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東京地方裁判所立川支部 平成22年(ヲ)7号 決定 2010年4月23日

申立人(債務者)

同代理人弁護士

沢辺照夫

相手方(債権者)

株式会社八千代銀行

同代表者代表取締役

同代理人弁護士

羽田忠義

中村壽人

清水徹

小川嘉之

第三債務者

株式会社三菱東京UFJ銀行

同代表者代表取締役

主文

本件申立てを棄却する。

理由

1  事案の概要

本件は、申立人が、基本事件の債権差押命令(以下「本件差押命令」という。)により差し押さえられた預金債権は、すべて厚生年金及び厚生年金基金の給付であるとして、本件差押命令の取消しを求めている事案である。

2  当裁判所の判断

(1)  厚生年金保険法41条1項によれば、保険給付を受ける権利は差し押さえることができない旨定められているところ、年金が預金口座に振り込まれた場合には、その預金口座に預けられた金銭に対する受給者の権利は、金融機関に対する預金債権となるため、形式的には差押禁止債権には該当しないから、当該口座に対する差押えが有効であることはもとより、直ちに差押禁止債権の範囲変更の申立てに理由があることにはならず、同申立てが認められるべきか否かは、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して決めるべきである。

もっとも、厚生年金保険法が保険給付を受ける権利を差押禁止とした趣旨は、年金受給者の生活保障として当該年金を現実に確保させることにあるから、預貯金口座に存在する預貯金の原資が年金であることの立証がなされたときは、他に生計を維持する財産や手段があることなどの特段の事情がない限り、債務者の生活保障、生計維持のため、差押命令を取り消すのが相当である。

そこで、申立人が差押えの取消しを求める株式会社三菱東京UFJ銀行(b支店扱い)の口座(普通預金 口座番号<省略>、以下「本件口座」という。)に存在する預金の原資がすべて年金に基づくものと認められるか否かについて検討する。

(2)  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

ア  申立人は、昭和17年○月○日生まれの67歳であり、老齢厚生年金及び厚生年金基金の受給権者である。

イ  本件口座には、本件差押命令が第三債務者三菱東京UFJ銀行に送達された平成22年3月5日当時、11万7830円の預金が存在した。

ウ  本件口座には、従前より申立人の厚生年金基金が振り込まれていた一方で、町田税務署から平成20年4月16日と平成21年3月23日に各2万6468円が入金されたが、生活協同組合(コープトウキヨウ、コープキョウサイ)からの購入代金の支払が継続的になされた結果、平成21年11月5日の残高は、297円となった。

エ  その後、本件口座には、厚生年金基金として、平成21年12月1日に9万3184円、平成22年2月1日に9万3184円がそれぞれ振り込まれ、平成22年2月22日に受取利息16円が入金されたほか、平成21年11月25日と平成22年1月15日に各10万円が預金機から入金されている。

(3)  本件口座に平成22年3月5日に存在した預金残高11万7830円の原資のすべてが年金によるものであるというためには、平成21年11月25日と平成22年1月15日に入金された各10万円のいずれもが、年金を原資とするものであることを立証しなければならないところ、前者については、その主張も立証もされておらず、また、これらの原資がいずれも年金であることを直接示す証拠もない。

確かに、申立人の厚生年金の振り込み口座である城南信用金庫(a支店扱い)の口座(普通預金 口座番号<省略>)から、平成22年1月15日に10万円が払い戻されていることから、同日、本件口座に入金された10万円については、上記城南信用金庫の口座から出金された年金である可能性がないではないが、一旦、出金されて申立人の一般財産と混同している以上、当該10万円の全額が年金であると認めるにはなお疑問が残るといわざるを得ない。結局、平成21年11月25日と平成22年1月15日に入金された各10万円の原資が不明である以上、本件口座に平成22年3月5日に存在した預金残高11万7830円の原資のすべてが年金によるものと認めることはできない。

3  よって、本件申立ては理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 堀田秀一)

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