東京家庭裁判所 平成24年(家)4374号 審判 2013年3月28日
主文
申立人及び相手方は,申立人と未成年者との面会交流を以下のとおり行わなければならない。
1 相手方は,申立人に対し,本審判確定後,2か月に1回,日帰りで,公益社団法人a等第三者機関の立会いの下,面会交流することを認めなければならない。
2 申立人及び相手方は,前項の面会交流の日時,場所,方法,同交流の際の留意事項,禁止事項について,公益社団法人a等第三者機関の職員の指示に従わなければならない。
3 申立人及び相手方は,上記面会交流に関し,公益社団法人a等第三者機関に支払うべき費用を,2分の1ずつ折半して負担しなければならない。
理由
第1申立ての趣旨及び実情
本件は,別居中の夫婦間において,相手方(妻)が監護養育している未成年者について,申立人(夫)が,以下のとおり面会交流させることを求めた事案である。
(1) 未成年者が申立人と,週に1回土曜日に行われるb塾の空手の稽古に参加すること(時間,場所は随時ホームページで確認の上,申立人と相手方がお互いに連絡をとり,臨機応変に対応することとし,基本的に,18時から21時まで,c駅のd体育館において行う。)
(2) 未成年者が申立人と,月に1回日曜日に行われるb塾の論語の勉強会に参加すること
(3) 未成年者が申立人と,b塾のイベントに参加すること(×月×日から×日まで行われる子ども合宿(e自然の家),×月×日から×日まで行われる大人合宿及び立志式等)
(4) 未成年者の学校の行事に関して,相手方が申立人に連絡し,申立人が参加すること(授業参観,運動会,学芸会等)
(5) 未成年者のサッカー等の大会やイベント等がある場合,相手方が申立人に連絡し,申立人と未成年者との間で参加の有無の相談をさせ,参加すると合意した場合,申立人が未成年者と一緒に参加すること
(6) 未成年者の長期の休み期間中に,3日以上の宿泊を伴う面会をさせること
(7) 未成年者と月に1回以上,宿泊を伴う面会をさせること
(8) その他,夏祭り,プール,スキー等,未成年者と申立人が合意したイベントに参加させること
第2当裁判所の判断
1 本件記録及び平成24年(家)第××××号子の監護者の指定申立事件(以下「別件」という。)の調査官の調査報告書によれば,次の事実が認められる。
(1) 申立人(昭和47年○月○日生)と相手方(昭和49年○月○日生)は,平成13年×月ころ,○○のクラブで知り合って交際するようになり,同年×月×日婚姻の届出をした。その後,同16年○月○日に,夫婦間の子である未成年者が出生した。
(2) 相手方は,看護師の資格を有しているが,未成年者の出産前から3歳になるまで仕事を休み,専業主婦として子育てを行っていた。なお,未成年者は3歳ころまで小児ぜんそくで入退院を繰り返していた。
相手方は,未成年者が3歳になった後,週2日から3日の勤務で,看護師の仕事に復帰した。
相手方が仕事に復帰した後も,未成年者が小学校に入学するまでの保育園の送り迎えは相手方が行っていた。また,土日については,相手方が休んでいる間,申立人が未成年者と出かけてサッカーや魚釣りをしたりしており,保育園の土日の行事にも申立人が参加していた。
(3) 申立人と相手方はその後不仲となり,同23年×月×日ころ,相手方が未成年者を連れて家を出て別居した。
(4) 申立人は,システムエンジニアとして稼働している。
申立人は,平成22年初めから論語の勉強を始め,明治時代の日本人の精神的支柱を受け止めたいという興味を持ち,同22年×月から,雑誌「f」を購読するようになり,同23年×月の愛読者の新年会で,「f誌」の著者であるA氏に出会って同氏が主催する勉強会(b塾)に参加するうちに,誘われて同23年×月ころから空手も始めるようになった。
申立人は,同年×月ころからは,未成年者も連れて空手に通うようになり,相手方が別居するまで週1回必ず連れて行っていたが,未成年者はサッカーをしているため,午前に行われる勉強会には出席させていなかった。
