東京家庭裁判所 昭和25年(家)11302号 審判 1960年10月31日
申立人 田口英男
主文
本件申立を却下する。
理由
一、申立人の申立の要旨は申立人は出生後一度として「英男」と呼ばれたことはなく、「泰宏」名で通用しているから、通称名に改名許可を求めるというのである。
一、しかしながら申立人は昭和三十三年三月生れの幼児であつて、改名による対社会的関係という点については影響するところは、殆んどなかろうが、改名についての必要性はなく、且本件改名を求める動機が専ら宗教的理由によるものであつて、それは親権者の道楽にすぎないことに思を到すなれば、通称名と戸籍名の不一致による困惑は、戸籍名を使用することによつて解消できるし、又それは困難なことではない。
一、惟うに戸籍法一〇七条の改名についての「正当な事由のある場合」とは畢竟改名に伴う弊害の生じない場合、即ち第三者に対して迷惑をかけない場合を指すとの立場と更にそれに附加して改名の必要性を要求する立場が考えられる。そうして後者について、改称の必要性の極度に要求されるのが所謂改氏に際しての「やむを得ない事由」であるが、改名については、必要性の程度は低いであろうが、弊害性との比較考量において改名の許否が決せられることになる。
一、しかし戸籍法一〇七条の正当な事由と弊害のない場合とを同一意味に解する前者の見解は法規定の形式からも賛同し難いので改名について何等かの必要性を要求する後者の立場が支持されよう。従つて改名について必要性の認められない本件申立は却下すべきものとする。
(家事審判官 村崎満)