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東京家庭裁判所 平成11年(家)8837号 審判 2000年3月08日

平成11年(家)第4391号事件申立人、同第8837号事件相手方

(以下「申立人」という。) X1

X2

X3

平成11年(家)第4391号事件相手方、同第8837号事件申立人

(以下「相手方」という。) Y

被相続人 A

主文

1  相手方の寄与分を金170万円と定める。

2  被相続人の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産目録1及び4記載の土地建物を相手方の単独取得とする。

(2)  別紙遺産目録2及び3の各土地の競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を申立人X1に7003万分の41万9500、申立人X2、申立人X3に各7003万分の1145万8250、相手方に7003万分の4669万4000の割合で分配する。

3  相手方は、上記遺産取得の代償として、本審判確定の日から3か月以内に、申立人X1に対し金12万6000円、申立人X2、申立人X3に対し各金344万5000円をそれぞれ支払え。

4  相手方が前項の支払を遅滞したときは、相手方は、申立人らに対し、各遅滞金額に対する本審判確定の日から3か月が満了した日の翌日から完済まで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

5  本件手続費用のうち、鑑定人Bに支払った鑑定料金115万7835円は、申立人X1が16分の2、申立人X2、申立人X3が各16分の3、相手方が16分の8の割合でそれぞれ負担し、その余の手続費用はそれぞれ支出した当事者の負担とする。

理由

第1相続の開始、相続人及び法定相続分

被相続人は昭和61年12月31日死亡し、その相続人は、妻であるC(以下「C」という。)、長男である相手方、二男であるD(以下「D」という。)であった(法定相続分各16分の8、16分の4、16分の4)が、Dは平成2年9月11日死亡して、その妻である申立人X1(以下「申立人X1」という。)、長女である申立人X2(以下「申立人X2」という。)、長男である申立人X3(以下「申立人X3」という。)がその地位を承継(それぞれ被相続人の相続分16分の2、16分の1、16分の1を取得)し、さらにCは平成4年6月17日死亡して、長男である相手方、二男Dの長女(代襲相続人)申立人X2、二男Dの長男(代襲相続人)申立人X3がその地位を承継(それぞれ被相続人の相続分16分の4、16分の2、16分の2を取得)した。

よって、被相続人の現時点での相続人は申立人ら及び相手方であり、その法定相続分は、申立人X1が16分の2、申立人X2及び申立人X3が各16分の3、相手方が16分の8である。

第2遺産の範囲

本件遺産分割の対象となる遺産は、別紙遺産目録1ないし4記載の土地建物である。

第3申立人らの特別受益

1  当事者の主張

相手方は、Dが昭和45年ころ被相続人から別紙物件目録1記載の借地権(以下「△△の借地権」といい、△△の借地権の対象土地を「△△の借地」という。)の贈与を受けたので、これは申立人らの特別受益として持戻しの対象となると主張する。

これに対して、申立人らは、(1)△△の借地権は、Dが被相続人とはまったく無関係に、自ら地主との間で△△の借地の賃貸借契約(以下単に「借地契約」という。)を締結した結果取得したものであって、被相続人から贈与されたものではない旨、また、(2)仮に被相続人から贈与を受けたものだとしても、被相続人は黙示的にその持戻を免除する旨の意思表示をした旨、を主張する。

2  認定事実

そこで検討するに、証拠(C甲1、4、5、9ないし12、22、C乙3号証の1ないし4、C乙4ないし8、16)及び審判の全趣旨によれば、Dによる△△の借地権の取得・維持等に関する事情として、次の事実が認められる。

(1)  被相続人は、昭和30年3月ころ、△△の借地権付きで、別紙物件目録2記載の建物(以下「△△の旧建物」という。)を購入し、当初は同所に居住していたが、後に別紙遺産目録1、4記載の土地建物を購入して同所に転居し、昭和35年9月以降は△△の旧建物をEに賃貸した。

(2)  Dは、昭和43年3月に申立人X1と婚姻し、同年6月ころから△△の旧建物に居住するようになった。

D一家は、当初は△△の旧建物にEと同居する形となっていたが、約1か月後にはEが被相続人との賃貸借契約を解除して、同建物を退去した。

(3)  Dは、昭和45年12月18日、当時の地主Fとの間で、△△の借地につき期間20年の借地契約を締結した。

Dが借地契約を締結するにあたっては、被相続人に何ら金銭その他の対価を支払ってはいないが、被相続人は、Dの契約締結に対して何ら異議を述べなかった。

(4)  Dは、借地契約締結に際して、Fに対し、名義変更代金として金23万2600円を支払った。これは、当時の地代(月額1700円)の11年分以上の金額であり、親族間の名義変更代金としては高額であった。