(5) 相手方は,申立人との同居中,申立人が帰ってくる時間帯になると,怖くてどきどきしたり,ドアの鍵が開く音で動悸が激しくなる状態であったが,別居後は,そのような症状はなくなったものの,仕事をしていて,同居中の過去のことが頭をよぎって急に涙が止まらなくなったりすることがある状態である。
相手方は,平成24年×月×日には,医師からPTSD症状を伴う適応障害との診断を受けている。
(6) 相手方は,現在は,月曜から土曜まで日勤のみで看護師として勤務しており,未成年者の学校がない時間帯は,学童保育を利用している。
(7) 相手方は,平成23年×月×日,申立人に対し,申立人から言葉による虐待(モラルハラスメント)を受けてきたとして離婚を求める夫婦関係調整調停事件(当庁平成23年(家イ)第××××号)及び婚姻費用の支払を求める婚姻費用分担調停事件(当庁平成23年(家イ)第××××号)の申立てをしたが,いずれも,同24年×月×日調停不成立となり,その後,相手方は,平成24年×月×日,申立人に対し,離婚訴訟を提起し(当庁平成24年(家ホ)第×××号),現在,当事者間で同訴訟が係属中である。
(8) 申立人は,平成24年×月×日,相手方に対し,未成年者との面会交流を求める調停事件の申立てをしたが(当庁平成24年(家イ)第×××号。以下「本件調停事件」という。),同事件も,同年×月×日調停不成立となって本件審判手続に移行した。
他方で,相手方は,同日,申立人に対し,子の監護者の指定申立事件(当庁平成24年(家)第××××号)及び同事件を本案とする審判前の保全処分申立事件(当庁平成24年(家ロ)第××××号)を申し立てた。
(9) 未成年者は,相手方と申立人の別居に伴い,小学校1年の2学期から転校したが,転校後,小学校1年次(平成24年×月まで)までの欠席日数は4日,早退は1回であった。
未成年者が,小学1年の2学期に現在の学校に転入して間もないころ,学校生活では,反抗的な態度が見られ,同級生や上級生に強い口調で文句めいたことを言うことがあったり,同級生に強く出たり,手が出たりすることも見られたが,3学期に,同級生の女子にボールペンを投げつけたことがあったものの,担任がきつく叱って以来,そのような態度は収まった。
その後,未成年者は,徐々に安定してクラスにも馴染んだ学校生活を送れるようになり,2年生に進級した平成24年×月以降,学校行事や級友との積極的な関わりを示しており,元来活動性が高く外向的な性格行動傾向が見られる未成年者は,成績も上位で知的能力が高いだけではなく,周りの状況に応じて柔軟に対処する感性の豊かさもみられ,絵画作品でも最優秀賞をとるなど,健全な成長過程を歩んでいる。
(10) 当庁調査官が未成年者と面接した際,未成年者は,相手方と暮らすのが良いと答えたが,調査官からの「パパとは絶対会いたくないのかな。」との質問に対し,「1日中じゃなく,ちょっと会うなら良いんだけど。僕のこと急にパパの家に呼び寄せて,こっそり呼び寄せて,それで,一緒に暮らせ,と言われるのは嫌だ。そんなこと絶対やんないと言っても,やるかも知れないから嫌だ。」と答え,さらに,調査官が「じゃあ,パパに連れて行かれないように,パパと会うときに近くに誰かが一緒に居れば良いかな。」と尋ねたところ,「うん。でもママは会うのが嫌だと思う。」と答えた。
また,調査官との面談の際,未成年者から,申立人から手紙をもらったと話したが,その申立人の手紙の概要は,「大好きだよ。Bはなにもわるくないよ。はやくママとなかなおりできるようにがんばるよ。またサッカーやザリガニつりやプールに行こうな。」というものであり,相手方が調停期日に調停委員を介して受け取り,これを未成年者に渡したものであった。
さらに,調査官が,未成年者に申立人のことをどう思うか尋ねたのに対し,未成年者は,「ちょっと怖い。」と話すとともに,「良いこともある。一緒にザリガニ取りとか,行ってくれる。お祭りに行ってくれた。サッカークラブに行くとき,一緒に連れて行ってくれた。近くの公園でサッカーの練習をしてくれた。」と答えた。
