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東京家庭裁判所 平成13年(少)1588号 2001年6月05日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、A、B、C、D及びE(以下「Aら」という。)と共謀の上金員を強取することを企て、平成13年3月12日午後9時25分ころから同日午後9時45分ころまでの間、東京都○囗区○△×丁目××番××号囗□方前路上において、知り合いのF(当時16歳)を取り囲み、少年がFに対して「お前何バックレてんだよ」と怒号し同人の腹部を足で1回蹴りつけた後、引き続き人目を避けるためAらとともに同人を取り囲んで、同区○△×丁目××番×号囗△東側路上に連行し、同所において同人を取り囲み、CがFの足首を手で持ち上げて振り回し、少年がFの腹部等を10数回くらい足で蹴りつけるなどして、その反抗を抑圧し、Cが「お前金持ってんだろう。残りの1万円返せ。」と言って、B及びAにおいてFが所持するテニスラケット用バッグから財布を取り出して在中の現金1万円を強取し、さらに同区○△×丁目×番××号△○公園内に連行し、少年が「バックレていた落とし前どうやってつけるんだ」と言い、こもごも手拳でFの顔面、腹部等を殴打するなど執拗に暴行を加えて、その反抗を抑圧し、現金5000円及びテニスボール4個くらい(時価合計500円くらい)を強取したが、その際上記一連の暴行により、Fに対し加療1か月を要する左肋骨骨折、左側腹部、顔面、両上肢打撲擦過傷の傷害を負わせたものである。

(適条)

刑法60条、240条前段

(処遇の理由)

本件は、少年が不良仲間とともに、被害者を夜間人気のない場所へ連行した上、殴る蹴るなどの暴行を加え、同人が所持していた金品を強取するとともに、上記暴行により同人に加療約1か月間を要する左肋骨骨折等の傷害を負わせたという事案である。何ら落ち度のない被害者に対して、金員強取の目的をもって、多人数で一方的且つ執拗に暴行を加え傷害を負わせたもので、被害者は心身に重大な被害を被っており、事案は誠に悪質である。また、少年自身率先して被害者に暴行を加えるなど本件において中心的な役割を果たしていること、少年自身本件により金員を取得していること、かねて口実をつけて金員を交付するよう要求していたところ被害者がこれを交付しないことに立腹して犯したものであって動機に酌量の余地が全くないことなどからすると、少年の責任は重い。

少年は、中国で出生した後、平成4年(7歳の時)、先に来日していた母方祖母を頼り、両親及び兄とともに来日し、小学校1年生に編入した。小学校5年生ころまで国籍を理由にいじめを受けたが、生来の運動能力の高さや負けん気の強さから、他の児童を腕力で圧倒するとともに、粗暴的な行動が目立つようになった。転居を原因として、中学校入学後小学校時代の友人と離れたことから欠席が増え始め、自己の存在を顕示するために不良交友を広げる中、平成11年5月5日に窃盗事案、平成12年7月17日に道路交通法違反事案を起こしている。

本件被害者は、一学年遅れて進級していた少年にとって、同じ年齢でありながら、中学の1年先輩にあたる者であるが、少年は、平成12年秋ころから口実をつけては被害者に金員の交付を要求するようになり、同年11月か12月ころには、本件の共犯者であるAらとともに被害者に暴行を加え、その際少年が被害者に対して暴行を受けるか自慰行為をするか選択させた上で、少年らの面前で被害者に自慰行為をさせるなどしている。その後も仲間内で被害者を捕まえた場合互いに連絡しあうよう意を通じていたところ、本件当日Bらが被害者を偶然見つけたことから本件非行に及んだものである。

このように少年には、粗暴な行為によって仲間内での主導権を握るとともに、逆らう相手を力で押さえつけるという性向が見られる。来日後国籍を理由に理不尽ないじめに遭って孤立した状況に置かれたものの、自らの腕力でこれを克服し他人を支配する立場に立ったことから、対等かつ協調的な人間関係の持ち方を学習できていないことがその背景にあると理解できる。少年自身、自分を理解してくれる友人の存在を望むなど、このような問題点を徐々に意識しつつあるものの、自らもそのような態度で他人に臨むことの必要性などこの点に関する十分な理解はできていない。

少年の保護環境についてみると、親子関係に大きな問題があるとは認められないが、両親がこれまで少年の問題行動を修正できなかったことを考えると、家庭に対して直ちに指導力を期待することは難しいといわざるを得ない。

以上のような本件非行の重大性、少年の抱える問題点及び保護者の指導力等に照らすと、本件の後中学校を卒業し、解体工として1か月ほど規則正しい生活を送っていることなどを考慮しても、社会内での処遇によって少年の問題性を改善することは困難であり、少年が今後健全な社会生活を送ることができるようにするためには、この際、施設における本格的な監護と強力な指導・教育が必要であると認められる。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

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