東京家庭裁判所 平成24年(少ハ)400043号 決定 2012年12月26日
本人
A (平成6.○.○生)
主文
本人を中等少年院に戻して収容する。
理由
(申請の趣旨・理由)
本件申請は,
1 少年院仮退院者である本人が遵守事項を遵守しなかったと認めるとして,本人は,①平成24年11月25日午前9時頃,東京都a区○○b-c-d自立援助ホームe施設で(本人は,少年院仮退院後同ホームで生活していたが,同月16日,同ホーム入寮中の女性と口論して興奮して包丁を持ち出す騒ぎを起こし,そのことなどが原因で同ホームを退去させられることとなったものである。),同ホーム長Bに対し,約30分間にわたって羽交い締めにする暴行を加え,さらに,足を掛けて転倒させて上に覆い被さり,「犯して少年院に行くぞ。」などと脅し,②同月26日午後8時頃,同ホームで,Bに対し,殴る蹴る等の暴行を加え,よって,同人に加療約1週間を要する両上腕打撲の傷害を負わせ,さらに,同ホーム浴室で,バスマットに持っていたライターで火をつけようとしたが,Bが手で押さえるなどしたため燃え上がらず,同日午後10時頃,同ホーム玄関先で,灯油を地面にまき,手にしたたばこに火をつけてまいた灯油に押し当て引火させようとしたとの事実を掲げ,これらは一般遵守事項の「再び犯罪をすることがないよう,又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること」に違反するとし,
2 戻し収容の必要性・相当性として,要するに,担当保護観察官やe施設職員によって綿密な処遇が実施されてきたにもかかわらず,被害感や不平不満を抱きやすく,適切な対人関係を持つことができずに粗暴な行為に及び,周囲の者に恐怖感を与える本人の問題性は改善されておらず,社会内処遇によって更生を図ることはもはや限界であり,今一度強力な枠組みの中で,自己の性格や行動上の問題に向き合わせるとともに,堅実な生活力を身に付けさせ,自立を促すべく指導を行うことが必要であり,本人を少年院に戻して処遇を行うことが必要かつ相当と認めるとして,
本人について少年院に戻して収容する旨の決定を申請するものである。
(当裁判所の判断)
1 関係証拠によれば,前記「申請の趣旨・理由」1で遵守事項違反事実として掲げられる①,②の事実が認められ(信用できるBや現場に居合わせるなどしたe施設職員Cに対する各質問調書その他の関係証拠によって認める<以下,上記①,②の事実を「本件遵守事項違反事実」という。>。本人は一部これと異なる供述をするけれども,その供述はそれ自身あいまい不自然であって,信用できない。),これらが一般遵守事項の「再び犯罪をすることがないよう,又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること」に違反することは明らかである。
2(1) そこで戻し収容の必要性・相当性であるが,まず,本件遵守事項違反事実は,執拗で(二日にわたり,4場面で敢行されている。),悪質危険なもので(暴行,脅迫,傷害,放火に当たり得る態様である。),施設職員に与えた苦痛,恐怖は大きい。
(2) 本人は,小学校低学年時から学校内での暴力や家出等の問題行動を繰り返し,児童相談所への通告,一時保護を経るも,小学6年時不登校となり,中学進学後も問題行動は続き,平成20年6月(13歳6月時)児童自立支援施設のf施設に入所するも,暴力行為や器物損壊等の問題行動を繰り返した挙げ句,同年10月f施設を無断退出した。同年12月(14歳0月時)自転車盗等を内容とする虞犯等で送致されて少年鑑別所送致となった上児童自立支援施設送致(強制的措置許可決定付き)となり,g学院に収容され,翌平成22年3月(15歳3月時)措置変更となって児童養護施設hに入所した。しかし,同年5月頃から同年6月までの間,施設職員らの生活態度等に関する指導,注意に反発して,同職員らに対し,その首を手で絞め,その腹部等を足蹴にし,その身体を突き飛ばすなどの暴行を加え,子宮を攻撃するなどといった内容でその身体に危害を加える旨を告げ,同職員の配偶者の身体に危害を加える旨を告げるなどの脅迫を行い,あるいは浴室に閉じ込めるなどし,同年6月26日,自己の意に反して同施設から自転車を貸与されなかったことに激高し,施設職員に対し,その首を絞めるなどの暴行を加えた。これらの事実を内容とする虞犯で送致されて少年鑑別所送致となった上,同年7月(15歳7月時)初等少年院送致となり,i学院に収容された。
