東京家庭裁判所 昭和45年(家)10832号 審判
〔主文〕申立人の本件申立を却下する。
〔理由〕申立人は「申立人の氏三井を父の氏中沢に変更することを許可する」との審判を求め、その申立の実情として次のとおり述べた。
申立人は、昭和三九年一二月三一日父中沢友一と母三井昭子との間に出生した婚外子であり、昭和四〇年二月五日父友一により認知されたものであるが、申立人は現在父と同居しており学齢にも達し就学せねばならないことになるので、民法七九一条に従い父の氏を称したく、本申立に及ぶものである。
<証拠略>によると、申立人は中沢友一と三井昭子との間に昭和三九年一二月三一日出生した非嫡出子であるが、中沢友一において昭和四〇年二月五日認知したこと、そして現在は母三井昭子の親権のもとに父中沢友一と同居する親子三人共同の生活であること、ところが中沢友一には昭和二五年六月二〇日婚姻した妻扶美子とその間の長女友子(昭和二六年二月二一日生)長男一夫(昭和三〇年四月三日生)があり、同人等とは昭和三六年一二月以来別居状態にあること、その別居理由も主として中沢友一の女性関係に原因があり、右三井昭子はその当時からの情交関係の相手であること、しかして右妻扶美子、長女、長男はこぞつて本件子の氏変更およびこれによる父中沢友一戸籍への入籍に強く反対していること、その強い反対の背景には中沢友一の妻子に対する長年にわたる夫としてまた父親としての責任回避に対する憎悪に近い激しい対立関係があること、中沢友一は右別居後妻子に対し全然生活費支給をしていなかつたところ、妻扶美子からする婚姻費用分担申立により昭和四二年一二月二六日月金三万円の生活費を支給する旨の調停が成立し、そのとき以来妻子に生活費を送金支給するようになつたが、これも遅滞勝ちで再度にわたる履行勧告がなされたこと、中沢友一は右妻子との激しい対立関係を自分の方から積極的に緩和する意思を有しないこと、他方申立人は小学校入学年齢に達ししかも父中沢友一と同居する生活の上から、父と同氏の「中沢」を称する必要性が実際上高いこと、がそれぞれ認められる。
そもそも、子の氏変更を家庭裁判所の許可の許可審判にゆだねた所以は、子の氏変更権を恣意にゆだねず、これにともなう弊害たとえば子の氏変更に対する親族間の対立、家庭内の不和をできるだけ除去して健全な親族関係、家庭関係を維持することを計つたものというべく、したがつて家庭裁判所は、子の氏変更許可審判にあたつては、右親族、家庭の対立不和の事情は十分にこれを考慮し、そのよつてきたる原因と除去の可能性を探索する必要がある。しかるとき、本件の場合、中沢友一と妻扶美子、長女友子、長男一夫の対立はきわめて強固で、互に別居する生活すでに約一〇年に及び、いまこれを一挙に解決することは非常にむずかしく、他方申立人は小学校入学の年齢に達して父中沢友一と同一氏を称する実際上の必要性が現在高いこと、それに中沢友一が妻、長女、長男に対し前記調停にもとづく月金三万円の生活費支給をしていること(月収金三〇万円から―金四〇万円という中沢友一の収入からして右金額が適当かどうかの問題は残るが)、を彼此考慮すると、申立人の父の氏への変更はこれを許可するを相当と解する余地は多分にあるが、しかし前記認定のおり、この申立人の氏変更と父戸籍への入籍には中沢友一の妻、長女、長男が激しく反対しており、その反対が主として中沢友一の責に帰すべき原因によつて生じた別居放置の状態に帰因するものであつて、しかも中沢友一自身においてこの対立関係を積極的に緩和する努力(これがこの場合きわめて必要である)をしようとしない本件においては、家庭裁判所による調整の余地もきわめて少なく、現時点ではなお申立人の父中沢友一への氏変更それにともなう父戸籍への入籍は許可しないのを相当といわざるを得ず、中沢友一と妻、長女、長男との対立状態が主として中沢友一側の努力によつていま少し緩和される時点を待つべきを相当と解する。
よつて、主文のとおり審判する。
(渡瀬勲)