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東京家庭裁判所 昭和46年(家)2268号 審判 1971年4月03日

申立人 豊田たか(仮名)

主文

申立人の氏「豊田」を「今福」に変更することを許可する。

理由

一、申立人は主文と同旨の審判を求め、その事由として述べる要旨は、

1  申立人は、昭和三二年六月頃から本籍東京都○○区○○△丁目○○番地の件外今福俊男と同棲し、以来事実上の夫婦として生活し、同人との間に昭和三三年八月一七日豊田由紀子を、昭和三五年一〇月一日豊田富男をそれぞれ儲け右今福俊男は昭和三五年六月二〇日右二児を認知している(富男については胎児認知)。

2  右今福俊男には妻正子との間に一男一女があり、同人は妻正子と離婚のうえ、申立人と婚姻することを希望しているのであるが、妻正子はこれに応じないため、やむなく申立人と同人とは事実上の夫婦として今日に至つている。

3  申立人は右今福俊男と同棲以来今日まで約一三年八ヵ月の間事実上の夫婦として生活し、その間通姓として「今福」の氏を使用しており、このことは氏を変更するやむをえない事由にあたるので、本件申立に及んだ

というにある。

二、当裁判所昭和四五年(家)第一三九七六・一三九七七号子の氏変更事件記録中の各戸籍謄本および各審判期日手続調書並びに本件における申立人提出の疎明書類および申立人に対する審問の結果によれば、次の事実が認められる。

1  東京都○○区○○△丁目○○番地に本籍を有する件外今福俊男は、昭和二四年初め頃井上正子と婚姻し、同年六月七日適式に婚姻届出を了し、その間に昭和二四年一一月一〇日長女文子を、昭和二八年九月一二日長男春雄をそれぞれ儲けたこと。

2  右今福俊男は、昭和三二年春頃申立人と知り合い、婚姻外関係を生じ、同年六月頃から妻正子および二人の子との同棲先から家出して別居し、申立人と同棲するようになつたこと。

3  右今福俊男は、妻子と別居後、今日まで妻子に対し子の養育料名義で毎月生活費を送金し、その金額は昭和四五年九月以降毎月金五万円となつていること。

4  右今福俊男は、妻子と別居後昭和三二年秋頃東京家庭裁判所に妻正子との離婚を求める調停を申し立てたが、妻正子は離婚を拒否したため調停は不成立となり、その後昭和三四年頃一たん東京地方裁判所に離婚訴訟を提起したものの、間もなくこれを取り下げたこと。

5  右今福俊男は、申立人との同棲生活を続け、申立人は右今福俊男との間の子として昭和三三年八月一七日豊田由紀子を、昭和三五年一〇月一日豊田富男をそれぞれ分娩し、右今福俊男は昭和三五年六月二〇日右二児を認知した(ただし豊田富男については胎児認知)こと。

6  右今福俊男の妻正子は、右今福俊男と別居後もなお約三年間東京都○○区○○△丁目○○番地の右今福俊男所有の店舗兼居宅に居住し、その居宅の一部を間貸し、その賃料と右今福俊男からの送金とで生活していたのであるが、右居宅が前記今福俊男の負債の担保に供せられていたため、債権者から立退きを求められ、やむなく二児とともに東京都○○区○○△丁目○○番○号所在の同女の父所有のアパートの一室に移り、以来同アパートの管理をしながら、右今福俊男からの送金で二児を監護養育しており、長女文子は、昭和四六年三月各種学校(実務英語)を卒業し、間もなく就職する予定であり、長男春雄は現在高校三年に在学中であること。

7  申立人と右今福俊男との間の子豊田由紀子は、昭和四六年三月小学校を卒業し、同年四月中学校に進学する予定であり、また豊田富男は昭和四六年三月小学校四年を終了し、同年四月小学校五年に進級し、いずれの子も幼稚園も小学校も学校当局の了解をえて「今福」の氏で通園、通学しておるので、このまま戸籍上「豊田」の氏でおると、中学校、高等学校と上級の学校へ進学するのに支障が生ずるとして、右二児の親権者である申立人は昭和四五年一二月二八日当裁判所に右二児の氏「豊田」を父の氏「今福」に変更する審判を申し立てたこと。

8  当裁判所は、右二児の母で親権者である申立人および父の右今福俊男とを審問した後、今福俊男の妻今福正子、長女今福文子、長男今福春雄を審問したところ、妻今福正子は、右二児の氏を「今福」に変更し、今福俊男を筆頭者とする戸籍に入籍させることは、婚期を控えた長女、および上級学校に進学する予定の長男の今後に重大な支障を来たすので同意できないと陳述し、また長女も長男も右二児の入籍には絶対同意できないと陳述していること。

9  申立人は、今福俊男と同棲以来、今日まで約一三年一〇カ月の間事実上の夫婦として生活し、その間戸籍上の氏「豊田」を使用せざるをえない場合をのぞいて、社会生活において通姓として「今福」の氏を使用していること。

三、以上の認定事実からすると、申立人と今福俊男との間の二児の福祉のためには「豊田」の氏を父の氏「今福」に変更することが望ましいが、さりとて現在のところ今福俊男の妻子の右二児の氏変更および入籍に強く反対する意向をも無視して、右二児の氏変更および入籍を強行することも妥当でないと思料され、そうだとすればむしろ申立人が本件において申し立てている如く、既に申立人が今日まで約一三年一〇カ月の間今福俊男と事実上の夫婦として生活し、その間通姓として「今福」の氏を使用し、氏を変更するやむをえない事由があると認められる本件においては、申立人の氏「豊田」を「今福」に変更することを認め、前記二児にも変更後のこの母の氏「今福」を称させ、母子同籍のままにしておくことが、妥当であると解される。

よつて主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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