東京家庭裁判所 昭和40年(少)3002号 決定 1965年6月18日
少年 M・G(昭二四・一一・八生)
主文
少年を東京保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実)
少年は、当時中学三年の同級生であつたAと共謀のうえテレビの犯罪番組を模倣した押し入り強盗の実行を企て、昭和四〇年二月○○日午後四時一〇分頃、東京都足立区○○町○○番地所在の日本住宅公団○○○第○団地○号館○○○号室居住の会社員○池○雄方に至り、幼児一名と共に在宅していた同人妻○○子(二七歳)が呼鈴に応じて玄関のドアを開いたのに乗じて室内に入り、同女に対して「静かにしろ、金を出せ」等と申し向けながら、風呂敷で猿ぐつわをはめ、更に所持していつた細ひもで両手足を縛して同女の抵抗を抑圧したうえ、その所有の現金約二、〇〇〇円を強取したものである。
(適条)
刑法第二三六条一項、第六〇条
(主たる問題点)
1、本件は、その行為の態様において全く典型的な押し入り強盗事件であり、且つその結果からみても当の被害者はもとより当該団地を含めた地域社会に与えた影響も大きく、又「中学生」及び「団地という密室的要素のあるところでの事件」という二面からも一般社会に与えた影響も大きい。それだけに、少年達は充分その責任を自覚し反省しなければならない。
2、本件の動機は、通常の常識では不可解な面が多いが、検査及び調査の結果によれば、少年達は本件の一週間位前より、かねてからのテレビの犯罪番組の影響を受けこれを模倣して押し入り強盗の完全犯罪を行おうというとんでもない着想にとりつかれるようになり、本件の二日前に高校合格が発表せられてからは共犯のAが主導者になつて両名で犯罪の計画書を作成していた(それによると、強盗のみならず、更にそれにより得た金員でいわゆる七ツ道具を購入して空巣の完全犯罪を行おうとしていた)ところ、本件当日学校でAが人を介して番長格の者より一、五〇〇円の金員を調達するよう命ぜられ、ここに両名ともかねての計画を実行することに踏み切つて本件が遂行せられたと認められるのであつて、しかも両名とも下記のとおり精神障害は認められないのであるから、本件をとおしても、本件少年達に特有の問題を除けば最近の世間の風潮、テレビの影響、青少年期の心理、卒業期の生徒の心理等考えさせられるものが甚だ多い。
3、少年には保護処分歴はない、しかし問題はすでにあつたようである。即ち中学一年以来、怠学で補導を受けたり約三回程特段の理由がないのに家出をしたり、又一度空巣で調べられ審判不開始の措置を受けている。
4、知能は普通域にある、又性格にも異常性という程のものはない。只、共犯のAが著しく独善的勝気であるのに対し、本少年はいささか非自主的で雷同性が強い。この性格の弱さが、過去に乱れた生活を誘い、又今回の事件に追従した一つの大きな原因であると認められる。又この弱さが少年をして表面的なもの・楽なものを追わしめ、その結果道徳的感覚を鈍くさせていると考えられる。
5、父母健在、しかも父は相当な会社の課長であり且つその人柄・考え方とも一応常識以上の線にある人である。しかし父母とも矢張り弱い性格と見受けられ、それが結果的には少年を甘やかし今一本筋のとおらぬものにさせてきたと認められ、この指導上の欠陥(甘さ)が今後の本少年保護上の一つの重要な問題点であろう。
6、当裁判所は、少年を、三ヵ月余青梅市の洗心園こと大原二三方に補導委託して試験観察を試みた。その間の少年の成績は必ずしも良好ではなく、依然としてフワフワした雷同性・人間の甘さもみられるが、しかし又忍耐・努力というような根本的な問題に対するよき反応を示している面もあり、又保護者も被害者への詫・転居・学校関係・心構え等種々の点で努力を示した。
7、そこで同観察を打ち切り、少年を保護観察処分に付すことにより、事件に対する反省を更に深めさせると共に、今後適切な指導監督のもとに少年及び保護者がその心構えの弱点を克服していくことを期待したいと考える。(なお共犯のAは、同じく(但し別の施設に)補導委託していたが、同少年については本人及び保護者ともなお問題が多いので、本日更に在宅試験観察に切り替えて今暫く様子をみることにした)。
以上のような次第であるから、少年法第二四条一項一号、少年審判規則第三七条一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 小谷卓男)