本年7月(17歳7月時)仮退院となり,自立援助ホームe施設に入所した(保護観察は保護観察官が直接担当することとなり,本人に対し保護観察所長により生活行動指針として「e施設の規則を守ること」,粗暴な言動をしないこと」等が定められた。)。当初何度か転職したものの,同年9月から中華料理店店員として継続して働いていたところ,同年10月,同年8月に働いた解体工事の給料が入りスマートフォンを買ってから生活が乱れ始め(本件遵守事項違反事実にある同年11月16日の口論の相手女性とは,寮生同士の異性交際を禁止するe施設の規則を破って肉体関係を持っていたものである。),本件遵守事項違反事実に至った。同事実は,結局は,自らのしたことに思いを致すことなく,専ら施設職員のせいで不当にも退寮させられたものと被害的に考え,その不平不満から敢行されたものであり,また,再入寮を迫ってホーム長に暴行を加えるなどしたものである。
(3) このように,本件遵守事項違反事実についてみると,本人の更生を期すべく担当保護観察官や施設職員による処遇が実施されていたところ,本人は,規則を破った自らを振り返ることもなく,不当な扱いを受けているものと被害感や不平不満ばかりを募らせ,粗暴な言動に及んでおり,そこに至る経緯や内容は前件虞犯事件と極めて類似しているのであって,残念ながら,前回の矯正教育によっても,このような本人の問題性はおよそ改善されていないものといわざるを得ない。本人の性向について,甘えが通りそうだと感じる場面では横暴に振る舞ってでも自己の欲求を押し通そうとし,それがかなわないとなると逆上して歯止めなく怒りをぶちまける傾向があり,また,周囲の援助を当然視し,問題を起こしても自己の非には目を向けられず,自分を受け入れてくれない相手が悪いとの不満にすり替える傾向が根強いと指摘されており,本件遵守事項違反事実は,正に本人のこのような性向が表現されたものというほかはない(なお,母親は乳児期に事故死し,父親は脳梗塞でリハビリ病院入院中で,本人を引き取り指導監督する親族等はいない。)。
3 以上のとおり,本件遵守事項違反事実の悪質性,その背景にある本人の問題性の根深さに照らすと,本人を少年院に戻して収容し,更に強力な矯正教育によってその問題性の改善を図ることが必要かつ相当である(本人の問題性の根深さに鑑み,教育期間としてある程度長期間が必要と考えられ,比較的長期<1年6か月程度>の処遇勧告を付することとする。なお,本人の保護環境に鑑み,別途社会復帰後の帰住先の確保に係る環境調整命令を発する。)。
(更生保護法72条1項,5項適用)
(裁判官 山口裕之)
処遇勧告書<省略>
〔参考1〕 環境調整命令書
平成24年12月28日
東京保護観察所長殿
東京家庭裁判所
裁判官 山口裕之
少年の環境調整に関する措置について
氏名 A
年齢 18歳(平成6年○月○日生)
職業 中華料理店店員
本籍 <省略>
住所 <省略>
当裁判所は,平成24年12月26日,上記少年に対して,中等少年院に戻して収容する旨の決定をした。実父は,前件時同様,脳梗塞の後遺症と腎不全のために入院加療中の状態で監護能力はなく,現在29歳になる異父兄も全く連絡を取ることができない状態であり,少年が仮退院した後に受け入れることができる親族等の社会的資源はない。したがって,前件時同様,少年の帰住先については,少年の自立及び更生のため適切な施設を確保する必要がある。また,少年は,前件でi学院に入院している際,帰住先が決まらずに仮退院ができないという不遇感から次第に投げやりになり,他の少年を巻き込んで規律違反に及ぶなどしているが,今回も帰住先の調整が容易でないと推測されることから,早期から少年の帰住先について環境調整を行う必要があると考えるので,少年法24条2項,少年審判規則39条により,下記の措置を執られるよう要請する。なお,詳細については,別添の決定書謄本,少年調査票の写し,鑑別結果通知書の写しを参照されたい。
記
少年院仮退院後の適切な帰住先等を確保すること