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東京地方裁判所八王子支部 昭和57年(ワ)906号 判決 1983年3月16日

原告 コマ建設株式会社

右代表者代表取締役 駒形晃

右訴訟代理人弁護士 高梨克彦

被告 国

右代表者法務大臣 秦野章

右指定代理人 石原明

<ほか三名>

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  東京地方裁判所八王子支部が同庁昭和五六年(ケ)第七七号不動産任意競売事件につき作成した昭和五七年六月一日付別紙配当表(以下「本件配当表」という。)のうち順位4の被告に対する配当額を一、四三九万九、一五三円と変更し、順位6の原告に対する配当額を三四四万七、四一四円と変更する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  東京地方裁判所八王子支部は訴外松沢信用金庫の申立により当時訴外越村吉男(以下「越村」という。)の所有であった別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)につき昭和五六年(ケ)第七七号事件として任意競売手続を開始し、昭和五七年六月一日の配当期日において原告の別紙債権目録記載一の債権に基づく配当要求及び被告の同目録記載二の債権に基づく交付要求に基づき、原告に対しては配当金なし、被告に対し金一、七八四万六、五六七円を配当する旨の本件配当表を作成した。

右配当期日において、原告は被告が交付要求した前記債権について異議の申立をしたが、被告は右異議の申立を正当としなかった。

2  しかしながら、本件配当表には次のとおり順位4の被告の申告所得税についての配当額に過誤があるので、順位4、6の部分は請求の趣旨記載のとおり変更されるべきである。

(一) 交付要求した租税債権の不特定

被告が競売裁判所に対し昭和五六年六月三〇日に提出した交付要求書によれば、被告が交付要求した債権は越村の昭和四一年度と昭和五一年度の各申告所得税である。しかるに被告は本件訴訟において、被告が交付要求した租税債権は昭和三九年度と昭和五一年度の申告所得税であると主張する。申告所得税は課税年度毎に確定すべきものであるから、ある年度の申告所得税を他の年度のそれとすることはできない。異なる年度の申告所得税は異別の租税債権である。ところが被告は昭和三九年度の申告所得税を昭和四一年度の申告所得税として交付要求した。従って、交付要求のこの部分は債権として不特定といわざるをえず、交付要求の大部分を占めるこの昭和四一年度の租税債権が不特定である以上昭和五一年度の申告所得税を含めた交付要求全部について債権が不特定であるというべきであるから被告の本件交付要求は無効である。

(二) 第三者の弁済による租税債権の消滅

越村の昭和三九年度の譲渡所得は昭和四一年一〇月一四日更正処分を受けたものであるが、この課税対象は当時越村が京橋税務署管内において所有していた店舗三軒を銀八不動産株式会社(以下「銀八不動産」という。)に売却した譲渡益である。その後銀八不動産は倒産したようであるが、被告(東京国税局長)と銀八不動産又はその代表取締役柴山博との間で越村の右租税債務を銀八不動産又は越村のいずれかが分割弁済するとの合意が成立し、銀八不動産又は柴山は右金額に相当する約束手形数通を振出して被告に交付し、右各手形はいずれも決済された。よって本件交付要求に係る債権のうち、昭和三九年度の譲渡所得に対する部分は第三者の弁済によって消滅した。

(三) 消滅時効

(1) 別紙債権目録記載二の1の債権(以下「租税債権1」という。)は昭和三九年度所得税の更生処分の日(指定納期限と同日)の翌日である昭和四一年一〇月一五日から五年を経過した昭和四六年一〇月一四日の経過と共に消滅時効が完成した。

(2) 別紙債権目録記載二の2の債権(以下「租税債権2」という。)は昭和五一年度所得税の法定納期限の翌日である昭和五二年三月一五日から五年を経過した昭和五七年三月一五日の経過と共に消滅時効が完成した。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項について

(一) 同(一)は争う。昭和五七年七月一三日東京国税局長矢澤富太郎作成の滞納税額証明書記載の(税目)申告所得税、(課税区分)更正、(法定納期限)昭和四〇年三月一五日、(指定納期限)昭和四一年一〇月一四日、(本税額)四四〇万三、七四七円、(延滞税額)一、四一九万六、〇五九円を内容とする滞納税は交付要求した租税債権1と同一のものであって、異なる年度の申告所得税ではない。

(二) 同(二)記載の事実は否認する。

(三) 同(三)記載の消滅時効の主張について

(1) 租税債権1については昭和四一年一〇月二五日発付の督促状により時効が中断しており、更に被告は昭和四五年一〇月一五日越村の柴山に対する株式譲渡代金債権四一〇万円及び同代金五五〇万円をそれぞれ差押えし、これが継続中である。

