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東京家庭裁判所 平成26年(家)10127号 審判 2015年6月17日

申立人

A

相手方

B

主文

1  相手方は,申立人に対し,114万0324円を支払え。

2  相手方は,申立人に対し,平成27年×月から離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月末日限り15万円を支払え。

3  手続費用は,各自の負担とする。

理由

第1  事案の概要等

本件は,別居中の夫婦間において,妻である申立人が,夫である相手方に対し,婚姻費用分担金の支払を求める事案である。

第2  当裁判所の判断

1  認定事実

一件記録によれば,以下の事実が認められる。

(1)申立人(昭和47年×月×日生)と相手方(昭和37年×月×日生)は,平成8年×月×日婚姻し,平成9年×月×日に長女C(以下「長女」という。)を,平成13年×月×日に長男D(以下「長男」といい,長女と併せて「子ら」という。)

をもうけた。(全部事項証明)

(2)ア  相手方は,平成24年×月×日まで,○○所在の自宅(以下,単に「自宅」という。)で,申立人及び子らと同居していたが,同日,自宅を出て賃貸アパートで生活するようになり,以後,申立人と別居した。(乙3)

イ  申立人及び子らは,平成26年×月×日まで自宅に居住し,同日,表記申立人住所地所在の申立人の実家(以下「申立人実家」という。)に転居した。(乙3,申立人平成27年×月×日付け申立人第2主張書面)

(3)相手方は,平成26年に勤務先から給与・賞与として763万6644円の収入を得た。(乙4)

(4)ア  申立人は,平成26年に2か所の勤務先から給料賞与として合計199万6113円(163万0466円+36万5647円)の収入を得た。なお,平成26年×月分の総支給額は16万1182円であった。(甲9,10)

イ  申立人は,平成26年×月,准看護学校の入学試験に合格した。これに伴い,申立人は,平成27年×月から看護助手として稼働することとなったところ,その時給は911円である。なお,雇用契約書によれば,週5日のシフト勤務であり,就業時間は木曜日を除く平日が午前7時から午前12時まで(休憩時間なし,5時間)又は午前8時30分から午前12時(休憩時間なし,3時間30分)まで,土日祝日が午前7時から午後3時45分まで又は午前8時30分から午後5時15分まで若しくは午前11時から午後7時45分まで(いずれも休憩時間45分を除き8時間)とされ,また,賞与の支給はないとされている。(甲11ないし13)

(5)申立人は,平成25年×月×日,相手方と離婚することなどを求めて,東京家庭裁判所に調停を申し立て(東京家庭裁判所平成25年(家イ)第××号夫婦関係調整調停事件。),さらに,平成26年×月×日,相手方に対し婚姻費用分担金の支払を求めて,同裁判所に調停を申し立てた(東京家庭裁判所平成26年(家イ)第××号婚姻費用分担調停事件。以下「本件調停」という。)が,いずれも同年×月×日調停不成立となり,本件調停は本件審判へ移行した。

(6)ア  相手方は,同年×月×日に自宅を売却するまで,自宅に係る住宅ローンを負担してきた。

その額は,同年×月以降月額6万7439円であり,×月は34万6341円であった。(株式会社○○作成「ローン返済予定照会ご返済計画表(シミュレーション)」)

イ  相手方は,申立人に対し,婚姻費用分担金の趣旨で,次のとおり,合計49万9676円を支払った。(当事者間に争いがない)

平成26年×月×日 20万円×日20万円×月×日9万9676円

2  検討

(1)夫婦は,互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条),別居した場合でも,自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。そして,本件の経緯等に照らすと,本審判において形成するべき婚姻費用分担金は,申立人が本件調停事件を申し立てた平成26年×月分からと認めるのが相当である。

(2)ア  相手方が分担すべき婚姻費用の額を算定するに当たっては,申立人と相手方との総収入を基礎に,公租公課を税法等で理論的に算出される標準的な割合により算出し,職業費及び特別経費を統計資料に基づいて推計される標準的な割合により算出してそれぞれ控除して基礎収入の額を定め,その上で,申立人と相手方が同居しているものと仮定すれば,権利者である申立人のために充てられたはずの生活費の額を,生活保護基準等から導き出される標準的な生活費指数によって算出し,これから申立人の基礎収入を控除して算出するのが相当である(「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁以下参照。)。このような考え方に基づいて標準算定表が公表され,実務において広く利用されているところ,本件においても,婚姻費用の分担額の算定に当たっては標準算定表を使用するのが合理的であり,かつ,当事者の意向にも沿う。

イ  そこで検討すると,まず,相手方は,平成26年に勤務先から給与・賞与として763万6644円の収入を得ているところ,平成27年にその額が大きく変動する蓋然性があるとは認められない。したがって,相手方の総収入は763万6644円とするのが相当である。

ウ(ア)他方,申立人は,平成26年に2か所の勤務先から給料賞与として合計199万6113円の収入を得ているところ,平成26年×月分の総支給額が16万1182円であったことに照らし,平成27年×月分及び同年×月分の各総支給額も同程度,年額に引き直すと193万円程度と認められ,平成26年の年収と大差がないことになる。

よって,平成26年×月から平成27年×月までの期間の婚姻費用分担金を算定するに当たっては,申立人の総収入を200万円と捉えることとする。

また,申立人は,平成27年×月からは時給911円の看護助手としての収入があるのみであると認められるところ,週5日のシフト勤務とされていることから,平日4日及び土日のうち1日勤務するものと捉えると,概ね,1か月の就業時間は100時間と推定される(平日については5時間と3時間30分の2種類の就業時間があるので,これを平均すると1日当たり4時間15分となり,4日間で17時間となる。これに土日の就業時間8時間を加えた25時間を1週間当たりの就業時間と捉え,1か月を4週間とみて,1か月当たりの就業時間を100時間と推定した。)。そうすると,申立人の平成27年×月以降の収入は月額9万1100円と推計され,これを年額に引き直すと109万3200円となる。よって,平成27年×月以降の婚姻費用分担金を算定するに当たっては,申立人の総収入を110万円と捉えることとする。