(11) 本件調停事件の期日における話合いでは,相手方は,直接申立人と顔を合わせたくないので,最初のうちは,公益社団法人a(通称a)等の第三者機関に仲介してもらって面会交流を実施することとしたいとしたのに対し,申立人は,第三者機関が仲介することは拒まないとしたが,面会交流の内容として,毎週,未成年者を特定の教育塾(前記b塾)へ通わせることを主張したことから,合意は成立しない状況であった。
2 判断
(1) 父母の婚姻中は,父母が共同して親権を行い,親権者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うものであり(民法818条3項,820条),婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合であっても,子と同居していない親が子と面会交流することは,子の監護の一内容であるということができる。そして,別居状態にある父母の間で面会交流につき協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,民法766条を類推適用し,家事審判法9条1項乙類4号により,面会交流について相当な処分を命ずることができると解するのが相当である(最高裁判所第1小法廷決定平成12年5月1日民集54巻5号1607頁)。そして,非監護親の子に対する面会交流は,基本的には,子の健全育成に有益なものということができるから,これにより子の福祉を害するおそれがあるなど特段の事情がある場合を除き,原則として認められるべきものと解される。
(2) そこで,上記のような見地から本件について検討するに,前記1認定のとおり,申立人は相手方及び未成年者との同居中,仕事が多忙な中でもやり繰りして,未成年者に関わってきており,それは未成年者の記憶の中に申立人とざりがにつりやサッカーの練習を一緒にして過ごした楽しい思い出として残っていること,また,未成年者は,申立人と会うことについて,申立人と一緒に暮らさなければならなくなったら困るとして不安感を有していることは認められるものの,誰かが一緒にいてくれるのであれば申立人と会っても良いと述べたこと等本件に現れた一切の事情を総合すれば,未成年者が申立人と面会することによって未成年者の福祉を害するおそれがあるということはできず,本件において上記特段の事情があるということはできない。
(3) 次に,申立人と未成年者とが面会交流をする内容について検討するに,申立人は,未成年者を,申立人が通っている論語の勉強会及び空手教室を行うb塾に毎週参加させることを強く主張しているが,そもそも面会交流は,子の幸福のために実施するものであり,親の教育の一環として行うものではない。したがって,未成年者の年齢や,円満な面会交流実施の可能性などを踏まえれば,申立人と未成年者との面会交流の内容としては,別居して生活している父子の自然な交流として,未成年者が以前の楽しい思い出として記憶している魚釣りやサッカーの練習などから始め,面会交流の頻度等についても,未成年者の心理的な負担を考慮すれば,2か月に1回,日帰りで行うこととするのが相当であるといえる。
そして,前記1認定のとおり,申立人と相手方は,現在,離婚訴訟中で,相手方は,申立人からのモラルハラスメントを主張して厳しい対立関係にあり,PTSDを伴う適応障害との診断を受けていることからすれば,当事者間で協議を行うのは困難であると認められること,また,未成年者自身,第三者の立会いを望んでいること等を考慮すれば,本件においては,面会交流の具体的な日時,場所及び方法については,公益社団法人a等の第三者機関(以下「第三者機関」という。)の指示に従うこととし,面会交流の実施の際にも第三者機関の立会いを要することとし,その費用について双方で折半するのが相当と解される(面会交流の実施について第三者機関の介在を命じた例として,東京家庭裁判所平成18年7月31日審判・家庭裁判月報59巻3号73頁参照)。
3 よって,主文のとおり審判する。