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東京家庭裁判所 平成13年(家)1370号 審判 2001年6月05日

申立人 X

相手方 Y

未成年者 A

主文

本件申立てを棄却する。

理由

第1申立ての実情

1  申立人と相手方とは、平成12年9月6日から別居している。

別居の原因は申立人の暴力にある。このために、未成年者らを連れて、相手方が家を出てしまった。

2  未成年者らは申立人の子であるから、その成長を見て、親子としての愛情も交換したい。このために、相手方に対し、面接させるよう申し入れたが、言を左右して受け入れようとしない。

3  よって、申立人と未成年者らとの面接交渉の実現を求める。

第2当裁判所の判断

1  当事者間の婚姻の経緯について

申立人と相手方は、平成5年6月9日に婚姻し、長男A(平成3年○月○日生、平成5年6月11日認知届出)、長女B(平成6年○月○日生)及び2男C(平成8年○月○日生)をもうけ、従前は東京都世田谷区<以下省略>、同区<以下省略>aビル○○棟などで同居してきたが、不和が高じた末に、平成12年9月6日から別居するに至り、さらに平成13年3月28日、未成年子らの親権者をいずれも母である相手方と定めて協議離婚した。

2  夫婦間の不和の原因及び夫婦別居の経緯等について(陳述・説明)

(1)  申立人の説明の主旨は次のとおりである。

すなわち、相手方が事件本人らを連れて家を出てしまった原因は申立人の暴力にある。しかし、別居当時の平成12年9月5日及び6日には、5日夕方に相手方とけんかになり、相手方が殴ってきてつかみ合い、ポロシャツをボロボロにされてしまったが、申立人としては相手方を軽く殴った程度で、6日も軽い暴力は振るったに止まり、顔にあざができるような暴力は振るっていない。相手方は申立人の暴力癖を問題にするが、申立人が相手方に対し酷い暴力に及んだのは、長男出生前の平成3年秋ころなどで、長男が満1歳時の平成4年12月ころまでで、それからは、相手方と口げんかになっても、暴力は振るっていない。未成年者らの生活状況が分からないし、相手方から電話で生活保護の話しを聞かされたりして未成年者らのことが気がかりである。未成年者らの将来もあるので直接話し合いたいのに、相手方からは無視され続け、申立人自らが精神的にまいっている。申立人としては、相手方と直接に話し合いをする機会を求め、相手方を見つけ出そうとして、探し回ってきただけである。東京都内のb寮を訪ねたり、長野市の小学校の前で待っていたりしたのは、相手方と話し合いをするためで、不当なことではない。申立人に対し未成年者らがおびえているということはない。

(2)  これに対し、相手方の説明の主旨は次のとおりである。

すなわち、引越前の平成12年9月5日、申立人は、引越の荷詰めを手伝わないばかりか、相手方が設定した引越の段取りにクレームを付け、明日にしろなどと勝手なことを言うなどしたことから、夫婦げんかになるなどして、申立人から殴られた。翌6日も申立人が朝寝していたので夫婦げんかになり、挙げ句の果てに申立人が相手方を殴った。このため、相手方は子供たちを連れて友人宅に逃げ出し、その後は公的保護を受けて帰宅していない。相手方は、もはや申立人との生活を立て直すことはできないので、専ら離婚を望むに至った。夫婦破綻の原因は、長男出生前の平成3年秋ころのことをはじめ、申立人が酷い暴行に及ぶので相手方母子ともに公共施設や知人宅に避難するという経緯が繰り返された従前の経緯があり、その後の年月は経たが、今回再び申立人が激しい暴行に及んだこと、申立人の就労が一向に安定しないし収入が不安定で、相手方も建築事務所の仕事を請け負うことで、家計が維持されてきた状況であるのに、申立人は自己中心的で独りよがりの態度であることなどである。申立人は執拗に未成年者や相手方を追いまわし、ストーカーまがいの行動をして未成年者を奪おうとしたので、未成年者らがおびえている。将来はともかく現在は面接交渉を拒否する。

