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東京家庭裁判所 昭和49年(家)453号 審判 1975年1月11日

住所 東京都大田区

申立人 朴安子(仮名) 他一名

主文

申立人両名の申立を却下する。

理由

一、申立とその実情

申立人両名は、「申立人両名の出生届の記載には戸籍法一一三条の違法ならびに錯誤があり、又右出生届は同法一一四条により無効であるので、申立人両名を日本人として同法一一〇条により就籍することを許可する」との審判を求め、その申立の実情として述べるところは次のとおりである。

一、申立人両名と別居中の実父朴京正は韓国籍であり、同居中の実母山崎喜美子は元樺太に本籍があつた日本人であるが、実母は昭和四五年九月二四日就籍許可を得て日本人としての戸籍を取得する前は、韓国人朴喜美子として外国人として登録していたものである。

二、右実父朴京正と実母喜美子は昭和一八年七月一〇日より内縁関係にあり、双方間に昭和二一年四月二四日申立人朴安子が、昭和二二年一一月一九日申立人朴英がそれぞれ東京都大田区○○○×の××で出生したものである。

三、右実母山崎喜美子は第二次大戦における日本国敗戦により本籍地とも連絡がとれず両親とも別居中のため、又右実父朴京正も法的に無知であつたので、実父朴京正が届出人となり、実母山崎喜美子を日本人であるにもかかわらず韓国人朴喜美子と偽つて、大田区役所に昭和二五年一月三〇日申立人両名の虚偽の出生届をしたため、申立人両名はいずれも韓国籍のまま登録をして今日に至つている。

四、申立人両名は現在実母山崎喜美子と同居中であるが、右実父の出生届の提出とそれによる登録には戸籍法一一三条による違法な記載と同法一一四条による無効な届出があるので、その訂正と同法一一〇条による就籍許可の申立をするものである。

五、なお実父朴京正の出生届の違法な記載と無効な届出は別居中の実父もこれを認め、本申立について同人および実母山崎喜美子の承諾を得ている。

二、当裁判所の判断

申立人両名にかかる出生届出書謄本および外国人登録済証明書、筆頭者山崎正代の戸籍謄本、当庁調査官石山勝己の調査報告書、当庁昭和四五年(家)第九九八〇号就籍許可事件の記録および山崎喜美子、申立人両名、山崎泰一の各審問結果によると次の各事実を認定することができる。

一、韓国籍朴京正(大正九年五月一九日生)と山崎喜美子(大正一一年八月三一日生)とは昭和一八年七月一〇日頃から同居して夫婦となり、以来婚姻した夫婦のようにして昭和四五年秋頃までその同居生活を送つてきたこと

二、二人は終戦後韓国人夫婦としての外国人登録をし、その際山崎喜美子は朴喜美子と韓国人名を称したが、正式に婚姻届をしたかどうかの点はこれを認めるに足る証拠はないこと

三、双方間に昭和二一年四月二四日午後〇時五〇分申立人朴安子が、昭和二二年一一月一九日午前八時申立人朴英が、それぞれ東京都大田区○○○×-××で出生したこと

四、申立人朴安子が小学校入学時期を迎えるにあたつて、朴京正、喜美子と同居中の喜美子の実弟山崎泰一は、喜美子から相談を受け、昭和二五年一月三〇日東京都大田区長に対し、申立人朴安子を父朴京正、母朴喜美子の嫡出子長女として、申立人朴英を同じく右嫡出子長男として、それぞれ届出人朴京正なる出生届書を代書して届出たこと

五、右山崎泰一の出生届書の代書とその届出につき当時同居中の朴京正は当然承諾していたものと推認されること。当時朴京正に日本字が書けない事情があつても、山崎泰一に申立人両名の出生届書の代書とその届出を依頼する方法を採ることによりその出生届出をなすことができたのであり、右事情の存在をもつて直ちに申立人両名にかかる前記出生届を無効とすることはできないこと

六、以来申立人朴安子は父朴京正、母朴喜美子の長女として、申立人朴英は同じく長男としてかつ韓国人としての外国人登録をして今日に至ること

七、しかして、喜美子については、昭和四五年九月二四日確定の就籍許可審判により、樺太に本籍を有していたものとして、本籍東京都大田区○○×丁目××番地筆頭者山崎正代の戸籍に就籍したこと

以上認定事実によれば、申立人両名についての届出人朴京正の出生届は、嫡出子としての出生届であるが、朴京正と山崎喜美子の婚姻の成立を認めるに足る証拠なきこと前記認定のとおりであるから、申立人両名を朴京正と山崎喜美子の嫡出子とみることはできず、したがつて右出生届に嫡出子としての出生届の効力を認めることはできない。しかし、韓国民法上婚姻外の出生子については父の認知が認められ、かつ韓国戸籍法上婚姻外の子について父から嫡出子出生届がなされた場合はその届出に認知の効力が認められるものであるから、申立人両名にかかる父朴京正の嫡出子出生届には認知の効力を認めることができる。

しかして、昭和二五年一月三〇日当時、日本では旧国籍法が施行されており、同法二三条によると「日本人タル子カ認知に因リテ外国ノ国籍ヲ取得シタルトキハ日本ノ国籍ヲ失フ」とあり、他方韓国国籍法(昭和二三年一二月二〇日施行)によると韓国人たる父が認知した子は韓国籍を取得するものとされているのであつて、申立人両名は父朴京正の昭和二五年一月三〇日付認知の効力のある嫡出子出生届により韓国籍を取得し、同時に実母山崎喜美子からの出生により取得していた日本国籍を喪失したものといわなければならない。

なお、昭和二五年七月一日日本新国籍法が施行され、前記認知による外国国籍の取得を日本国籍の喪失原因とする制度が廃止され、その後昭和二五年一二月六日民事甲三〇六九号民事局長通達によつて、韓国人の父の認知ある場合も子について日本戸籍から除籍しない取扱いになつたことに鑑み、朴京正の申立人両名に対する嫡出子出生届が右期日以後になされた場合には右新国籍法の適用と新しい戸籍取扱いを受け得たことと対比して、不均衡ではないかという疑義もないことはないが、前記のとおり朴京正の昭和二五年一月三〇日付認知を認定しうる限り、やむを得ない結果といわざるを得ない。

したがつて、申立人両名の本件申立は理由がないものというべく、よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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