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東京家庭裁判所 昭和37年(家)2264号 審判 1962年5月28日

申立人 大石明雄(仮名) 外一名

未成年者 米山正男(仮名)

右法定代理人親権者 米山正之(仮名)

主文

本件申立をいずれも却下する。

理由

本件申立の要旨は、「申立人らの間には子が一人あるだけで少ないため、未成年者を養子としたいと考え、法定代理人たる親権者の承諾も得たので、これが許可をもとめる。」というのである。

本件記録に編綴の筆頭者大石明雄、米山正之の各戸籍謄本および当裁判所調査官小沢啓也の昭和三十七年三月十七日付調査報告書ならびに当裁判所の米山正之にたいする審問の結果によると、未成年者は米山正之、同良子の間の二女として昭和二十七年四月二十二日に生れたものであるが、右両親が昭和三十三年九月二十五日協議離婚し、父正之を親権者と定めその旨を屈け出たこと、未成年者は出生以来引きつづき父正之のもとで他の兄妹などと共に成育し今日にいたり現在小学校五年に在学していること、主として前示良子の実姉たる申立人大石久子の発意により、その夫たる申立人大石明雄の同意を得て未成年者を申立人らの養子にしようと考え、右縁組につき未成年者の法定代理人たる米山正之の承諾を得て本申立をしたこと、米山正之は未成年者を申立人らの養子とすることにつき当初は若干の心理的動搖があつたが、最終的には未成年者が物質的には一段と豊かな申立人らの養子となつた方が将来の進学、結婚その他において何かと好都合であろうと考え、これを承諾する決意をしたことが認められる。

民法第七九七条によれば、養子となるべき未成年者が十五歳未満であるときは、その法定代理人がこれに代わつて縁組をしうることとされており、以上認定の事実によれば、申立人らおよび未成年者の代諾者たる法定代理人との間に縁組意思の合致があるものとみることができる。

ところで、民法第七九八条は、未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならないと規定しているので、その趣旨なかんずく家庭裁判所における許可基準について考えてみるに、養子縁組が成立すると養親子間に嫡出子関係が生ずるほか、とくに未成年養子にあつては養親が親権者となるなどという未成年者にとつてきわめて重大な身分上の効果を伴なうことになるため、縁組にもとづき養親が養子を監護教育するという実質を伴い、かつその縁組によつて養子となるべき未成年者の現在および将来の福祉と利益とを積極的に増進すると認められることを要し、これらの要件を具備するときにかぎつて申立を許可しうるものと解するのが相当である。

そこで本件につきこれを考えてみるに当裁判所調査官小沢啓也の昭和三十七年三月十七日付、同年四月二十一日付の各調査報告書および当裁判所の米山正之にたいする審問の結果を総合すると、申立人らのうちとくに申立人大石久子において未成年者を養子とすることを熱望しているが、申立人らおよび未成年者の親権者米山正之においても今ただちに未成年者を申立人らに引き渡しそこで監護養育しようとまでは考えておらず、縁組が許可となり相当期間を経過し未成年者自身において申立人らと同居するよう希望するまで引きつづき米山正之方で他の兄妹らとともに養育をつづけようと考えていること、現在申立人らの家には同年輩の子弟はなく成年者のみ居住しているため、未成年者が成育する環境としては必ずしも適当とは考えられないこと、これにたいして未成年者の現住同居者中には父正之のほか後妻の民子および兄澄男(十四歳)、妹真子(五歳)ならびに正之と民子の間のはる子(一歳)がおり、民子との間柄も円満であり、また生活程度も申立人らの家に比較すれば若干劣るとはいえ、父正之は大学教官の職にあり生活状態が悪いとはいえないことなどの事実が認められる。

以上認定の事実からすると、申立人らが養親になつたとしても、ただちに未成年者を監護養育する実質を伴なうものではなく、また未成年者自身の将来における福祉および利益については格別、現在における福祉を積極的に増進するものとは、とうてい認めることはできない。

してみると、今後相当の期間を経過し、未成年者の自覚が増し、申立人らおよび親権者の家庭状況などに変化を生じ、未成年者を申立人らの養子とするのが相当と認められるような事態となつた場合はひとまず措き、現在の段階においては未成年有を申立人らの養子とするのは時期尚早と認めるほかはない。

よつて、本件申立はいずれも理由がないことに帰するので、これを却下することにし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡垣学)

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