東京家庭裁判所 昭和44年(少)6828号
主文
この事件につき本人を保護処分に付さない。
理由
本件審判に付すべき事由と、本件が係属するに至るまでの経過は別紙添付昭和四四年六月二一日付調査官意見書のとおりである。
担当調査官美代文明は、上記意見書記載のとおり、在宅試験観察相当の意見である。
附添人弁護士石川恵美子は、昭和四四年七月一九日付意見書記載のとおり、不処分(少年法第二三条第二項)決定を求め、その意見の要旨として、「調査官の在宅試験観察という意見については、本人はすでに成人であるし、今となつて本人を在宅試験観察に付し、それから最終的処分を決定するというのは、余りにも本人の人権を無視し本人を生殺しの状態におく処遇ではないかと考えるので、直ちに終局審判を下されることを願う。また、保護観察については、すでに成人に達し、虞犯性の有無について非常に微妙な本件事案の場合、保護観察に付す位ならば、すつきりと不処分にして、成人としての自覚に立つて、自己の徳性を高めるよう本人に全面的に責任をもたせた方が良い。 更に、本人に対し昭和四三年三月一日下された保護観察もすみやかに取消されるべきである。けだし、虞犯事件として通告され特別少年院送致決定までされ、抗告審で該決定を取消され、差戻後の本件で不処分決定を受けるとしても、古い従来の保護観察を続行されたのでは、本人に対し、身のひきしまる新たな決意を期待すること自体無理だと思料されるからである」と述べている。
当裁判所は審理の結果に徴し、上記附添人の意見が、法の精神に合致するものと認め、本件については少年法第二三条第二項を適用し、主文のとおり決定し、なお、昭和四三年三月一日下された決定にもとづく保護観察についても、附添人の意見を尊重し、すみやかに解除すべきことを、本決定を東京保護観察所長に送達して、勧告することとする。
(裁判官 市村光一)
昭和四四年六月二一日
昭和四四年少第六三二八号
東京家庭裁判所家庭裁判所調査官 美代文明
東京家庭裁判所裁判官 市村光一殿
意見書
少年 G・T
昭和二三年七月四日生
住所 東京都北多摩郡清○町竹○一の○○
上記少年に対する保護事件は調査の結果下記理由により在宅試験観察を相当と思料する。
理由
一、本件の内容について
少年は、昭和四三年三月一日当家庭裁判所において、窃盗保護事件で(枕探しー売春の相手客よりスイス製腕時計一個一二〇万円相当を窃取)、審判を受け、東京保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受けたものであるが、その二日後の三月三日に家出をして三月一九日に売春容疑で検挙されて観護措置に付されたが、父親の病状がよくないとの申し出により三月二二日に観護措置が取消されたところ、三月二五日ころから家出外泊行為をなし、その後成人に達してから八月二二日に売春容疑で再び逮捕され、八月二四日起訴猶予となり更生保護会「両全会」に委託されたが、同所を一週間位で飛出し、更に本年二月九日に売春容疑で逮捕されて、二月一五日に罰金五、〇〇〇円の略式命令を受けるに至つたものである。その間暴力団○○組員の通称木○某二四歳位と同棲生活をなし、家庭にほとんど寄りつかず、担当保護観察官の出頭指示を無視し、担当観察官、担当保護司との接触もほとんどなく、保護観察中の経過成績極めて不良で、保護観察の実施困難なるため、昭和四四年二月一九日に東京保護観察所長より犯罪者予防更生法第四二条により、虞犯通告されるに至つたものである。
同虞犯通告事件で三月七日に当家庭裁判所で審判を受け、その結果特別少年院送致の決定を受け、榛名女子学園に収容されるに至つたが、保護者は同処分を不服として代理人として弁護士下光軍二、同石川恵美子の両氏を立て、両人から三月二二日に抗告の申立てがなされ、東京高等裁判所で審理の結果五月三一日に同裁判所において、「原決定を取り消す。本件を東京家庭裁判所に差し戻す」旨の決定がなされ、六月一日に榛名女子学園より身柄送致されるに至つたものである。