(5)  Dは、昭和46、7年頃には△△の旧建物を取り壊し、△△の借地上に現存建物(未登記、申立人X1及び申立人X3の現住居である。)を新築した。

Dは、建物新築に際して、Fに対し、昭和46年1月24日、建物新築承諾料として金10万円を支払った。これは、当時の地代(年額2万2500円)の4年分以上の金額である。

(6)  平成2年9月11日にDが死亡した後、申立人X1は、同年12月18日、当時の地主G及びHとの間で、△△の借地につき期間20年の借地契約を締結した。

申立人X1は、その際、G及びHに対し、土地契約更新料として金600万円を支払った。これは、当時の地代(年額18万0200円)の33年分以上の金額であり、更新料兼相続に伴う名義書換料としては非常に高額であった。

3  贈与の成否

(1)  前記2(1)ないし(3)の認定事実によれば、被相続人は、かねて△△の旧建物と△△の借地権を有していたが、二男であるDが婚姻するに際し同人に新居を構えさせるため、賃貸に付していた△△の旧建物からわざわざ店子を立ち退かせてまで、D一家を同所に住まわせたこと、とすれば、被相続人は、その後Dが地主と自ら借地契約を締結することを了承しているが、これは新たな借地人が、△△の旧建物への居住を許したDであるからこそ異議なく承諾したものというべきであって、仮にその余の第三者が△△の借地を新たに借り受けようとしたのであれば、△△の借地権者として当然地主に異議を述べたはずであること、したがって地主もまた、そのような第三者に対して△△の借地を賃貸したとは考えられないことが認められるのであって、かかる経緯に照らせば、結局Dは、何らの対価なくして被相続人の借地権を承認した、すなわち、被相続人から△△の借地権の贈与を受けたものと認めるのが相当である。

(2)  申立人らは、被相続人の△△の借地権は、Dが借地契約を締結した当時にはなお数年の残存期間があったにもかかわらず、前記2(3)に認定のとおり、Dは契約締結の日から新たに期間20年の借地契約を締結していること、D名義での借地契約の締結は地主からの要望でなされたものであったこと、前記2(4)(5)に認定のとおり、Dは、親族間の借地人交代の承諾料としてはかなり高額の名義変更代金、すなわち権利金を支払っていること、新たな借地契約後、短期間で被相続人所有の△△の旧建物を取り壊し、独自にその固有建物を新築していることからして、Dは、被相続人の△△の借地権を譲り受けたのではなく、自ら新しく地主との間で借地契約を締結したものだと主張する。

しかし、まず被相続人の△△の借地権が、昭和45年12月18日のDの契約締結当時に数年の残存期間を残していたか否かは契約書もないため定かではなく(甲22号証では、被相続人が△△の旧建物を購入した昭和30年から20年間の借地契約を結んだことを推測しているが、被相続人は借地権付きの建物を購入したのであるから、借地期間も従前の契約内容をそのまま引き継いだ可能性があり、必ずしも建物名義の変更と同時に新たな借地契約を締結したとは認定できない。)、仮に数年間の残存期間があったとしても、先に指摘したとおり、自己の借地期間をなお残していた被相続人が、それにもかかわらずDの借地契約に異議を述べなかったのは、むしろ被相続人が、自らの借地権をDに承継させることを希望していたからにほかならないというべきであって、そうでなければ被相続人が第三者のために何らの対価もなしに既存の借地権を放棄することなどありえないことである。かかる事情は地主としても十分承知していたはずであるから、仮に地主の方から、D名義で借地契約することを要請した事実があったとしても、やはりその前提には、Dが被相続人の△△の借地権を承継するものだとの認識があったはずである。

