大判例

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東京家庭裁判所 平成11年(少)1388号・平11年(少)101004号

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  A子と共謀の上、平成11年2月2日午後4時45分ころ、東京都品川区○○×丁目×番××号○○駐輪場脇において、Bが所有する自転車1台(時価5000円相当)を窃取した

第2  同年4月22日午後9時40分ころ、同区○□×丁目××番×号○△荘××号室少年方において、前記A子(当時15歳)に対し、台所から持ち出した文化包丁(刄体の長さ約17センチメートル)1本を突き付けながら、「ぶっ殺してやる」などと怒号し、同人の生命、身体に危害を加えかねない気勢を示し、もって凶器を示して脅迫した

ものである。

(法令の適用)

第1の事実 刑法60条、235条

第2の事実 暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法222条1項)

(処遇の理由)

本件は、交際相手に別れ話を持ちかけられ、自棄的な気持ちを強めた少年が、刄物を持ち出して自傷行為に及ぶ素振りを見せたものの、交際相手が自己の心情を察してくれないばかりか、「勝手に死ねば」などと突き放すような発言をしたことに激昂して、交際相手に対し、刄物を突きつけながら「ぶっ殺してやる」などと怒鳴りつけて脅迫したという事案及び交際相手とともに自転車を窃取したという事案である。非行事実のみをみれば、窃盗についても、凶器を示した脅迫についても、いずれも比較的軽微な事案であるといえないわけでもない。

しかしながら、少年保護事件における処遇の選択は、非行の回数や軽重よりも、その非行を通じて現れている少年の様々な問題点(要保護性)をどのように解消するかという視点を重視して決せられるべきであるところ、少年は、中学1年生のころから母親との対立が目立つようになり、中学3年生に進級し、受験期を迎えてからは、連日のように、興奮して実母を責めたりしたほか、「死にたい。」、「殺してくれ。」、「みんなで死のう。」などと泣き叫びながら包丁を持ち出して自傷行為に及びかねないそぶりを見せることも繰り返され、これを見かねた実母が少年の興奮を静めるために土下座をして謝罪するといった一幕もみられるようになった。そして、こうした少年の行状に実母が手を焼いたこともあって、高校進学を待たずに、実母に代わって母方伯父が少年を引き取ることとなり、以後、高校を卒業し、平成10年10月に前記A子と同棲生活をはじめるまでの間、少年は、母方祖母宅において生活することとなったが、その間も家族に対して包丁を持ち出して騒ぎ立てる場面があり、このころには、少年自身、自己の行動の異常性や些細なことで激昂するといった性向を自覚するようになり、包丁を持ち出す際には、暴力的な態度で家族に接していた実父のことが頭をよぎるなどしていたと当庁調査官に対し、述懐しているところである。その後、少年は、平成10年3月に高校を卒業したが、このころから自殺未遂を重ねるようになったほか、同年9月には、交際している前記A子が少年の友人に強姦されたことを知るや、自己の腕を刄物で切り付けるなどしたこともあった。そして、少年は、同年10月ころには、母方祖母宅を出て、前記A子と同棲するようになったが、同人との間でいさかいが絶えず、前記A子に対し、一度ならず包丁を突き付けたり、同人を殴打することもあり、結局、同棲生活は、約3か月後には幕を閉じ、その後、前記A子との間で、些細なことから暴力を伴う喧嘩を繰り返すようになる中で、同人との別れ話がもつれて、本件第2の非行に及んだものである。

このように、刄物を手にしながら、自傷行為に及ぶ素振りを見せたり、「死にたい。みんなで死のう。」などと騒ぎ立てるといった少年の危険極まりない行動は、本件第2の非行に及ぶかなり以前から習慣的に繰り返されてきたものである上、これまでも少年自身が自己の行動の異常性を自覚し、そうした騒動に及んだ際は、以後、自己の行動を改めるなどと述べてはいたものの、こうした少年の言葉とは裏腹に、前記のような行動が繰り返され、結局本件第2の非行に至っていること、さらに、本件第2の非行について少年自身が「正直言ってこの事件の時は、自分が自分でない獣のようになった気がして、二重人格のように思った」などと当庁調査官に対し述懐していることなどに照らせば、少年の感情統制の脆弱さ、殊に怒りの感情を統御することができないといった資質面の問題性は深刻であり、看過することができない状況にあるといわねばならない。また、少年は、少年鑑別所まで面会に赴き、少年の資質面の問題性を改善するために、専門家によるカウンセリングを受けるべきことを勧めた母親に対し、怒鳴りつけるなどしたほか、当庁調査官との面接場面においても、激情に駆られて取り乱す場面が見られるなど、観護措置が執られた後でさえも、自己のおかれた立場に沿って感情を統制することができなかったものであり、その意味で、観護措置を経たことが、少年に対し、その問題性をより一層自覚させる契機となった側面があるとしても、これにより、少年の問題性が大きく改善されたとみることはできない。そして、これまで繰り返しみられた刄物を持ち出して騒ぎ立てるといった少年の行動は、相手からの同情を求めるとともに、相手への非難の思いを示したものであったと理解することができるが、こうした行動は、相手が少年に対し理解を示さず、かえって、その思いをはねつけるかのごとき対応をした場合には、自傷行為に止まらず、他者に対する加害行為に発展しかねない危険性をはらんだものであることが本件第2の非行を通じて明らかになったということができる。

他方、前記A子は、少年を宥恕し、今後も交際を続けることを希望しているところではあるが、前記A子は、未だ15歳と若齢であるばかりか、少年の抱える資質的な問題性を十分に認識しているとはいえない上、その家庭環境、これまでの少年との交際の経緯等に照らしても、少年に適切な指導をすることができる立場にはなく、今後も些細なことから少年との間でいさかいを起こすことが予想される状況にある。こうしてみると、少年が、対人関係のあつれきから、前記A子や家族に対し、今後も同種非行に及ぶおそれが高いといわざるを得ない。

してみると、少年に保護処分歴がないこと、実母が逡巡した結果、少年の引受を決意したこと、その監護に母方伯父も協力することを申し出ていることなどの処遇選択に当たり、少年に有利にしん酌すべき事情を十分に考慮したとしても、この際、少年を矯正施設に収容し、感情を統制する力を身に付けさせるとともに、信頼関係に基づく安定した対人関係を持つことができるように、これまでの自己本位な考え方を改めさせる必要がある。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定するが、少年の性格的な偏りを矯正するためには、処遇にあたり、カウンセリング等の心理療法的な見地からの対処を取り入れることが有効であるとみられることから、そうした処遇が可能な少年院に収容するように別途処遇勧告する。

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