東京家庭裁判所 平成21年(家)2249号 審判 2009年6月30日
主文
1 相手方は申立人に対し,50万円を支払え。
2 相手方は申立人に対し,平成21年×月から申立人及び相手方が別居を解消し又は離婚するまで,毎月末日限り,月額17万円を支払え。
理由
第1申立ての趣旨
相手方は申立人に対し,別居を解消し,又は離婚が成立するまで婚姻費用の分担として,月額20万円を支払え。
第2当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 申立人(昭和49年×月×日生)と相手方(昭和46年×月×日生)は,平成16年×月×日婚姻し,平成17年×月×日長男をもうけたが,夫婦不和となり,申立人は,平成20年×月×日,申立人が自宅を出る形で別居した。
長男は,同日以降,申立人と同居している。
(2) 申立人は,平成20年×月以降パートタイムとして稼働し,同年の収入は60万1645円(申立人に係る平成20年分給与所得の源泉徴収票)である。また,平成21年×月及び×月の給与は,各12万2475円である。
(3) 相手方は,○○の従業員であり,平成17年に930万7264円(乙第4号証の1),平成18年に998万2534円(同号証の2),平成19年に1004万5492円(同号証の3),平成20年に1079万6583円(同号証の4)の給与収入を得た。
(4) 申立人は,平成20年×月×日,相手方との離婚等を求める夫婦関係調整の調停(当庁平成20年(家イ)第○○○号事件)及び婚姻費用の分担を求める調停を申し立てたが,調停委員会は,平成21年×月×日,後者について当事者間に合意が成立する見込みがないと認めて調停を不成立とし,本件審判に移行させた。なお,上記夫婦関係調整調停事件は現在も係属している。
2 夫婦は,互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条),別居した場合でも,自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。そして,本件の経緯に照らせば,本審判において形成するべき婚姻費用分担金は,申立人が本件調停を申し立てた平成20年×月分からと認めるのが相当である。
3 婚姻費用分担額を算定するに当たっては,申立人と相手方との総収入を基礎に,公租公課を税法等で理論的に算出される標準的な割合により算出し,職業費及び特別経費を統計資料に基づいて推計される標準的な割合により算出してそれぞれ控除して基礎収入の額を定め,その上で,申立人と相手方と子が同居しているものと仮定すれば,権利者である申立人と子のために充てられたはずの生活費の額を,生活保護基準等から導き出される標準的な生活費指数によって算出し,これから申立人の基礎収入を控除して,義務者である相手方の分担額を算出するのが相当であり(「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁参照),その算出の際には,特段の事情がない限り,算定表を使用するのが合理的である。
本件においては,算定表を使用することが合理的でない事情は認められない。
4(1) 上記1において認定したとおり,申立人は,平成20年×月×日ないし同年×月×日の間に合計60万1645円,平成21年×月及び同年×月に各12万2475円の給与収入を得ている。そこで,婚姻費用分担額の算定の基礎となる申立人の収入は,現在の月額給与の12倍である年約147万円と認めるのが相当である。また,相手方の収入は,平成20年の年収相当額である約1080万円と認めるのが相当である。
なお,相手方は,平成21年×月に管理職に昇進したことにより,休日勤務手当がなくなり,ボーナスも40パーセントカットされるなど,収入が年間200万円程度減少する旨主張し,乙第1号証によれば,相手方が,平成21年×月×日付けで昇格し,超過勤務手当が支給対象外となったことが認められる。しかしながら,乙第3号証によっても,賞与が40パーセント減額になるか否かは判然とせず,上記のとおり相手方が昇格していること,上記1(3)のとおり,相手方の収入が平成17年以降平成20年まで毎年増加していたことにも照らすと,相手方の年収が平成20年に比し200万円減少するとの主張はにわかに採用することができず,その他,相手方の年収が減少することを裏付ける的確な証拠はないというべきである。
他方,申立人は,相手方は毎年住宅ローン控除で30万円の返金を受けており,実際の収入額は源泉徴収票記載額より30万円多いのでこの点を考慮するよう主張するところ,上記のとおり,総収入の認定は源泉徴収票の「支払金額」によって行っているから,申立人の主張は前提を欠く。
(2) 申立人は,長男を養育しており,適用するべき算定表は表11であり,おおむね月額16ないし18万円の範囲となる。
そして,本件に現れた一切の事情を考慮すると,相手方が申立人に支払うべき婚姻費用額は,その範囲内である月額17万円とするのが相当である。
5 平成20年×月から平成21年×月分の婚姻費用は,10か月分合計170万円となるところ,この間,相手方は,申立人に対し,平成20年×月×日30万円,同月×日18万円,平成21年×月×日12万円,同月×日12万円,同年×月ないし×月に各12万円ずつ,合計120万円を支払ったことが認められるから,この期間に係る未払婚姻費用は50万円である。
6 よって,相手方に対し,平成20年×月ないし平成21年×月分の未払婚姻費用として合計50万円の支払及び同年×月から,申立人及び相手方が別居を解消し又は離婚するまで,月額17万円の支払を命じることとし,主文のとおり審判する。
(家事審判官 藤原典子)