また、当時Dが地主に支払った名義変更代金は、確かに相当高額なものであったことが認められるが、一方で、前記2(5)(6)に認定のとおり、Dは、高額の名義変更代金を支払った約1年後には、建物の建て替えを理由にやはり高額な承諾料(金10万円)を払わされ、またD死亡後に申立人X1がその△△の借地権を相続取得した際にも、更新料兼名義書換料としては破格に高額な金員(金600万円)を払わされている。つまり、△△の借地の所有者は、契約更新や名義書換に際し、一般的な相場よりかなり高額の金員を要求し、Dや申立人らもやむなくこれに応じてきていたという経過が認められるのであって、かかる事実に照らせば、昭和45年の借地契約時に、Dが通常の相場より高額の名義変更代金を支払っているからといって、これが地主とDの双方にとって、被相続人の借地権承継とは無関係な新たな借地契約のための権利金授受であるとの認識があった証左にはならないというべきである。

なお、本件で特別受益と主張されているのは、△△の旧建物ではなく△△の借地権なのであるから、Dが被相続人から譲られた当時の△△の旧建物を早々に取り壊し、自前で現存建物を建てたからといって、それが△△の借地権の贈与の事実を否定する要素とはなりえない。

結局、申立人らの主張事実を全部認定し得たとしても、Dの△△の借地権が、被相続人から贈与されたものであるとの前記事実認定を妨げるものではない。

そして、△△の借地権の贈与は、生計の資本としての贈与に該当するから、民法903条1項の特別受益にあたると認める。

4  持戻免除の意思表示の存否

次に、申立人らは、被相続人からの持戻免除の意思表示があると主張して、△△の旧建物が非常に老朽化した建物であり、早期の建て直しを必要としていたが、被相続人にはこれを自ら改築補修して△△の借地権を更新使用しようという意思も資力もなかったこと、△△の借地権の贈与がなされたのは昭和45年12月で被相続人死亡の約16年前であり、当時の被相続人がなお健康であったことからして、被相続人には遺産の前渡しという意図は存在せず、当然これを持ち戻させようという考えもなかったこと、を指摘する。

しかし、民法903条1項は、共同相続人間の実質的公平を図るべく、特別受益がある場合にはその持戻しをすることを原則としているのであって、同条3項の持戻免除の意思表示は例外規定である。とすれば、被相続人が明示の意思表示をしていないにもかかわらず、黙示的意思表示あることを認定するためには、一般的に、これを是とするに足るだけの積極的な事情、すなわち、当該贈与相当額の利益を他の相続人より多く取得させるだけの合理的な事情あることが必要というべきである。

本件においては、そもそも被相続人が、△△の旧建物の維持や借地権更新のための意欲や資力を有していなかったと認めるに足りる証拠はない(むしろ、△△の旧建物は、昭和22年ころに新築、昭和23年ころに改築されたと推認される物件で(乙1、2)、D一家が居住を開始した昭和43年6月時点では第三者にも賃貸中であった(前記2(2)の認定事実)ことを考えると、昭和45年12月の借地権贈与の時点で、△△の旧建物が、早期の建て替えを必要とするほど老朽化していたとは考えにくいし、少なくとも、被相続人が直ちに補修改築しなければ建物朽廃により△△の借地権が消滅するような状態にあったとは到底考えられない。被相続人としては、D一家に使用させる必要さえなければ、△△の旧建物を引き続き第三者に賃貸するなり、借地権付きで売却するなりの方法で、一定の収益を得る可能性があったのであるから、△△の旧建物や借地権の維持管理に何らの関心も持たなかったとは容易に信じがたいところである。)が、仮に被相続人が、△△の借地権の贈与の時点でこれを自ら維持する意思や資力を有していなかったとしても、それゆえに被相続人がDに対して、当該借地権相当の利益を相手方より多く取得させようという意思を有していたと推認できるものではない。また、△△の借地権を譲り受けたDやその家族が、被相続人の死亡の当時も現にこれを生活の本拠として利用し、客観的にも当該借地権に相当の価値が認められる状況にある以上、仮に贈与の当時の被相続人が遺産の前渡しとしての意識を欠いていたとしても、それをもって最終的な被相続人の意思も持戻しを免除することにあったと認められるものではなく、他にDに借地権相当の利益を相手方より多く取得させることを是とするような合理的事情があると認めるに足る証拠がない本件においては、結局被相続人の黙示の持戻免除の意思表示を認めることはできない。この点の申立人らの主張には理由がない。

