東京家庭裁判所 平成5年(少)51925号 決定 1993年8月31日
少年 K・K子(昭和53.5.27生)
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
1 A子及びB子と共謀の上、金員を喝取しようと企て、平成5年1月16日午後2時45分ころ、川崎市川崎区○○町×番地○○2階女子トイレ内において、C子(当時15歳)に対し、「ガンをとばした。」と因縁をつけ、「謝って済むものでない。金を持っているか。」などと語気荒く申し向けて金員を要求し、もしこの要求に応じなければ同人の身体等に更にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ、よって金員を喝取しようとしたが、同女が隙をみて逃走したため、その目的を遂げなかった
2 暴走族「甲」のメンバーであるが、同じ暴走族のメンバーであるD子、E子、F子及びI’ことI・Eと共謀の上、同暴走族のメンバーであるG子(当時14歳)が暴走族を抜けようとしたことに懲罰を与えることを企て、平成5年7月11日午前2時ころから同日午前5時ころまでの間、東京都大田区○○×丁目××番所在の区立○○公園内及びその周辺において、G子に対し、こもごも手拳で顔面を殴打し、更に腹部を殴ったり蹴るなどした上、同人の両腕及び前胸部に煙草の火を押しつけるなどし、もって、同人に約2週間の安静治療を要する頭部及び顔面挫傷、両前腕及び前胸部熱傷の傷害を負わせた
ものである。
(適用法条)
1の事実につき、刑法60条、250条、249条1項
2の事実につき、同法60条、204条
(処遇の理由)
少年は、双子の妹であるI・Eと共に、小学6年生であった平成2年ころから実姉の影響で夜遊びをするようになり、中学1年生である平成3年9月から怠学が始まった。そして、平成4年1月ころから学校に行かなくなり、服装も乱れ、カラオケボックスやゲームセンターで知り合った年長者らと夜中に遊び歩く生活を続けており、平成5年6月4日ぐ犯保護事件として当庁で保護観察処分を受けたにもかかわらず、その後も生活は何ら変わらず、同月19日ころ「甲」に加入したもので、少年の本件各非行はかような生活状況の下で惹起されたものである。
このように少年が生活を乱れさせた背景には、幼少時から酒乱の父親が家族の者に暴力を振るい、平成4年1月アルコール依存症であった母親が父親の暴力によって2か月間入院した後I・Eを連れて家を飛び出し、同年7月にI・Eが父親と少年のもとに戻ったものの、同年9月中旬ころから母親が行方不明になった(なお母親は同年2月10日に父親に無断で、長姉と少年の親権者を父親、I・Eの親権者を母親とする協議離婚届けをしている。)という不遇な家庭状況の存在が濃厚に窺えるものである。
しかも、父親は、少年らを完全に放任しており、平成5年4月に長姉が家出し、更に本件後に少年とI・Eが家出し男と同棲していることにも何ら手を打とうとせず、少年に対する保護監督能力は皆無に等しい。
また、少年とI・Eは、中学校で普通の生徒からは完全に浮き上がった存在となっており、今後生活を立て直して登校する可能性もなく、学校での適切な教育指導も全く不可能である。
そして、以上の諸事情に、自信に乏しく、疎外感を抱きがちで、主体的自律的に行動する力に欠け、また、対人面では周囲の評価を気にして気後れし、自分を受容する不良仲間への依存を深める少年の資質等を考慮すると、現時点での社会内処遇は困難であり、かつ少年の暴走族や不良年長者らとの交遊状況を考慮すると、教護院への収容も相当でないと考えられる。
したがって、少年の心身の健全な育成に資するには、少年を初等少年院に収容し、統制された場所において、少年に対して健全な社会的価値観を植え付けるため、強力な働きかけを行う必要があるものと認める。
もっとも、少年の非行性は長期の収容を要するまでには進んでいないと考えられ、かつ、現時点で長期処遇を開始すると、平成6年3月の中学卒業及び就職指導の時期を逸し、安定した就労による社会内での更生の機会を奪うおそれもあることから、上記時期に間に合うように少年を仮退院させ、就職指導について中学校と連絡を密にするよう併せて処遇勧告を行うものとする。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 西井和徒)
処遇勧告書<省略>