大判例

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東京家庭裁判所 昭和46年(家)7608号 審判

〔主文〕本件申立を却下する。

〔理由〕(当事者の主張)

一 申立の要旨

申立人は「相手方を被相続人亡久留米和教の推定相続人たる地位より廃除する」旨の審判を求め、その理由の要旨は、「申立人は被相続人亡久留米和教(以下「被相続人」と略記する)の遺言執行者である。相手方は被相続人の長男で遺留分を有する推定相続人であるところ、相手方は、戦後満州から引きあげて両親に金銭的な面で迷惑をかけたり、昭和三九年頃勤めていた会社の金を使い込み刑事事件を起し、その後再び他の会社の金を横領し、その結果自宅に妻子を置いて家出をし、その後音信不通となり脳出血後遺症の病床中であつた父被相続人を一度も見舞わなかつた。相手方は昭和二七年頃向井春子と婚姻したが、離婚し、再び同女と再婚をしさらに離婚しその間二子をもうけるに至つている。そのような事情のため被相続人は公正証書遺言を作成し、相手方を推定相続人たることを廃除する旨および申立人を遺言執行者に選任する旨遺言し、昭和四六年四月二三日死亡したため、同遺言は効力を生じたので申立人はその遺言を執行するため本申立をするに及んだ」というにある。

(当裁判所の判断)

一 <略>の一切の証拠資料によれば、次のとおりの事実が認められる。

(1) 相手方は被相続人の長男で、現に遺留分を有する推定相続人であること、戦後満州から引きあげてきて一度は両親と同居するに至つたが、両親を欺いて預金通帳と印鑑を持ち出し、引き出した金は自分のために消費してしまつたり、また友人からの借金を両親をして相手方の代りに返済させるなど主に金銭的面から被相続人を悩ませていた。

(2) その後、相手方は○○建物株式会社に勤めたが、同社の金を競輪などの勝負事のために使い込み、刑事事件となり、裁判の結果懲役一〇ケ月執行猶予の刑を受け、再び、○○商事という不動産に勤めていたが、昭和四〇年一月頃会社の金を一〇〇万円位横領して行方をくらましたとして同会社から告訴された。以来相手方は音信不通となり警察でもその行方を捜している状況にある。

(3) 相手方は昭和二七年頃申立外向井春子と婚姻し、その後同女と協議離婚したが再び同女と再婚し前記理由で行方不明となつた昭和四〇年八月に再び協議離婚した。このような家庭の破綻はいずれも主として、相手方が勝負事等に熱中して家庭を顧りみなかつたことが大きな原因となつていた。

(4) そして相手方は行方不明の時以来、病床の被相続人を一度も見舞つたこともない。

以上の事実が認められる。

二 ところで、思うに推定相続人廃除の制度は、特定相続人の非行があり、被相続人と推定相続人との間の、いわゆる相続的協同関係を害すると評価せられる場合、当該推定相続人の相続権を剥奪し、被相続人の自由意思にもとづく私有財産の処分の尊重に資するのを目的としたものである。他方相続資格の剥奪は、相続人の利害に重大な影響を及ぼし、遺留分制度を認めた趣旨をも没却することがあるので法定廃除原因に該当するか否かの判断は慎重な考慮を要するのである。以上の如く、民法八九二条の廃除原因たる「推定相続人にその他の著しい非行があつたとき」のいう推定相続人の非行とは、結局、相続的協同関係と目される家族的生活関係を破壊するような非行という意味と解されるから、まず相続人の非行は、被相続人に対するものであることを要し、他人に対するものである場合には、それが被相続人に何らかの財産的、精神的損害を考え、ひいては、相続的協同関係を壊わす虞れのあるようなものであることを要すると解する。

三 そこで本件について考えるに、確かに相手方は戦後両親からお金をだましとつたり、刑事事件を起したり、離婚をくり返したりしたことその後音信不通となつたことは前記認定の如くであるけれども、参考人久留米幸子の尋問の結果によると、相手方が家を出た後、被相続人は相手方の行方を探したり、親を見捨てたりしたことに心を痛めたり、生活上支障を来したわけではなく、ただあまり親兄弟に迷惑をかけないよう念願する以外に、あまり関心を示さなかつたこと、および相手方には代襲相続人として二名の子があり、相続人廃除により他の相続人の相続分には影響がないこと、を認めることができる、上記認定の事実によると、被相続人としては、以上のような性格と経歴をもつ相手方が、自己の死後、遺産分割その他について、他の相続人との間に紛争が生ずることを虞れていたことは認められるけれども、被相続人が親としての感情を著しく損われていたものとは認められない。然るときは前記認定の事実をもつてして相手方に「その他著しい非行があつた」と評価することは、家の対面を保つための勘当、久離的な制裁を是認するものであつて、家族制度を廃止した現行民法の精神に反すると解される。その他、一件資料に照してみても、相手方に、民法八九二条所定の被相続人に対する「虐待、侮辱」等の廃除原因の存在を肯定できる事実を認めることができない。そこでいずれにしても本件申立は理由がないというべきである。

四 以上の次第であるから、本件申立は失当としてこれを却下し、主文のとおり審判する。 (野田愛子)

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