5  特別受益の評価

鑑定人Bの鑑定によれば、△△の借地権の相続開始時における評価額は、金2229万9000円である。

但し、前記2(4)の認定事実のとおり、Dは昭和45年に△△の借地権を取得するにあたり、地主に対して名義変更代金23万2600円を支払っているところ、原則として権利の移転に地主の承諾が必要な借地権については、名義変更代金の支払は、贈与契約の履行のための必要経費ともいうべきものであって、本来は贈与者である被相続人が負担すべきものである。これを受贈者たるDが支払ったということは、△△の借地権の贈与契約自体が、いわば名義変更代金支払の負担付き贈与であったと同視できるものであって、当該特別受益の価額を算定する際には、当該負担の価額を控除すべきものと解する(民法1038条参照)。

そこで、Dの負担の価額を検討するに、東京都区部の消費者物価指数表によれば、相続開始時たる昭和61年を100とした場合の、名義変更代金支払時たる昭和45年の同指数は36.3であったと認められる(東京国税局編集の平成7年分財産評価基準書・評価倍率表による)から、昭和45年当時の金23万2600円は、昭和61年当時には金64万1000円の価値を有していたものであり(計算式23万2600円×(100÷36.3) = 64万0771円、1000円未満四捨五入)、Dの負担の価額は金64万1000円であると認める。

よって、△△の借地権の相続開始時における評価額金2229万9000円から、負担の価額である金64万1000円を控除し、△△の借地権の贈与によるD(申立人ら3名合計)の特別受益の価額は、金2165万8000円であると認める。

Dの法定相続分は申立人X1が2分の1、申立人X2、申立人X3が各4分の1であるから、申立人X1の特別受益額は金1082万9000円、申立人X2、申立人X3の特別受益額は各金541万4500円となる。

第4相手方の寄与分

1  当事者の主張

相手方は、相手方及びその妻であるI(以下「I」という。)、長男J(以下「J」という。)、二男K(以下「K」という。)及び三男L(以下「L」という。)において、長年の間被相続人と同居し、脳梗塞になった被相続人を、その起床、移動、外出、入浴、就寝等の全般にわたって無償で介護し、世話をしてきたとして、適正な寄与分を定めることを求めた。

これに対して申立人らは、被相続人の疾病はそもそも介護を必要とするほど重大なものではなく、介護を要したとしてもそれは専ら被相続人の妻であったCが行い、相手方やその妻子らは単にこれを補助したもので、同居の親族として通常期待しうる程度の相互扶助を行ったにすぎないから、相続分の修正要素たるべき特別の寄与にはあたらないとしてこれを却下することを求めた。

2  認定事実

(1)  証拠(証人I、C乙25、26、28)及び家庭裁判所調査官Mの調査報告書によれば、被相続人の疾病及びその介護状況について、次の事実が認められる。

<1> 被相続人は、昭和54年9月に脳梗塞で入院し、同年11月には退院したが、その際に左手左足に麻痺が残り、離床や就床、入浴等、起きあがりや立ち上がりの所作については人の介助(抱き起こし等)が必要で、歩行等の移動については物の支え又は人の介助に頼る状態となった。

特に被相続人の退院後しばらくの間は、介助者も介助される被相続人も要介助状態に慣れていないことから、介助に一層体力を必要とするなど、全般に若労があった。その後はいくらか被相続人の状態も改善され、一時は外出ができた時期もあったが、昭和61年夏ころ以降、被相続人の体力はかなり低下して病臥することが多くなり、介助の必要性が高くなった。

但し、被相続人の知的能力には最後まで特段の衰えはなく、食事は自力で可能であったし、排泄についても、トイレまでの移動や着座、起立に介助があれば、概ね自力で行うことが可能であった。

<2> 被相続人の介助には、主としてCがあたっていたが、Iも折に触れてCと共に、あるいは単独で、被相続人の介助にあたった。

また、J、K、Lも、成長するに連れて、空いた時間に入浴の手伝いをしたり、聴力の弱いCに代わって、深夜にトイレまで付き添いを行うことが多くなった。

(2)  申立人らは、被相続人の介護は専らCが行っており、相手方やその妻子は同居の親族として通常期待しうる程度の補助をしたに過ぎないと主張するが、C自身も大正3年○月○日生まれで、昭和54年から61年にかけては65歳から72歳という体力に衰えの生ずる年代であったうえ、聴力が弱かったこと等を考慮すると、被相続人の介助を全面的にC一人で行えるものではなく、相手方の妻子らによる介助が、まったくの補助的労務でしかなかったとは認めがたい。特に、退院当初の介助に不慣れな時期や、Cが年老いる一方で被相続人の体調が悪化した晩年のころには、介助の負担も相当重いものとなり、相手方の妻子による介助は被相続人の日常生活のうえで不可欠のものであったと考えられる。

