東京家庭裁判所 平成15年(少)3492号 決定 2003年9月26日
少年 Y・S(平成元.1.13生)
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
第1 平成15年2月24日午前1時ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番×号所在の○○店内において、同店店長○○管理のトレーディングカード9袋(売価合計1950円相当)を万引きして窃取した
第2 Aと共謀の上、平成15年7月11日午前1時45分ころから同日午前1時50分ころまでの間、東京都葛飾区○○×丁目××番×号所在の○○マンション○○駐車場において、△△所有の自家用普通乗用自動車1台(時価約40万円相当)を窃取した
第3 A、B、Cと共謀の上、
1 平成15年7月11日午前7時32分ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番×号所在の○○工場前路上において、同所を歩行中の□□(当時34歳)の背後から、少年が運転し他3名が乗車する上記第2の自動車で近付き、追い越しざまに、後部座席に乗車していたBが、同女が所持していたその所有するトートバッグ1個をひったくり窃取しようとバッグに手をかけたが、同女に気付かれたため、その目的を遂げなかった
2 同日午前7時40分ころ、同区○○×丁目××番××号先路上において、同所を歩行中の○□(当時26歳)の背後から近付き、上記第3の1と同様の方法で、後部座席に乗車していたCが、同女が所持していたその所有する現金約1万5500円及び財布ほか20点在中の手提げバッグ1個(時価合計約5万2000円相当)をひったくり窃取した
ものである。
(法令の適用)
第1の事実について 刑法235条
第2、第3の2の各事実について 刑法60条、235条
第3の1の事実について 刑法60条、243条、235条
(処遇の理由)
本件は、少年が、玩具を万引きした事案(第1)と、共犯者とともに、エンジンがかかったままの自動車を発見してこれを盗み(第2)、その自動車を利用してひったくり盗に及んだ(第3)という事案である。いずれも遊興費欲しさに及んだもので、同情の余地はない。本件第2及び第3の非行は、大胆かつ危険というほかない上、少年は共犯者の中で主導的役割を果たしており、その責任は重い。
少年は、フィリピンで日本人の父とフィリピン人の母との間に出生し、5歳のときに来日したが、小学2年時に父母が離婚し、その後は主に母、兄及び弟と生活していた。中学2年生の秋ころから急速に怠学が進み、家庭からの指導もないまま遊興中心の生活に陥って、万引きを繰り返した(本件第1はそのうちの一つである。)ほか、年長不良者に勧められるままに覚せい剤を使用したため、覚せい剤取締法違反により観護措置をとられた上、平成15年5月2日、保護観察決定を受けた。ところが、早々から家庭に戻らないようになり、中学にも登校せず、再び怠惰な生活となり、保護観察による指導も歯止めとならないまま、万引きを繰り返し、車上荒らしのほか、本件第2及び第3の各非行に及ぶに至ったものである。
その背景には、母との関係が希薄で、そのしつけや指導も不十分であったことなどから、精神的に未熟で、主体性や自律性に乏しい上、物事をしっかり考える力や善悪の判断力に欠けるといった少年が抱える資質的問題がある。基本的生活習慣が身に付いておらず、社会規範や常識の取り入れも相当遅れている状況にあり、社会化不足は著しい。こういった問題を改善しないままでは、少年が再非行に及ぶ可能性は高い。
保護者である母は、これまで少年らに対する養育や生活指導等をほとんどしておらず、子の監護に専念するために生活保護の受給が認められた経緯もあったが、その放任的な養育態度に変化はなかった。母は、日本語の理解が不十分で意思疎通に難がある上、関係機関からの働きかけにも応じず、地域からも孤立している状態にある。現段階においても、母自身や少年らの置かれた立場や状況を理解できておらず、監護の意欲すらみせていないのであって、今後も家庭での指導に多くを期待できない。
このような諸事情に照らすと、もはや社会内における処遇によって少年の更生を期待することはできず、少年に対しては、この機会に初等少年院に送致した上で、基本的な生活習慣や規範意識を身に付けさせ、社会性を養わせる必要がある。
なお、少年の帰住先は母の元であるが、上記のとおり家庭の基盤はぜい弱であることから、関係機関が連携をとりあって、家庭環境の調整を含め、少年の社会復帰後の生活基盤を安定させるための援助をすることが必要であると思われる。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、少年を初等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 大森直子)
〔参考〕 環境調整命令
平成15年少第101971号、同第3492号、窃盗、窃盗未遂保護事件
平成15年9月26日
東京保護観察所長 殿
東京家庭裁判所
裁判官 大森直子
少年の環境調整に関する措置について
氏名 Y・S
年齢 14歳(平成元年1月13日生)
職業 中学3年生
本籍 東京都江戸川区○○×丁目××番
住居 東京都足立区○○×丁目×番××-×××号
当裁判所は、平成15年9月26日、上記少年に対し、少年を初等少年院に送致する旨の決定を言い渡しましたが、少年については、家庭その他環境調整の必要が認められるので、少年法24条2項、少年審判規則39条に基づき、適切な措置を採られるよう要請致します。少年の家庭その他の環境調査の結果及び環境調整に関する指示事項は下記のとおりです。
記
第1少年の家庭その他環境についての調査の結果
少年の生育歴や家庭環境は別添決定書記載のとおりである。少年の精神的な未熟さや著しい社会化不足等の資質的問題は大きいが、それは、母からのしつけや指導が不十分であったことによるところが大きい。母は、日本語の理解が不十分で意思疎通に難がある上、関係機関からの働きかけにも応じず、地域からも孤立している状態にあり、これまで少年らに対する養育や生活指導等をほとんどしていないばかりか、現段階においても、母自身や少年らの置かれた立場や状況を理解できておらず、監護の意欲すらみせていない。
少年の帰住先は母の元であるが、少年の社会復帰後の生活基盤を安定させるためには、少年が少年院に在院しているうちから、下記のとおり、母に対して積極的に働きかけて援助をし、受け入れ態勢を整えさせておく必要がある。
なお、詳細については、当裁判所調査官作成の平成15年4月20日付け及び同年9月24日付け各少年調査票、東京少年鑑別所長作成の平成15年4月25日付け及び同年9月18日付け各鑑別結果通知書の写しを添付するので参照願いたい。
第2環境調整に関する指示事項
1 できるだけ多く家庭訪問及び面会の機会を設け、母が関係機関からの指導を受け入れられる態勢を作り上げること
2 少年院や保護観察の趣旨及び目的について、母が理解できるように援助すること
3 少年院等関係機関からの各種連絡及び通知等の内容について、母が理解できるよう援助すること
なお、生活保護世帯なので、福祉事務所との連携も考慮されたい。