東京地方裁判所八王子支部 昭和53年(ワ)39号 判決 1979年10月30日
原告 大沢正吉
右訴訟代理人弁護士 川勝勝則
被告 東神自動車株式会社
右代表者代表取締役 島田大蔵
右訴訟代理人弁護士 和田正年
主文
一 被告は原告に対し、別紙目録(三)記載の建物を収去して、同目録(一)、(二)記載の各土地を明渡せ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一申立
一 原告―主文と同旨の判決及び仮執行の宣言
二 被告―左記判決
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の請求原因
一 本件賃貸借契約
別紙目録(一)、(二)記載の各土地(以下、本件土地という)は原告の所有であるが、原告は昭和四七年五月、被告に対し、本件土地を、左記約定等で、一時使用のため賃貸した。
(一) 被告は、本件土地を自動車修理工場の敷地として使用する。
(二) 期間は、賃貸借成立の日から三年間。
(三) 賃料は一ヶ月金七万円。
すると被告は、本件土地上に別紙目録(三)記載の建物(以下、本件建物という)を建築して、これを所有している。
二 ところで、本件賃貸借契約は、昭和五〇年五月、原・被告の合意により、期間を同五二年五月まで二年間延長されたが、その後右期間の満了と同時に終了した。
三 よって、原告は被告に対し、右賃貸借契約の終了に基づき、本件建物を収去して本件土地の明渡をなすことを求める。
第三被告の答弁
一 請求原因事実中「本件土地が原告の所有であること。原告が昭和四七年五月、被告に対し、本件土地を賃料一ヶ月金七万円として賃貸したこと。及びその後、被告が本件土地上に本件建物を建築して、これを所有していること。」は認めるが、その余は否認する。
二 原・被告間の右本件土地の賃貸借契約は、一時使用のための賃貸借契約ではなく、被告が本件土地で自動車の修理及び販売業を営むため、普通建物、即ち工場及び事務所の所有を目的とする期間の定めのない賃貸借契約である。
仮に本件賃貸借契約が期間を三年(更にこれを延長して二年間)とするものであったとしても、右期間は単なる地代据置の期間にすぎず、仮にこれが認められないとしても、右期間は借地人に不利益なる特約であるから、借地法上無効であって、本件賃貸借は結局、期間の定めのない契約であったというべきである。
第四証拠《省略》
理由
一 「原告が、昭和四七年五月、被告に対し、原告所有にかかる本件土地を、賃料一ヶ月金七万円として賃貸したこと。及びその後、被告が本件土地上に本件建物を建築して、これを所有していること」は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件土地の右賃貸借契約が一時使用のための賃貸借であるか否かについて判断する。
《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。即ち「本件土地は、もと農地であって、道路より相当低かったので、原告が将来のことを考え、昭和四六年夏頃、業者に依頼し、道路とほぼ同じ高さまで埋立て、これを整地したところ、同四七年春頃、被告会社代表者島田大蔵が、原告の次男大沢薫を通じて、原告に対し今度右薫と共同で自動車の修理工場を経営することになったが、目下資金不足で、その用地を取得することができない。しかし、三年間で必ず資金を作り、他へ移転するから、それまで一時本件土地を貸して貰いたい旨懇請したので、原告はこれを承諾し、同年五月、被告に対し、本件土地を、簡単且つ解体容易な自動車修理工場及びその事務所の敷地として使用する目的で、期間は同日から三年間(この間に必ず他所へ移転すること)、賃料は一ヶ月金七万円と定め、勿論無断賃借権の譲渡及び転貸を禁じたうえ、短期間の臨時使用であるからとて権利金、敷金及び礼金等は一切取らずに賃貸したこと並びに右契約に基づき、被告が建築した本件建物は、原告の予想以上に立派な建物ではあるが、工場部分は組立式であって、コンクリート基礎の上に建てられているものの、鉄骨を組合せ、ネジで止めて主要構造物を作り、屋根と壁にはスレートを張った程度の簡単なものであるので、解体・移転は困難でなく、また事務所部分も木造平家建の単純な構造であるので、撤去は容易であること」が認められ、右認定に反する被告代表者の供述(第一、二回。特に前示三年の期間は、単なる地代据置の期間にすぎない旨の供述部分)は、《証拠省略》と対比し、これを措信することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
以上認定の事実によれば、原・被告間の本件土地の賃貸借契約は一時使用のための賃貸借であると認めるのが相当である。
もっとも、《証拠省略》によれば「本件土地の賃貸借契約書には、印刷された不動文字をもって、賃貸人は本件土地を普通建物所有の目的をもって賃借人に賃貸する旨の文言が記載されてあること」が認められるが、これは、《証拠省略》によれば「原告と被告が本件土地の賃貸借契約書を作成する際、たまたま市販の土地賃貸借契約書の用紙を使用したため、通常の慣用文句が抹消されずにそのまま残ったものにすぎず、当事者双方とも、この文言が特に意味あるものとは全く考えていなかったこと」が認められるから、右事実の存在は何ら前認定の妨げにはならないものというべきである。
また、被告は、本件賃貸借契約における前示三年の期間は借地人に不利益なる特約であるから、借地法上無効であると主張するが、本件賃貸借が前叙のように一時使用を目的とする適法なものである以上、期間が三年であるとしても、直ちにこれが法律上無効となるべきいわれはないから、右主張もまた採用できない。
三 ところで、《証拠省略》によれば「本件土地の前示賃貸借契約は、その後昭和五〇年五月、原・被告の合意により、期間を特に同五二年五月まで二年間延長されたこと」が認められる。
してみれば、右賃貸借契約は昭和五二年五月末日の経過と共に終了したものというべきである。しからば、被告は原告に対し、原状回復として、本件建物を収去して本件土地の明渡をなすべき義務あるものといわなければならない。
四 よって、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用し、仮執行の宣言については本件諸般の事情にかんがみ、これを付さないことにして、主文のとおり判決する。
(裁判官 古川純一)
<以下省略>