大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和41年(家イ)4239号 審判 1967年2月18日

申立人 山本京子(仮名)

相手方 トーマス・ビー・レイールズ(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

理由

一、申立人は、主文と同旨の調停を求め、その理由として述べるところの要旨は、

1  申立人は、昭和三七年(一九六二年)一月頃当事沖繩県国頭郡本部町○○○所在の○○○・コーポレイションに勤務していた相手方と知り合い、約六箇月間交際したのち、同年夏頃から事実上の夫婦として相手方と同棲生活に入り、昭和三八年(一九六三年)三月一〇日正式に那覇市アメリカ合衆国領事館に相手方とともに婚姻登録をなし、かつ、同日那覇市長に対し相手方との婚姻届出を了した。

2  ところが、間もなく、相手方は前記勤務先を退職し、日本東京に赴き、大学に入学のうえ、日本語を勉強したいといい出し昭和三八年(一九六三年)五月頃申立人もともに来日したのであるが、既に大学は入学時期を過ぎていたので、相手方は申立人とともに東京都中野区に居住したうえ、予定を変更し、在京中の米国人の知人某と共同で翻訳事務所を経営することになつた。

3  相手方は、右事務所の経営で忙しいと称し、昼夜ほとんど家を明ける状態が続き、沖繩から上京して、何の身寄りもなく、話相手もなく、いたたまれない状態になつた申立人の身上を理解することができず申立人が相手方に対し何回か愚痴をいつたり、相手方の女性関係を疑うような言動に対しても、一向に取り合わず突き放す態度をとるか、またはいきなり、殴打するような態度をとるかのいずれかで、次第に申立人と相手方との関係は悪化した。

4  かくの如き相手方の精神的虐待により、申立人はノイローゼ気味となり、しばらく沖繩の実家で静養するため、昭和三八年(一九六三年)一一月頃帰沖し相手方と別居したのであるが、これ以上申立人は相手方と婚姻関係を続けても円満な夫婦生活が期待できないので相手方と離婚するため本件申立に及んだ。

というのである。

二、申立人の戸籍謄本、婚姻届受理証明書、当裁判所の嘱託による沖繩国頭巡回裁判所の申立人に対する審問調書並びに申立人代理人平石隆および相手方に対する審問の結果を綜合すると、一の1ないし4の事実をすべて認めることができ、また相手方は申立人と別居後、昭和三八年(一九六三年)一二月頃、申立人に対し、自己の許に戻つて同居するように促したのであるが、申立人はこれに応じなかつたこと、申立人代理人平石隆は相手方の経営する翻訳事務所に勤務する日本人であるが、昭和四一年八月頃所用で沖繩に赴いた際、相手方の依頼で、申立人の意見を確かめたところ申立人は相手方とは離婚するほかないと言明し、東京家庭裁判所に調停申立をするにつき、遠隔地で出頭できないので、自己の代理人となつてもらいたいとの依頼を受け、同人はこれを承知したこと、また、同人はその際相手方より委託された、金五〇〇ドルを申立人に手交し、申立人は離姻給付の積りでこれを受領していることを認めることができる。

三、そこでまず本件離婚についての裁判権並びに管轄権について考察するに、当事者の一方である申立人が日本国籍を有し、かつ、相手方は米国人であるが、日本東京都内に住所を有しているので、本件離婚について日本の裁判所は裁判権を有し、相手方の住所地を管轄する当家庭裁判所が管轄権を有することは明らかである。

四、次に、本件離婚についての準拠法について考察するに、法例第一六条によると、離婚については離婚原因たる事実の発生当時における夫の本国法によるべきものとされており、夫たる本件相手方の本国はアメリカ合衆国であるが、同国は各州によりそれぞれ法律を異にするいわゆる不統一法国であるので、相手方がインデイアナ州出身者であると認められる本件においては、インデイアナ州法が本国法として適用されることになる。ところが離婚に関するアメリカ合衆国国際私法については、判例上、一般に当事者の双方または一方の住所の存する州(または国)が離婚の管轄権を有し、その際の準拠法は当該州(または国)の法律、すなわち法廷地法であることが認められており、この点は、インデイアナ州においても同様であると解されるので、当事者の一方である相手方が日本に住所を有することが明らかである本件離婚については、結局法例第二九条により、準拠法としては、もつぱら日本法が適用されるものといわなければならない。

五、前記認定事実によると、申立人は相手方による精神的虐待行為により、別居して実家に戻つたのであるが、その後相手方とはとうてい円満な夫婦生活を営むことはできないと考え、相手方よりの同居の要求をも拒否し、離婚を求めており、相手方も自己の精神的虐待により申立人が離婚を求め、自己との同居を拒否する以上離婚するほかないとの意向を有しており、昭和四二年二月三日における当裁判所調停委員会において双方の離婚の意思は確認されたのであるが、申立人本人は調停に出頭せず、かつ、今後も出頭できる見込がなく、しかも離婚の合意は代理に親しまないものと解されるので、結局当裁判所の調停委員会の調停においては、離婚の合意は成立しなかつたのである。

六、当裁判所は二、および五、において認定した事実、とくに申立人が配偶者たる相手方によつて精神的に虐待され将来相手方と円満な夫婦生活を営むことの希望を失つたことは、民法第七七〇条第二項第五号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するものと認められること、(これはまた、インデイアナ州民法第三章第一、二〇一条第四号所定の離婚原因「一方の他方に対する虐待または冷酷な取扱」にも該当するものと認められる。)その他諸般の事情を考慮し、本件については家事審判法第二四条の調停に代わる審判によつて、申立人と相手方とを離婚させることが相当であると認め、(離婚給付については、既に相手方より申立人に手交された額で妥当であると認められるので、別に決定しない)、調停委員宮木広大、同山田多嘉子の意見をきいたうえ、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例