本件差し戻しの主旨は、少年を保護観察の効果が全く認められないような事態、虞犯性に追いやつた原因は、少年の認識の甘さ、性格、知能が余りよくないこと等、少年自身の内部要因と、家庭内で母親としつくりいかず、家出し、不良環境に入つて、やくざ木○某と同棲したりしていた外部要因が考えられる。内部要因である少年本人の自覚、反省は保護観察官に対する陳述と審判廷における陳述との間に変化があり、ある程度信用できるものがあり、更生の意欲もあるものと認められる。外部要因については、木○との関係は抗告申立書(四)の一のロに指摘のとおり(木○と縁を切るため、本年二月一五日母親と一緒に木○と同棲していたアパートに赴き自分の荷物を引取りに行つた前後の経緯)手を切る決意をしたことを裏付ける事実が認められる。母親との関係は、原処分を契機に少年と母親との間の心理的な溝も完全に埋まり、少年が家に戻り、今後家業の手伝或は洋裁をして行こうとする生活環境と本人達の決意ができているものと認めて差しつかえないとの事由により、更に少年の年齢が満二〇歳八か月であつたこと等の諸事情を考慮して、同決定に及んだものと理解される。
二、本件受理後の経過
六月一日榛名女子学園より身柄送致され、同日観護措置決定がなされ、東京少年鑑別所に送致された。
当職は六月四日と六月六日の二回に亘り、東京少年鑑別所で少年と面接したが、少年はその際、特別少年院送致決定については、今までの自分の行動から考えてやむを得ないと思つた。決まつた以上、一生懸命やつて洋裁の免状をもらつて帰ろうと思つた。少年院に入つてよかつたと思う、若し少年院に入らなかつたら木○と別れることができず前同様の生活を続けていたかも知れないと述べ、更に、今では木○に対する未練もないし、家に帰つたら病気の父親の看病をし、落着いたら美容の勉強をして、将来免状を取りたい。保護司の指導に従つてまともな生活をすると述べた。
六月一〇日母親を呼び出し、当庁において面接したところ、少年院というところは大変なところだと思つていた。本人が悪いとはいつても、あまりにも可哀想だと思い抗告した。少年院に行つてみて、はじめて自分の予想と反していることを知つた。本人から洋裁の免状をもらつて、少年院から帰るという手紙をもらつた時は、嬉しくて何度もその手紙を読みかえした。これでよかつたと思つていたところ、榛名から帰されることになつたと知り、どうしたらよいか迷つている旨述べた。
同日観護措置取消がなされ、保護者に身柄が引渡された。
六月一八日家庭訪問したところ、少年と母親が在宅両人と面接中、偶々父親も病院から外出して来て三人と面接が出来た。
以後ずうつと家に落着いている。言葉使いもよくなり前とは大分違う、朝も早く起きるようになつたと両親は喜んでいた。
当職が三人に対し、明日(一九日)清○の公民館に担当観察官(池川)がみえるから午前中に同所に赴いて担当観察官と会うよう指示したところ、三人とも了解した。
六月二一日観察官との電話連絡により一九日に少年、保護者共に約束を破り、公民館に赴いていないことを知り、母親に電話で質したところ、本人が太つてしまつた為、体に合う洋服がなかつたからだと答えた。
三、処遇について
少年は、上述の諸点より考察し、一応表面的には、今までの自己の行動を反省し、木○との関係も絶つて、真面目に生活して行こうという意欲も認められる。
然し、反面少年院内において、三月二四日に院生の長○少年の書信を利用して、中野区上○田五の○○福○荘三号室に居住する鷹○孟(たか○たけし)なる者に、自分が榛名女子学園に入つていることを連絡しようとした事実があり、調査の結果鷹○孟とは木○のことであることが判明した。
少年の家出、暴力団員との同棲生活、売春行為等は、かなり長期間に亘つているもので、今後の不安や危険性も相当に感ぜられる。
家庭環境も、父親の病状は快方に向いつつあるというものの、今のところ退院のメドもつかず、借財をかかえて家屋等を売りに出しているところであり、安定を欠いている。
母親の態度も上述の通り、自ら原決定を不服として抗告を申立てながら、いざ少年院から帰されることになるや、不安がつて、出来ればもう少し少年院で教育して欲しいと述べる等一貫性がなく、少年に対しても干渉過多で(現在のところ自重しているが)保護指導の能力を欠いている。
本件ケースは来年二月まで続く保護観察の実効をはかり早急に保護観察の軌道に乗せることが、緊要と認められるが上述の通り、六月一九日に担当観察官と面接するよう当職に指示され、了解しながら、両親、少年共に簡単にその約束を破り、平気でいるもので、無責任で誠意が乏しい。
以上により本件は、もうしばらく今後の経過を観察し、その間に担当保護観察官と協力して保護観察の軌道に乗せるよう指導することが必要と認められます。
仍つて、上掲措置を相当と恩料致します。