するとあるので、一年分の休業補償費相当額二三四万九一四〇円を慰藉料として請求する。
(五) 損害の填補
原告は、自賠責保険金五〇万円の給付を受けたので、このうち一五万六〇一八円を治療費に、七万六九八二円を交通費その他雑費に、二六万七〇〇〇円を休業損害にそれぞれ充当する。また、東京都から傷病手当金一三万一七六〇円の支給を受けたので、これを休業損害に充当する。
四 結論
以上の理由により、原告は被告に対し、損害賠償金八四五万五〇八二円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四九年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。〔証拠関係略〕
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する認否として
第一項のうち原告が傷害を負つた点は不知。その余は認める。
第二項は認める。
第三項のうち(五)の原告が自賠責保険金五〇万円を受領したことは認めるが、(一)ないし(四)は争う。〔証拠関係略〕
理由
一 事故の発生
請求原因第一項記載の事実は、原告が傷害を負つた点を除いて当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第二号証の一・二、第三号証の一によると、原告は、右事故により頸部捻挫、後頭部挫傷等の傷害を負つたことが認められる。
二 責任原因
請求原因第二項記載の事実は当事者間に争いがない。
三 損害
前掲甲第二号証の一・二、第三号証の一、成立に争いない甲第二号証の三ないし七、第三号証の二ないし四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一五号証の一ないし四のうち杏林大学医学部附属病院の医師作成部、成立に争いない乙第一〇号証の一ないし三および証人岡本安弘の証言によると、原告は、本件事故発生当日、多摩川相互病院で診察を受け、その後脳波にも異常があることが認められたので、前記傷害の治療および脳波検査のため、昭和四六年一月一六日から昭和四九年六月ごろまでの間に約一一〇回、杏林大学医学部附属病院に通院した結果、脳波も正常に復し、ほぼ全快したことが認められる。
そこで、原告の主張する損害の数額について判断する。
(一) 治療費 五三万八四八〇円
前掲甲第三号証の一ないし四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証のうち前記附属病院の医師作成部分によると、原告は、昭和四六年一月一四日から昭和四七年一二月三一日までの治療費、脳波検査費および診断書代として合計五三万八四八〇円を支出し、同額の損害を受けたことが認められる。
(二) 交通費その他雑費 二万八九三〇円
原告本人の供述、これにより真正に成立したものと認められる甲第二二号証の一・二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証および第一四号証の五のうち原告作成部分によると、原告は、前記通院に伴ない、交通費として少なくとも八九三〇円を支出し、同額の損害を受けたことが認められ、かつ、通院雑費として少なくとも合計二万円を要したであろうことは推認に難くないが、これらを超える部分については証明が十分でない。
(三) 休業損害 四〇万円
成立に争いない乙第四号証および原告本人の供述によると、原告は、本件事故当時、妻岩崎嗣子が代表取締役をしている有限会社岩崎電気水道工事店に勤務し、配管等の作業に従事していたことが認められる。
ところで、原告は、前記傷害により事故の翌日から昭和四八年一二月一一日までのうち稼働できたのは八〇日間にすぎず、その他は全く働くことができなかつた旨主張するが、この点に関する甲第五号証の一ないし七(出勤簿)は、後掲の賃金台帳と同様の理由から採用し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
前掲各証拠によると、原告は、前記傷害による症状として、長期間にわたつて、頭痛、不眠、疲労感等を訴えているが、これらがすべて前記傷害によるものといえる他覚的所見はなく、脳波の異常も軽度であり、稼働能力に影響を及ぼす程のものではないことが認められるので、前記治療日数等の諸事情を総合して考慮すると、前記傷害による原告の休業期間としては、受傷直後治療に専念すべき期間のほか、その後、右自覚症状に伴なう労働能力の低下、通院に伴なう労働時間の短縮等による分をも含めて、全体として四か月間と認めるのが相当である。
次に、原告の収入であるが、この点に関する甲第六号証の一ないし五、第一六号証の一ないし三(いずれも賃金台帳)は、原告においてどのようにでも作成できる文書であり、現に、成立に争いない甲第一七号証の一ないし三および弁論の全趣旨によると、原告は、本訴において賃金台帳を甲第六号証として提出した後、これに所得税等の控除がないことに気付き、辻褄を合わせるため、事故後三年を経た昭和四九年二月一四日に至つて、本件事故前三か月間の給料について所得税を納付するとともに、賃金台帳にその旨を記載し、これを甲第一六号証として提出した経緯があるので、右賃金台帳の記載内容は信用できない。
そこで、一般に公開されている統計資料である「賃金センサス」昭和四六年一巻二表による平均給与額を参考にして原告の収入を算出するところ、原告は、事故当時四二歳の男子であるから、月平均少なくとも一〇万円の収入を得べかりしものと認めるのが相当である。
よつて、原告の休業損害額は、月一〇万円の割合による四か月分、すなわち四〇万円と算定される。
(四) 慰藉料 七〇万円
原告が前記傷害を受けたことによる精神的苦痛を慰藉すべき額は、諸般の事情に鑑み、七〇万円と認めるのが相当である。
(五) 損害の填補 六三万一七六〇円
本件事故に関して、原告が自賠責保険金五〇万円の支給を受けたことは当事者間に争いがなく、かつ、原告本人の供述によると、原告は、このほかに健康保険法による傷病手当金一三万一七六〇円の給付を受けたことが認められる。
そこで、以上の損害額合計一六六万七四一〇円から六三万一七六〇円を控除する。
四 結論
以上の理由により、原告の本訴請求は、被告に対し損害賠償金一〇三万五六五〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四九年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却することとする。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小長光馨一)