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東京家庭裁判所 昭和46年(家)10974号 審判 1972年3月22日

申立人 山下信司(仮名)

事件本人 岩間二三男(仮名)

主文

事件本人岩間二三男を準禁治産者とする。

事件本人の保佐人として岩間富三(本籍東京都世田谷区○○△丁目△△番地、住所東京都世田谷区○○△丁目△△番△号)を選任する。

理由

一、申立人は、「事件本人岩間二三男を禁治産者とする。申立人を事件本人の後見人に選任する。」との審判を求め、その申立の実情として次のとおり述べた。

申立人は事件本人の甥であるところ、事件本人は幼少の頃脳膜炎をわずらい精神薄弱となつたことにより心神喪失の常況にあり、近時は放浪癖も顕著になつているので、同人の療養看護および財産管理の必要のために、禁治産の宣告を求めると共に、後見人には申立人が適任であると思料されるから申立人を事件本人の後見人に選任してほしい、というのである。

二、そこで判断するに、鑑定人医師吉田哲雄の鑑定書、当庁調査官補倭文民郎の調査報告書、それに申立人、岩間富三の各審問結果によると、事件本人は満五歳位の幼時「のどけ」と称される重症疾患をわずらつたため以後知能の発達が悪く、小学校の授業についてゆけず四年生のころ中退したこと、その後家業である農業の手伝いなどをしていたが、親が死亡したのちは実弟岩間一郎方に同居し、特に定職を有することもなく右農業手伝等をしながら現在に至つたこと、事件本人は中等度の精神薄弱であり、社会生活上必要な行為の性質を理解し、判断する精神能力に障害があるが、自己の利害得失につき基本的な理解・判断をすることは可能であり、その障害の程度は重篤なものではなく軽度であること、事件本人は既に老年期に達しているため、右精神能力回復の見込みはないことがそれぞれ認定される。

右認定事実によると、事件本人は、その精神能力の程度よりして民法一一条にいわゆる心神耗弱者に該当するものといわなければならない。

三、禁治産宣告申立事件において、審理の結果、事件本人が心神喪失の程度には至らないが心神耗弱であると認められる場合、家庭裁判所はあらためて準禁治産宣告の申立をまたずに当該事件本人につき準禁治産の宣告をすることができるかどうかについては問題がある。惟うに、禁治産・準禁治産の制度は、互にその制度の趣旨を共通とし、ただ本人の精神能力においてそれが心神喪失の常況にあるか心神耗弱の状態にあるかという精神障害の程度の差に対応して、その行為能力の制限に度合いの差が設けられているに過ぎないとみることができるから、申立人が特に「禁治産宣告のみを求める。禁治産宣告以外は駄目である。」といつた明確な意思表示をしている場合でない限り、裁判所は申立の趣旨に拘束されることなく禁治産宣告申立事件において準禁治産の宣告をなすことを妨げないものと解する。

さて、禁治産宣告申立事件において、準禁治産の宣告をなそうとする場合、家事審判規則三〇条二五条により裁判所は同時に保佐人の選任をしなければならないところ、右選任審判をなすには同条によりまた「申立」によらねばならないのである。禁治産宣告と準禁治産宣告との間に前記のとおり原則として申立の趣旨の拘束性を認めない限り不可避的に生ずる問題であるが、準禁治産宣告可能とする事例においてはやはり禁治産宣告申立に附随してなされた後見人選任申立に、準禁治産宣告のなされる場合には保佐人の選任を求める旨の申立趣旨を含むものと解するのが相当である。

四、申立人は、後見人として申立人自身が適任であるとするが、筆頭者事件本人の戸籍謄本、当庁調査官補倭文民郎の調査報告書ならびに申立人、岩間富三の各審問結果によると、事件本人には岩間富三(昭和一九年六月一六日生)なる養子があり、同人は前記岩間一郎の長男として幼少時より事件本人と同居の生活を送り昭和三九年一〇月七日事件本人と養子縁組後も従来どおり同居して事件本人の身辺の世話をしてきたこと、また将来も事件本人の面倒をみる意向であること、これに対し申立人は事件本人と三親等の血族関係にあるものの特別に事件本人の面倒をみてきたということはないことがそれぞれ認められ、以上認定事情を総合すると、事件本人の保佐人としては、岩間富三が最適であるといわなければならない。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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