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東京家庭裁判所 昭和36年(家)5944号 審判 1961年7月18日

国籍 アメリカ合衆国 住所 東京都

申立人 モーリス・エイチ・アリス(仮名)

(国籍 アメリカ合衆国 住所 申立人に同じ)

事件本人 ミル・ブッシェル(仮名) 外一名

主文

申立人が事件本人等両名と養子縁組することを許可する。

理由

本件申立人は主文と同旨の審判を求め、その事由として次のとおり述べた。本件申立人は、右事件本人ミル・ブッシェル(一九五四年五月一〇日生)及びジーナ・エフ・ブッシェル(一九五六年八月二三日生)両名の母バレンテイン・イトウ・アリスと一九六〇年一二月二三日婚姻し、その後一九六一年一月から事件本人らと同居して、その養育に励み現在に至つたものであるが、婚姻当時より同人らに対しては実子に等しき愛情を抱き、同人らもまた申立人になつているので、同人らを養子とすることにより一層幸福な生活を送らせたいと考え、その実母の同意を得て本件申立に及んだものである。

そこで、当裁判所は、本件につき管轄権ありや否や参与員池原季雄の意見を聞き、関係法規を検討したところ、日本国法例によれば、養子縁組の実質的成立要件は、各当事者の本国法を準拠法とする旨定めているけれども、申立人及び事件本人らの本国たる米国及びカナダオンタリオ州の各国際私法によれば養子縁組について法廷地法主義が採用される結果、養子または養親の住所のある国がその管轄権を有し、縁組はそのいずれかの国(州)において行われるべきものとされている。ところで、申立人及び事件本人らの実母の各審問の結果及び本件記録添附の申立人の結婚証明書、事件本人らの実父の死亡報告書並びに事件本人らの各出生証明書の各記載によれば、養親たるべき申立人の住所が米国テキサス州チルドレッスにあり、事件本人らの実母の住所もまた婚姻によつて同所に移り、同時に実母の婚姻後申立人と生活を共にしてきた事件本人らの法定住所もまた申立人と同じくテキサス州チルドレッスにあるものといわねばならない。しかし、事件本人らは出生後今日に至るまでの間、カナダに滞在した僅か四ヵ月の期間を除き、引続き日本に居住しているものであることが明らかであるので、事件本人らの利益幸福をはかるという観点から、たとえ、日本に法定住所(domicil by operation of law)がない場合であつても、現実に同人らの生活が現在は至る迄相当永続的に日本に於て営まれている場合には、本件養子縁組の管轄権が日本国にあり、法廷地法として日本法に反致する結果、本件については日本法を適用すべきこととなる。しかし、本件申立は、申立人の配偶者の子を養子とする場合であり、日本民法第七九八条第二項には、かかる場合には裁判所の許可なくして養子縁組は有効に成立する要件を具備するものとされる。したがつて、本件の場合、許可の申立はその理由がないものということができる。けれども、申立人及び事件本人らの各本国法には、民法第七九八条第二項のような例外規定がなく、配偶者の子を養子とする場合にも裁判所において養子決定を受けなければならないとされている。そこで当裁判所は、かかる場合申立人らの養子縁組が、その本国においても有効に成立したものとして承認されるよう、その本国法の精神を尊重し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 加藤令造)

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