3  夫婦別居後の経緯について

関係記録によれば、次のとおり認められる。

(1)  相手方は、平成12年9月から各地の福祉施設(母子支援施設など)を転々としているが、未成年者らとともに、一応安定した健康な生活をしている。

申立人は、遅くても平成12年12月以降において、世田谷区役所福祉課に相手方の居所を照会したり、相手方らの寄宿先の福祉施設に赴いて面会を求めたりし、さらに平成13年2月26日には、内密に長野県長野市内の福祉施設に移転していた相手方らを探し当て、長男及び長女の小学校(長野市立c小学校)前で相手方を待ち構えていて、2男を相手方から取り上げてしまい、駆けつけた警察官に説諭されるまで2男を抱き抱えて離さなかった。また、平成13年3月9日には、再び長野県長野市内の福祉施設に赴き、離婚に応じるので離婚届を持参したなどと言って相手方との面談を求めたこともある。

(2)  東京地方裁判所は、本件当事者間の平成12年ヨ第××××号接近禁止等仮処分命令申立事件について、平成13年1月11日付け仮処分決定をもって、申立人に対し、「債務者は、債権者の勤務先や債権者及びその子らであるA、B、Cの居所を探知したり、立ち入ったり、その付近を徘徊したり、佇んだり、その後を追跡したり、債権者に架電したり、面会を求めたりしてはならない。」旨を命じ、この決定は、保全異議申立事件(平成13年モ第×××××号)の平成13年3月8日付け決定をもって、認可された。申立人には、この仮処分命令の主文のとおり遵守すべき法律上の義務がある。

(3)  当事者双方は、相互に他を非難するに急で融和を図る姿勢は見えない。当事者間の不和・対立は今なお厳しい状態が続いている。その背景には、過去の生活歴、それぞれの性格特徴や行動傾向などに照らし、かなり根深いものがあって、簡単には融和できない状況が続いている。

申立人は、現状を直視して受容することができないためか、未成年者らとの面接交渉などの問題に執着し、相手方らの所在を探索したりしてきたものである。安定した就労生活をしないのも事件未解決のままでは仕事ができないためと弁解し、依然として不安定なアルバイト生活を続けている。

4  子の福祉について

(1)  申立人は、親子間で愛情を交換したり成長を見たりするためとして、未成年者らとの面接交渉を求める。その要求のとおり面接交渉を認めるか否かは、面接交渉が未成年者らの生活関係や意思と、親権者の監護養育に及ぼす影響など、諸般の事情を総合考慮し、あくまで未成年者らの福祉に合致するか否かによって決定されるべきものである。

(2)  相手方は、平成13年3月28日、未成年子らの親権者をいずれも母である相手方と定めて、申立人と協議離婚した。親権者である相手方は、未成年者らを監護養育しながら、申立人の追跡を逃れて各地の福祉施設(母子支援施設など)を転々としており、父親である申立人との面接交渉に強く反対している。

(3)  未成年者らは、長男が満9歳、長女が満6歳、2男が満4歳で、身体・内心ともに幼い面が大きく、未成熟な成長段階にある。家庭裁判所調査官が未成年者らと面接して調査した結果によれば、未成年者らは、いずれも健康で、平穏かつ安定した生活状況下にあり、母親である相手方とは親和的である。調査官の面接に対する未成年者らの答えは、現在の生活状況に満足しているというもので、その生活の平和と安定が乱されることを畏れており、はっきりと申立人への嫌悪感情を示す者もいた。未成年者らの現在の福祉のため最も重要なことは、未成年者らの健康と、平穏かつ安定した生活状況を保つことである。

(4)  離婚前の当事者らは、未成年者の面前においても、夫婦間の不和を示しがちであった。今回の夫婦別居に直面した未成年者らは、父母の間の不和が厳しいことを感じ取っていたはずである。その上に、申立人が長野市内の小学校前において相手方や未成年者らを待ち構えており、2男を抱き抱えて父母間の争奪の対象にしてしまったという経緯も存在し、こういった父母の緊張関係は未成年者らに強いストレスを及ぼしたと窺われる。

(5)  申立人が未成年者らとの面接交渉を求める必要性は、主として申立人の内面の満足のためであるとしか言いようがない。申立人の従前の行動は賢明と言えないところがあり、親子間の愛情交換の期待とは正反対に、相手方らの反発を招く結果を招いた。現時点において、申立人との面接交渉は、未成年者らに弊害を招きかねないことで、その福祉に合致しないことである。

第3結論

本件の対立顕著な状況下において、父親である申立人との面接交渉を認めることは、かえって未成年者らの福祉を害するものと言わざるを得ない。

よって、本件申立てには理由がないから、これを棄却する。

(家事審判官 榮春彦)

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