(2) 租税債権2については昭和五三年四月一四日公示送達による督促状の送達により時効が中断しており、この債権は被告が昭和五六年六月二七日交付要求するまで時効が完成していないことは明らかである。

三  被告の時効中断の主張に対する原告の認否

いずれの事実も知らない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第1項記載の事実は当事者間に争いがない。

二  国税の交付要求は民事執行法上の配当要求に準ずるものであって、同法に定められた配当要求に関する手続が準用されるものと考えられる(同法八七条一項二号など。)から、越村の債権者である原告が他の債権者である被告に対する本件配当を阻止するために配当期日に異議を述べたのに対して被告がこれに同意しなかった以上、原告がその主張を貫くために配当異議の訴によることができることは論をまたない(民事執行法八九条、九〇条)。

三  そこで、本件配当表における被告に対する配当額につき過誤の有無を検討する。

1  租税債権の不特定について

被告が競売裁判所に提出した交付要求書によれば、越村の滞納国税の一つは別紙債権目録記載二の1のとおりであるが、被告が本件訴訟手続において越村の滞納国税の内容として提出した滞納税額証明書には、本税額四四〇万三、七四七円とする滞納税の課税年度として昭和三九年度との記載がある。原告は年度欄の記載が交付要求書は四一年度、滞納税額証明書は三九年度とされていることをもって、被告が越村の昭和三九年度の滞納国税を昭和四一年度のそれとして交付要求したものであって、これは本来昭和四一年度の租税債権ではないから、本件交付要求は債権が不特定であって無効であると主張するもののようであるが、交付要求書と滞納税額証明書の記載を比較すれば、いずれも税目は申告所得税、本税額は四四〇万三七四七円、法定納期限等は昭和四〇年三月一五日、指定納期限は昭和四一年一〇月一四日との記載があり、以上の事実に併せて《証拠省略》を総合すれば、交付要求書記載の租税債権1と本税額を同じくする滞納税額証明書記載の租税債権とは課税年度を昭和三九年度とする同一の租税債権であると認められる。被告はこの債権の年度について更正処分のあった昭和四一年度と表示して交付要求したにすぎないことが窺われるから、被告の交付要求した租税債権1は昭和三九年度の申告所得税として特定したものである。よって、被告が交付要求した租税債権が不特定であるとの原告の主張は理由がない。

2  第三者の弁済について

《証拠省略》によれば、銀八不動産又は柴山が越村の申告所得税を一部弁済したことが認められるが、《証拠省略》によれば、本件交付要求は右弁済部分を除外した残額についてなされたものであることが認められる。本件交付要求に係る租税債権1については被告が銀八不動産又は柴山から約束手形数通を受取りそれらが決済されたことを認めるに足りる証拠がないから、租税債権1が第三者の弁済によって消滅したとの原告の主張は理由がない。

3  時効による租税債権の消滅について

(一)  租税債権1について

《証拠省略》によれば、被告は租税債権1について越村に対し昭和四一年一〇月二五日督促状を発付し、右督促状は返戻されなかったことが認められるから、右督促状は越村に送達されたものと認められる。又、《証拠省略》によれば、被告は昭和四五年一〇月一五日租税債権1について越村の柴山に対する株式譲渡代金債権四一〇万円及び五五〇万円を差押え、右同日柴山が右差押通知書を受領し、右差押が現在も継続中であることが認められる。以上によれば、被告の滞納国税の徴収権は指定納期限である昭和四一年一〇月一四日の翌日から消滅時効が進行したが(国税通則法七二条一項、以下通則法という。)、被告が同年同月二五日に発付した督促状が越村に送達された時に時効が中断し(通則法七三条一項四号)、右時効は督促状発付の日から起算して一〇日を経過した日の翌日から更に進行を開始したが(右同号)、被告が越村の債権を差押えその効力が生じた昭和四五年一〇月一五日に再び時効が中断して現在に至っているものと認められる(通則法七二条三項、民法一四七条二号、一五七条一項)。よって、租税債権1が時効によって消滅したとの原告の主張は理由がない。

(二)  租税債権2について

租税債権2の法定納期限が昭和五二年三月一五日であり、被告が右租税債権について昭和五六年六月三〇日交付要求したことはいずれも当事者間に争いがない。そうすると、租税債権2は消滅時効が中断していることは明らかである(通則法七三条一項五号)。よって、租税債権2が時効によって消滅したとの原告の主張は理由がない。

四  以上によれば、原告の本件配当表における被告に対する配当額の過誤の主張はいずれも理由がない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲葉耶季)

<以下省略>

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