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東京家庭裁判所 平成13年(少)3220号 決定 2002年2月18日

少年 J・Y(平成元.8.2生)

主文

本件を○○児童相談所に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  平成13年4月2日午後3時30分ころ、東京都○△区○□×丁目××番××号所在の△△方の玄関先において、同所に立て掛けてあった同人所有の草ほうきの先端に、所携のライターで点火して火を放ち、同草ほうき1本(損害額350円相当)を焼損させ、もって他人の器物を損壊した

第2  同日午後3時35分ころ、同区○□×丁目××番×号所在の□□方において、同人ほか2名が現に住居に使用する木造瓦葺平家建住宅(床面積95.40平方メートル)の北側西端付近の押縁下見板に、他所から持ち込んだ段ボール片を立て掛けた上、同段ボール片に上記ライターで点火して火を放ち、その火を同住宅の押縁下見板から屋根の庇等に燃え移らせ、よって同住宅1棟を全焼させ、もって現に人が住居に使用する建造物を焼損した

第3  同年5月28日午後3時55分ころ、同区○□×丁目××番××号所在の△□方の庭先において、同所に駐車中の原動機付自転車の前かごに入れてあった同人所有の庭ほうきの先端に、所携のライターで点火して火を放ち、同庭ほうき1本(損害額300円相当)を焼損させ、もって他人の器物を損壊した

ものである。

(法令の適用)

少年法3条1項2号(第1及び第3につき刑法261条、第2につき刑法108条)

(処遇の理由)

1  本件は、少年が、いずれもライターを用いて、ほうき及び住宅1棟を焼損させるとともに、その約2ヶ月後、同様にほうきを焼損させたという、器物損壊(2件)及び現住建造物等放火の事案である。

少年は、物の燃え方に興味を持ったことや、上級生らにからかわれたことによる不快感を紛らそうとして、本件非行に及んだと述べているが、いずれにせよ、動機は短絡的であって、酌量の余地はない。また、住宅が密集した地域において、連続して放火に及んでおり、態様は極めて危険且つ悪質である。さらに、本件により住宅1棟が全焼するなどの結果が生じていること、非行事実欄記載の第2の事案では、結果的に住人が焼死するに至っており、同人の無念さ、遺族の精神的苦痛や地域住民の不安は計り知れないことなどからすると、事案は極めて重大であると言わなければならない。

2  少年は、本件以前にも、ライターに関心を持ち、道端でライターを拾ったり、これを用いて物を燃やすなど、火や放火行為に深い興味を示していた。このような少年の生育歴を踏まえ、当裁判所が行った鑑定の結果によれば、少年には、発達障害の一類型であるアスペルガー症候群と診断するまでには至らないものの、これと共通する傾向が認められている。また、鑑別結果通知書、少年調査票等においても、少年には、<1>物事の捉え方が独りよがりで、時として場違いな振る舞いをすることがある、<2>人との接触を好み、優越欲求や賞賛欲求が強いものの、他者の気持ちを推し量ることは苦手である、といった性格・心理的特徴があると指摘されており、本件非行の背景には、このような少年の資質上の問題があると思われる。

3  少年の保護環境をみると、両親は、少年の養育に関心はあるものの、これまで少年の上記問題を理解して指導していたとはいえず、また、本件においては、少年をかばうばかりで内省を求める姿勢には乏しく、児童相談所の指導に抵抗を示すなど、その監護のあり方は適切とはいえない。

4  以上の本件非行の重大性や、少年の資質上の問題点及び保護者の監護姿勢等にかんがみると、少年の健全育成をはかるためには、専門的な機関が他とも連携をとりながら、少年や両親に対して個別的な指導を行うことが必要であると認められる。もっとも、当裁判所における試験観察期間中、家裁調査官による指導や、それを受けた鑑定人による診察により、少年自身、本件非行について振り返る機会を持つとともに、両親においても、少年の資質上の問題点について理解し、周囲と協力して少年の指導に当たろうとする姿勢を示すようになった。これに加えて、家裁調査官による働きかけの結果、少年の通う学校や児童相談所において少年を指導する態勢が整ったこと、鑑定人において、今後も定期的に少年を診察し、経過を見守りたいとの意向を示していることを考慮すれば、現時点においては、少年について、保護処分として施設に入所させる必要性までは認められず、児童福祉法上の措置にゆだねることで足りると思われる。

よって、少年法23条1項、18条1項、少年審判規則23条を適用して、本件を、少年の住居地を管轄する○○児童相談所長に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小川正明 裁判官 安永健次 丹羽敦子)

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