よって、これらI、J、K、Lによる介助行為は、相手方の履行補助者的立場にある者の無償の寄与行為として、特別の寄与にあたるものと解する。

(3)  但し、Iは少なくとも昭和57年5月以降は日中パートタイム労働に従事していたし、J、K、Lはそれぞれ昭和44年、昭和45年、昭和48年の生まれで、被相続人が介助を要した昭和54年から61年にかけては年長のJでも10歳から16歳、Lについては6歳から13歳までの時期にあたり、学校生活はもとより部活動や塾通いもしていたことを考えると、いずれも終日介護に従事していたものとは認められない。

また、相手方一家は、長年の間被相続人夫妻と同居することにより、その生活上の諸利益を得ていたことが推認されるので、寄与分算定にあたっては、同居の親族として一定程度の相互扶助義務を負っていることも考慮されなければならない。

3  寄与分の評価

上記2の事実、事情を総合的に考慮し、社団法人日本臨床看護家政協会作成の看護補助者による看護料金一覧表(昭和62年4月1日実施のもの)による普通病(軽症2人付)の場合の一人当たり基本給が日勤3390円(但し、食費1200円分を控除したもので、勤務時間8時間、内休憩1時間を含む。)、深夜勤5110円(但し、食費1200円分を控除したもので、勤務時間8時間、内休憩1時間を含む。)であることを参考にして(新日本法規出版株式会社発行の新訂版交通事故損害賠償必携・資料編・昭和62年10月28日発行の改訂版による。)、相手方の寄与分を金170万円と定める。

(参考式)

607円×1.5時間×2588日×0.7 = 164万9461円

・前出看護補助者の基本給による日勤1時間あたり単価484円(3390円を実労働時間7時間で除したもの)と深夜勤1時間あたり単価730円(5110円を実労働時間7時間で除したもの)の平均額607円

・相手方及びその妻子による一日当たり想定平均介助時間1.5時間

・介助期間約7年1か月=2588日

・親族としての相互扶助義務考慮による減価0.3

第5遺産の評価額

鑑定人Bの鑑定によれば、本件遺産の評価額は次のとおりである(なお、鑑定日である平成11年4月5日時点の評価額を分割時の評価額とみなすことについては、当事者間の合意がある。)。

(1)  遺産目録1、4の土地建物(合計)

<1>  相続開始時の評価額 金 6732万8000円

<2>  分割時の評価額   金 2105万5000円

(2)  遺産目標2、3の各土地(合計)

<1>  相続開始時の評価額 金  270万2000円

<2>  分割時の評価額   金  432万3000円

第6具体的相続分の算定

1  特別受益額、寄与分額

前記第3の5に記載のとおり、申立人X1の特別受益額は金1082万9000円、申立人X2、申立人X3の特別受益額は各金541万4500円であり、前記第4の3に記載のとおり、相手方の寄与分額は金170万円である。

2  みなし相続財産額

(相続開始時の遺産評価額)+(申立人X1、申立人X2、申立人X3の各特別受益額)-(相手方の寄与分額)=(みなし相続財産額)

(6732万8000円+270万2000円)

+(1082万9000円+541万4500円+541万4500円)

-170万円

= 8998万8000円

3  具体的相続分額

(みなし相続財産額)×(各自の法定相続分)(各自の特別受益額)+

(各自の寄与分額) = (具体的相続分額)

(1)  申立人X1

(D死亡による具体的相続分額)

8998万8000円×2/16-1082万9000円 = 41万9500円

(2)  申立人X2、申立人X3

(D死亡による具体的相続分額)+(C死亡による具体的相続分額)

(8998万8000円×1/16-541万4500円)

+(8998万8000円×2/16)

= 1145万8250円

(3)  相手方

8998万8000円×8/16+170万円 = 4669万4000円

4  具体的相続分率

(具体的相続分額)÷(相続開始時の遺産額) = (具体的相続分率)

