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東京家庭裁判所 平成12年(少)3762号 決定 2001年6月19日

少年 N・H(1983.1.29生)

<人定事項-省略>

上記の少年に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反、器物損壊、営利略取等、強盗致傷、逮捕監禁致傷、営利略取等未遂、監禁致死、恐喝未遂保護事件について、当裁判所は、下記「(罪となるべき事実)」欄第3の事実(監禁致死)に関し検察官関与決定をした上、次のとおり決定する。

主文

この事件を東京地方検察庁検察官に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1  いずれも法定の除外事由がないのに、

1  平成12年1月2日午前2時30分ころ、長野県駒ケ根市○○×××番地×××付近道路において、自動装填式けん銃1丁を、これと適合する実包6発と共に携帯した

2  前記日時・場所において、同番地所在の合資会社△△北側に設置された同社(代表社員□□)所有の飲料水自動販売機1台に向け、所携の上記けん銃1丁で実包6発を連続して発射して、同実包6発を上記自動販売機に命中させ、もって、不特定若しくは多数の者の用に供される場所において、けん銃を発射するとともに上記自動販売機1台を損壊(損害額約50万円相当)した

第2  埼玉県越谷市□△×丁目×番×号に本店を置く株式会社△○の代表取締役Aを自動車内に拉致し、同人から金品を強取しようと企て、

1  B、C及びDと共謀の上、

(1) 平成11年11月2日午前1時45分ころ、同市□△×丁目×番地×○△ハイツ前路上において、同所を通りかかった上記A(当時54歳)に対し、少年及びDが、その両腕を抱え、頭を押さえ付けながら引っ張るなどの暴行を加え、Aを同所に停車中の普通乗用自動車後部座席に押し込み、直ちに同車を発進させ、同人を自らの支配下に置き、もって、同人を営利の目的で略取した

(2) 上記日時ころ、上記場所において、少年及びDが、Aに対し、上記暴行を加えて同人の反抗を抑圧し、同人から同人所有又は管理にかかる現金約60万円及び財布等約19点在中のセカンドバッグ1個(時価合計約32万円相当)を強取した上、千葉県我孫子市□○××番地の×に向けて疾走中の上記車両内等において、同人をうつぶせにして押さえ付け、両手首に手錠を掛けて緊縛し、その背部、腹部等を多数回手拳などで殴打し、足蹴にする暴行を加え、さらにその反抗を抑圧して、同人から腕時計、ブレスレット等4点(時価合計約190万1000円相当)を強取し、次いで、けん銃を所持しているように装い「けん銃で命取るぞ。お前の命を2000万円で請け負ったのだから、3000万円出せば命を助けてやる。」「金を娘に持って来させろ。さらわれたとは言うな。」などと語気鋭く申し向けて脅迫して金員を要求し、反抗を抑圧された同人をして、電話で長女のEに現金を持参するよう指示させ、同日午前11時20分ころ及び同日午後零時35分ころの前後2回にわたり、埼玉県越谷市□△×丁目×番所在の△△鉄道株式会社○○駅西口において、Eを介して現金合計1750万円を強取するとともに、そのころ、同市□△×丁目××番地×□□鉄道株式会社△○線高架下駐車場において解放するまでの約11時間、上記Aをして同車両内から脱出不能ならしめ、もって、不法に同人を逮捕監禁し、その際、上記各暴行により、同人に全治約6週間を要する背部・左上腕・右膝打撲、右肘・右手挫創、左第9肋骨骨折の傷害を負わせた

2  F、G及びHと共謀の上、

(1) 平成12年3月2日午前7時45分ころ、埼玉県草加市△□×丁目××番×号先路上において、少年、H及びFが、上記A(当時55歳)に対し、背後から両腕を掴んで引っ張るなどの暴行を加え、同人を同所に停車中の普通乗用自動車内に押し込んで、略取しようとしたが、付近住民等に騒がれたため、その目的を遂げなかった

