大判例

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東京家庭裁判所 昭和46年(家)8978号 審判

〔主文〕本件申立を却下する。

〔理由〕1 申立の趣旨

(1) 本籍東京都豊島区○○丁目△△番地筆頭者内崎春男の戸籍中、

(イ) 夫春男の身分事項欄中、離婚に関する事項を消除し、

(ロ) 除かれた妻昭子の身分事項欄中、離婚による除籍事項を消除した上、同人を同戸籍に回復し、

(ハ) 長男薫の身分事項欄中、親権者指定に関する事項を消除し、

(2) 本籍栃木木県宇都宮市○○番地筆頭者児玉健太郎の戸籍中、長女昭子の戸籍を全部消除することを許可する旨の審判を求める。

2 申立の実情

(1) 申立人は昭和三二年七月二二日利害関係人と婚姻し、日本において結婚生活を送り、その間昭和三三年七月一三日に長男薫が出生した。利害関係人は数学を専攻する研究者であり、当時○○大学に勤務していたが、昭和四一年九月、形式上○○大学助教授という身分で、アメリカ合衆国○○州にあるアメリカ合衆国○○州立大学に留学することになり、単身渡米した。ところが、利害関係人は日本人留学生である北沢信子と同棲関係に入り、その間に子が生れたのでこれを認知し、かつ、申立人に対して離婚を求めてきたが、申立人はこれを承諾しなかつた。

(2) 昭和四五年一月九日、利害関係人は、申立人が一度も訪れたことがなく、また利害関係人の生活の本拠でもないカルフォルニヤ州において、申立人に対する離婚の訴訟を提起し、これにもとづき同月二八日裁判所より召喚状が出されたが、利害関係人の代理人弁護士よりその旨の通知があつただけで正式の送達はなされなかつた。

(3) 申立人はこれに対し応訴しなかつたところ、昭和四五年六月九日不出頭の決定がなされ、同年七月一六日中間判決が言渡され、カルフォルニヤ州上級裁判所にその旨登録されたが、上記弁護士よりその旨の通知があつただけで、その謄本の送達はなかつた。更に、同年一〇月一三日には最終判決が言渡されたが、同様の手続がとられただけで、判決謄本の送達はなかつた。

(4) その後、申立人は最近に至り戸籍の調査をしたところ、カルフォルニヤ州上級裁判所の離婚の判決にもとづいて、利害関係人が離婚届をロスアンジエルス日本領事館に提出し、その送付により申立人の戸籍が婚姻前の戸籍に移され、長男薫の親権者が利害関係人と記載されていることを発見した。

(5) わが国では、外国の離婚判決を承認するためには、当該外国裁判所が当事者に対して管轄権を有していることが必須の条件であるのに、上記離婚判決には被告たる申立人の住所も存せず、また管轄権を肯定すべき特段の事情もないまま言渡されたものであるから、これを承認することはできない。従つて、このような承認すべからざる外国判決にもとづいてなされた戸籍の記載は法律上許されないものであるから、その訂正のための許可審判を求める。

(6) また、上記判決には、子の親権者に関する裁判がなされていないのに、利害関係人が離婚届に一方的に記載したことにより、長男薫の親権者が利害関係人とされている。上記離婚判決が承認すべきでない以上、この記載も当然抹消すべきものであるから、その許可審判を求める。

3 当裁判所の判断

(1) 本件申立の要旨は、管轄権を肯定すべき特段の事情もないまま言渡された国外の離婚判決は承認することができず、その外国判決にもとづいてなされた戸籍の記載は法律上許されないものであるからその訂正を求めるというにある。従つて、本件申立は、戸籍法一一三条の「戸籍の記載が法律上許されないものであること」に該当するものとして申し立てられたものと解せられる(同法一一四条による戸籍訂正は創設的届出の場合のみに限られ、本件のように外国判決による報告的届出による戸籍の記載を訂正する場合には含まれない)。

(2) しかし、戸籍法一一三条にいう「戸籍の記載が法律上許されないものであること」とは、例えば、権限のない者がした戸籍の記載、戸籍の記載事項でない前科・学事・兵事・死産等に関する記載、戸籍に記載され得ない外国人の身分に関する記載、偽造、変造の届書にもとづいてなされた戸籍の記載、死亡者または届出義務者でない者の届出にもとづいてなされた戸籍の記載等をいうのであつて、本件のごとく、外国裁判所の離婚判決にもとづいて戸籍上に記載された場合をも含むものと解することはできない。なぜならば、外国裁判所の確定判決は、民事訴訟法二〇〇条によりわが国においても効力を有するのであるから、もし外国の離婚判決が形式的に同条に該当する場合には、実質的審査権をもたない戸籍吏としては、同判決にもとづく戸籍の届出があつた場合にはこれを受理しないわけにはいかず、それにもとづいて戸籍の記載がなされた場合には、一応有効なものとして取り扱うべきものであり、従つて、その記載が法律上許されないものということはできないからである。

(3) もし、外国の離婚判決が無効であると主張するのであれば、それは戸籍法一一六条の確定判決によつて戸籍の訂正をすべきものである。なぜならば、戸籍法一一三条にもとづく戸籍訂正は、その訂正すべき事項が戸籍面上明らかであるか、またはその事項が軽微で、訂正の結果身分法上重大な影響を生ずることのない場合に限つて許されるものと解すべきだからである。本件申立は、上記のとおり、外国裁判所が管轄権がないのに離婚判決をしたので、それにもとづく戸籍上の離婚に関する事項の訂正を求めるというのであるから、戸籍面上明らかに法律上許されないものということはできず、またその訂正事項は身分法上重大な影響を生ずるものというべきであるから、結局、戸籍法一一三条による戸籍訂正は許されないものというべきである。

(4) よつて、本件申立は主張自体失当であるから、あえて事実関係につき審理するまでもなくこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(日野原昌)

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