(1)  申立人X1

41万9500円/(6732万8000円+270万2000円)

= 41万9500/7003万

(2)  申立人X2、申立人X3

1145万8250円/(6732万8000円+270万2000円)

= 1145万8250/7003万

(3)  相手方

4669万4000円/(6732万8000円+270万2000円)

= 4669万4000/7003万

第7当裁判所の定める分割方法

1  遺産目録1、4の土地建物は、相手方がその妻子及び被相続人夫妻と共に長年居住し、現在も使用しているものであって、相手方もその取得を希望しているので、相手方にこれを単独取得させ、申立人らにはこれに応じた代償金を支払わせるのが相当である。

2  一方、遺産目録2、3の各土地は、当事者のいずれも積極的に取得を希望しておらず、特に申立人らは、当該土地の現状(従前から管理が不十分で、一筆は畑(但し、地目変更可能と見られる。)である。)からして利用価値はほとんどないとして、鑑定評価額での引き取りを拒否していることを考えると、競売によってその価額を分配するのが妥当である。

とはいえ、かかる場合、遺産目録2、3の各土地の現実の競落価格は鑑定評価額とはむしろ一致しないものと思われるうえ、これを競売に付しても、現実に競落代金を入手できる時期がどれだけ先になるかは予測しえない。遺産目録1、4の土地建物所有権を直ちに取得する相手方に比べて、これらの不利益を申立人らのみに負わせることは相当でないというべきである。とすれば、相手方に単独取得させる遺産目録1、4の土地建物と、競売に付すべき遺産目録2、3の各土地とは、各別に各当事者の具体的相続分率に応じた清算を行うことが妥当であると思料する。

3  そこで検討するに、遺産目録1、4の土地建物の分割時の評価額金2105万5000円に各当事者の具体的相続分率を乗じると、当該土地建物に対する具体的取得分額は、それぞれ次のとおりとなる。

(1)  申立人X1

2105万5000円×(41万9500/7003万)

≒ 12万6000円(1000円未満四捨五入)

(2)  申立人X2、申立人X3

2105万5000円×(1145万8250/7003万)

≒ 344万5000円(1000円未満四捨五入)

(3)  相手方

2105万5000円×(4669万4000/7003万)

≒ 1403万9000円(1000円未満四捨五入)

相手方は、評価額金2105万5000円の遺産目録1、4の土地建物を単独取得するので、その具体的取得分額を超える金額(金701万6000円)について、申立人X1に金12万6000円、申立人X2、申立人X3に各金344万5000円の各代償金を支払うべきことになる。

なお、相手方の年齢、家族構成、生活状況等に加え、本件審判前の調停段階では、申立人らが遺産目録2、3の各土地を取得することを前提に、より低額な代償金支払の調停案が提示された経過もあったことを考慮して、代償金の支払時期については、本審判確定後3か月間の猶予を置くと共に、同期間経過後には法定の遅延損害金を付加して支払わせるのが相当である。

4  遺産目録2、3の各土地は、前述のとおりこれを競売に付し、その売却代金から競売費用を控除した残額を、各当事者に各具体的相続分率に従って分配取得させる。

5  また、本件手続費用のうち、鑑定費用115万7835円(申立人X1において金57万8918円、相手方において金57万8917円を各支出)については各当事者に法定相続分で負担させ、その余の手続費用は支出した各自の負担とするのが相当である。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 荻原弘子)

別紙

遺産目録

1 所在   渋谷区<以下省略>

地番   <省略>

地目   宅地

地積   76.49平方メートル

2 所在   安房郡<以下省略>

地番   <省略>

地目   宅地

地積   271.00平方メートル

3 所在   安房郡<以下省略>

地番   <省略>

地目   畑

地積   151平方メートル

4 所在   渋谷区<以下省略> 木造瓦葺平家建の東側

家屋番号 <省略>

種類   居宅

構造   木造瓦葺平家建

床面積  28.92平方メートル

以上

物件目録

下記土地のうち、23.68坪に対する借地権

1 所在   品川区<以下省略>

地番   <省略>

地目   宅地

地積   609.74平方メートル

所有者  G、H

2 所在   品川区<以下省略>

家屋番号 <省略>

種類   居宅

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積  24.79平方メートル

以上

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