(2) 上記日時ころ、上記場所において、Aに対し、上記暴行を加えて同人の反抗を抑圧し、同人から同人所有又は管理にかかる現金約34万円及び腕時計等16点在中のセカンドバッグ1個(時価合計約293万3300円相当)を強取し、さらに、同所から逃走する際、上記車両後部座席に同人の上半身を押し込んだまま同車を発進させて同人を引きずるなどの暴行を加え、同人に対し、加療約105日間を要する左膝挫滅創等の傷害を負わせた

第3  暴力団○○組組員を自称するものであるが、I(当時22歳)を監禁した上、同人から金員を喝取しようと企て、平成12年2月7日午後3時12分ころから同日午後7時4分ころまでの間、東京都○△区○□×丁目××番×号所在のマンション△△13階×××号室の当時の少年宅において、上記Iに対し、「100万円は何時払うんだ、ジャンプはできないぞ。」「払えないんだったら親元に行く。」「ふざけんな。」「金ができなかったら、どうケツ拭くんじゃー。」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し、もし上記要求に応じなければ、同人等の生命、身体に危害を加えかねない気勢を示して脅迫してその旨同人を畏怖させるとともに、同室玄関及び内戸を閉めて同人を監視するなどし、その間約4時間にわたり、同人をして同室から脱出困難にならしめて不法に監禁したが、同人が同室避難用通路から退避したため金員喝取の目的を遂げず、その際、同人をして上記避難用通路から上記マンション△△1階北側植込み内に墜落させ、そのころ、同所において、同人を胸部打撲による左右肺損傷、肋間動脈損傷に基づく呼吸循環不全により死亡させた

ものである。

(上記第3の事実を認定した理由)

1  少年の主張

少年は、送致事実について、平成12年2月7日午後3時ころから午後7時ころまでの間、Iと2人だけで当時の少年宅である東京都○△区○□×丁目××番×号マンション△△13階×××号室にいたこと、その際、少年がIに対し、貸していた100万円の返済を要求したこと及びIが×××号室のベランダから墜落し死亡したことをそれぞれ認めるが、恐喝をしようとしたこともIを監禁したこともなく、Iの死亡は同人が誤って墜落して死亡したもので監禁致死に当たらないと主張し、付添人らも同様の主張をする。

2  当裁判所の判断

しかし、関係証拠によれば、Iの死亡は高いところから墜落して死亡したものと認められる上、同人の死体が発見された場所は×××号室の真下であり、同室のベランダの側壁上部等にはIが残したものと思われる手指の痕跡があり、その状況などから、同人はベランダから隣室に行こうとして墜落したものと認められる。そして、少年の供述を含む関係証拠によれば、Iは少年と2人で×××号室にいた際、少年がピザの配達員と玄関先で応対している間にいなくなったが、×××号室は13階の高所にあり、少年のいる玄関からではなくベランダから隣室に行こうと試みること自体はなはだ危険であり、自殺するような原因や状況の窺えないIがそのような行動に及んだのは、当時、Iは、生命の危険を冒してまでも×××号室から脱出しなければならない差し迫った状況に追い込まれていたと考えるのが自然である。

ところで、少年の当審判廷における供述によれば、少年は、当時、Iに対し、貸金の返済を迫り借用書を書かせた後、それをどのようにして支払うかを話し、Iの親元に行くことになったものの、Iはそれを嫌がっていたこと、そして、Iがいなくなったのを知った瞬間、「逃げたな」と思った、さらには、少年が暴力団に関係するものとしてIに認知されていたというのであり、Jの当審判廷における証言等によれば、当時Iが少年の勢威に押される状況にあったことが認められる。加えて、少年は、任意捜査の段階で自ら陳述書を書くなどして、Iに貸金の返済を迫り追い込みをかけた、Iが部屋から逃げることができないようにしていたと述べ、送致事実の脅迫文言についても詳細に供述して監禁及び恐喝の行為を認めている。この点に関し、少年は、任意捜査の段階でK警部補の取調べにより作成された供述書及び供述調書は、殺人について少年の言い分を認める代わりに恐喝及び監禁については話し合って作成したものであると述べ、その任意性及び信用性を争っているが、Kの当審判廷における証言等によれば、その供述の任意性に格別疑いを差し挟むべき事情は認められない。そればかりか、少年は、K警部補が取調べに関与する前の平成12年3月6日付けの自ら作成した供述書において、「多少の暴言はありました、約束を守れないやつの言うことは信用できん、ふざけんな、とは言いました」と記述し、また、その添付図面には「この位置で『親元行くぞ』などと話した」、さらには、玄関に至る戸について「逃げられないようにしめてた」旨記載して、実質的にその後の恐喝及び監禁を認める供述と同旨の記述をしている。そして、それらの供述が、少年の前記審判廷での供述ないし本件当時の状況にも合致していることを考え併せると、その陳述ないし供述は信用できるものと認められる。