(イ)申立人の収入の認定に関し,相手方は,①申立人が○○区から児童育成手当及び児童扶養手当を受給していること,②技能訓練促進費の受給資格を有していることを考慮すべきである旨を主張する。しかし,前者(①)は生活保持義務に基づく婚姻費用分担金とは異なる観点からの公的支給であるから,婚姻費用分担金を算定するに当たり児童育成手当及び児童扶養手当を申立人の収入と捉えることは相当とはいえない。また,後者(②)については,申立人は技能訓練促進費を受給することを希望しているものの,現実には未だ受給しておらず,受給額も確定できないから,現時点において,申立人が技能訓練促進費の受給資格を有していることを考慮してその収入を認定するのは相当であるとはいえない。したがって,上記①及び②の相手方の主張は採用できない。

また,相手方は,申立人が准看護学校に入学したのは敢えて収入を減らすことで婚姻費用分担金を高く算定させようとする不当な意図に基づく旨を主張するけれども,申立人の費用等報告書(甲14)その他一件記録を精査しても,申立人が上記のような不当な意図をもって准看護学校に入学したとは認められない。相手方の主張は失当である。

さらに,相手方は,准看護学校を卒業した後の申立人の収入は大幅に増加するはずであるから,准看護学校に通学している間の低い収入を基に,それが恒久的に続くことを前提として婚姻費用を算定するのは不当であるとも主張するが,申立人の収入が増加した場合に改めて減額の調停又は審判を申し立てることは可能なのであるから,やはり当を得ない主張といわざるを得ない。

エ  申立人が2人の子(15歳以上の子1人(長女),14歳以下の子1人(長男))を養育している事実を踏まえて,上記イ及びウで認定した申立人及び相手方の各総収入を標準算定表のうち表14に当てはめて,相手方が分担するべき婚姻費用の額を算定すると,同表のグラフ上,平成26年×月から平成27年×月までが14~16万円の最下部,平成27年×月以降が14~16万円の上部に該当する。

オ  ところで,標準算定表は,別居中の権利者世帯と義務者世帯が,統計的数値に照らして標準的な住居費をそれぞれ負担していることを前提として標準的な婚姻費用分担金の額を算定するという考え方に基づいている。しかるところ,義務者である相手方は,上記認定のとおり,平成26年×月まで,権利者である申立人が居住する自宅に係る住宅ローンを全額負担しており,相手方が権利者世帯の住居費をも二重に負担していた。したがって,当事者の公平を図るためには,平成26年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては,上記の算定額から,権利者である申立人の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するのが相当である。

そこで,平成26年×月までに対応する申立人の総収入200万円を12で割ると,16万6666円(1円未満切捨)となり,これは,上記東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁以下における294頁の資料2(年間収入階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出)の項目199万9999円以下の列における実収入16万4165円に近似するところ,この列における住居関係費(住居の額に土地家屋に関する借金返済の額を加えたもの)は2万7940円である。したがって,平成26年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては,標準算定表により算定される婚姻費用分担金の標準額から2万7940円を控除するのが相当である。

なお,申立人は,平成26年×月×日に自宅から申立人実家に転居し,以後,同所で生活しているところ,申立人は申立人実家で暮らすに当たり月額7万円を申立人の両親に支払っているとうかがわれること(申立人平成27年×月×日付申立人第2主張書面,相手方平成27年×月×日付第5主張書面参照)からすれば,申立人が住居関係費を負担していないとまではいえず,平成26年×月×日以降は相手方の住宅ローンの負担が生じていないことも考慮すれば,同年×月以降の婚姻費用分担金の標準額から住居関係費を控除することが相当であるとはいえない。

カ  以上のほか,申立人は,申立人実家に転居するに当たっての引越費用や申立人実家の家屋修繕費についても,婚姻費用として,相手方に支払を求めているけれども,申立人自身,これらは「財産分与として相当額を支払うということを踏まえてです」と述べているのであって(甲14),財産分与の枠組みで清算されるべき費目であるというべきであるから,これら費目については本件においては考慮の対象としないこととする。また,申立人は,飼い犬(2匹)の飼育費用も婚姻費用として考慮されるべきであると主張するが,飼育に要する具体的な額も明らかにされておらず,婚姻費用分担金の算定に当たり考慮することはできない。

(3)ア以上の検討結果を踏まえ,本件に現れた一切の事情を考慮して整理すると,相手方が分担するべき婚姻費用の月額は,平成26年×月から同年×月までは11万円,同年×月から平成27年×月までは14万円,同年×月以降は15万円と定めるのが相当である。

イ そして,相手方が,申立人に対し,婚姻費用分担金の趣旨で合計49万9676円を支払っていることを踏まえて整理すると,次のとおりとなる。

(ア)平成26年×月から平成27年×月までの○か月間の未払の婚姻費用分担金は,114万0324円と算定される(11万円×○か月+14万円×○か月+15万円×○か月-49万9676円)。したがって,相手方は,申立人に対し,114万0324円を直ちに支払うべきこととなる。

(イ)平成27年×月から離婚又は別居状態の解消に至るまでの婚姻費用分担金は,月額15万円である。

3  結論

よって,主文のとおり審判する。

(裁判官 佐々木公)

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