3  結論

以上の次第で、少年が自認する外形的事情、関係証拠から認定できる前記各事情、特に当時のIの置かれた状況及び少年の前記供述内容を総合して考えると、送致にかかる恐喝未遂及び監禁致死の事実は合理的に認定できる。なるほど、少年は本件の約10日ほど前にリンチを受け、負傷し体力を消耗していたこと及び少年とIが一緒にいた約4時間の間に、少年がトイレに行くなどしたことがあり、その間に玄関から逃走する余地があったことを認めることができるけれども、そのことから直ちに脅迫も監禁もなかったということはできず、この点を考慮しても前記判断は左右されない。

(法令の適用)

第1の1の事実中けん銃をこれに適合する実包と共に携帯した点銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項(第1項)

同火薬類所持の点火薬類取締法59条2号、21条

同2の事実中発射の点銃砲刀剣類所持等取締法31条、3条の13

同器物損壊の点刑法261条

第2の1の(1)の事実刑法60条、225条

同(2)の事実中逮捕監禁致傷の点刑法60条、221条(204条)

同強盗致傷の点刑法60条、240条前段

同2の(1)の事実刑法60条、228条、225条

同(2)の事実刑法60条、240条前段

第3の事実中監禁致死の点刑法221条(205条)

同恐喝未遂の点刑法250条249条1項

(主文決定の理由)

少年の非行事実は上記のとおりで、その罪質及び情状に照らし刑事処分を相当と認める。よって、少年法23条1項及び平成12年法律第142号による改正前の少年法20条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 長島孝太郎 裁判官 安永健次 丹羽敦子)

〔参考〕検察官関与決定

平成13年(少)第1555号

監禁致死、恐喝未遂保護事件

検察官関与決定

少年 N・H 1983年1月29日生(18歳)

少年に対する別紙記載の保護事件について、当裁判所は、非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認め、次のとおり決定する。

主文

別紙記載の保護事件(監禁致死)の審判に検察官を出席させる。

平成13年5月14日

東京家庭裁判所

裁判官 長島孝太郎

(別紙)

1 犯罪事実

被害者は、暴力団○○組組員を自称するものであるが、I(当時22年)を監禁した上、同人から金員を喝取しようと企て、平成12年2月7日午後3時12分ころから同日午後7時4分ころまでの間、東京都○△区○□×丁目××番×号所在のマンション△△13階×××号室被疑者方において、上記Iに対し、「100万円は何時払うんだ。ジャンプはできないぞ。」、「払えないんだったら親元に行く。」、「ふざけんな。」、「金ができなかったら、どうケツ拭くんじゃー。」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し、もし上記要求に応じなければ、同人等の生命、身体に危害を加えかねない気勢を示して脅迫してその旨同人を畏怖させるとともに、同室玄関及び内戸を閉めて同人を監視するなどし、その間約4時間にわたり、同人をして同室から脱出困難にならしめて不法に監禁したが、同人が同室避難用通路から退避したため金員喝取の目的を遂げず、その際、同人をして上記避難用通路から上記マンション△△1階北側植込み内に墜落させ、そのころ、同所において、同人を胸部打撲による左右肺損傷、肋間動脈損傷に基づく呼吸循環不全により死亡させたものである。

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