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東京家庭裁判所 昭和49年(家)7233号 審判 1974年12月13日

申立人 田辺年男(仮名)

事件本人 田辺直和(仮名) 昭三八・九・九生

他二名

主文

一  事件本人直和、同てるみの各親権者を申立人に変更する。

二  事件本人律子の親権者に申立人を指定する。

理由

一  申立の趣旨およびその実情

申立人は主文同旨の審判を求めその申立の実情として述べるところは次のとおりである。

事件本人直和、同てるみは申立人と妻隆子の間の二男、長女であるところ、妻隆子の実母石田としのたつての希望から、申立人と妻隆子は離婚をして隆子は石田姓に帰りかつ右事件本人両名の親権者に同女がなることとし、昭和四九年二月五日その旨の協議離婚をしたが、隆子は同年八月五日二女たる事件本人律子を出生し、その直後の同月一〇日死亡した。そのため事件本人直和、同てるみ、同律子について後見が開始したのであるが、右事件本人直和、同てるみは前記離婚後も、また事件本人律子は右出生時以来いずれも現在にいたるまで申立人と共同生活をしてきたものであり、しかも妻隆子との間の長男輝雄は申立人が親権者となつて右事件本人三名と一緒に養育しているものであるから、四人の子について共通に申立人が親権者となつて今後養育できるよう、事件本人直和、同てるみについて親権者変更、事件本人律子について親権者指定の各審判を求めるものである。

二  申立の適法性

(1)  親権者変更の申立

通常親権者変更(民法八一九条六項)は生存する親同志の間においてなされるものであり、親権者たる親が死亡した場合には民法八三八条一号により「親権を行う者がないとき」に一応該当するものといえる。しかし、未成年子に対する親の監護養育および財産管理は親権者の形においてなすのを本則としており(民法八一八条一項)、かかる親権者がない場合あるいはその親権行使が制限される場合に、いわば補充的に、後見人がその任にあたるものとしているのが民法の基本的な態度と解する。いいかえれば、親たる地位にある者を未成年子の監護養育、財産管理の面で第三者と区別し、何人でも適当な者である限り就任しうる後見人とは異なる親権者たる地位を優先的に認めているものといえるのである。したがつて親権者たる親が死亡してもなお他方の親が生存する場合には、その生存親についてさきほどの親たる地位において子の監護養育、財産管理をなさしめるのにふさわしい事情が認められる限り、後見人ではなく、親権者たる地位に同人をつけるのが適当であると解する。

もちろん親権者変更には子の親族の請求が必要であるから、後見人選任手続内で職権で親権者変更の審判をなしうるものではなく、必ず親権者変更の申立が必要であり、また後見人選任後はもはや親たる地位にもとづき親権者たる地位につく余地はなくなるものといわなければならない。

なお、親権者変更なる概念は変更される相手方が存在することを必要とするのではないかと考えられるが、この場合の親権者変更というのは従来非親権者であつた親を親権者たる地位につけることを本質としているものであるから、審判による限り相手方を要しないものと解する。

(2)  親権者指定の申立

子の出生前に父母が離婚した場合は、母が親権者となり、子の出生後に父母が協議して父を親権者と定めることができるところ、その協議が調わないとき又はできないときに、父又は母の請求によつて、家庭裁判所が協議に代わる親権者指定の審判をなしうるのであるから(民法八一九条五項)、通常は親権者指定審判というのは父母がともに生存する場合において考えられるのである。

しかし、前記親権者変更の場合において述べたとおり、親たる地位にある者は親権者の形で未成年子の監護養育、財産管理をなすのを本則とし、したがつて親権者たる一方親が死亡してもなお他方親が生存する場合、当該生存親について親たる地位において未成年子の監護養育、財産管理をなさしめるにふさわしい事情が認められる限り、後見人ではなく、親権者たる地位につけるのが適当であると解されるので、右の場合、親権者が死亡後、後見人選任前において、なお生存親に対し親権者指定の審判をなしうると解するのが相当である。

その場合、親権者指定の協議ないし調停の際の相手方が親権者指定の審判に必要でないことは、前記親権者死亡後における親権変更審判において相手方を必要としないこととしたと同様の理由で、これを肯定しうるのである。

三  筆頭者田辺年男、同石田としの各戸籍謄本、世帯主田辺年男の住民票謄本、当庁調査官寺戸由紀子の調査報告書および申立人の審問結果によると次の各事実を認定することができる。

1  申立人と石田隆子は昭和三五年五月二〇日夫の氏を称する婚姻をし、双方間に長男輝雄(昭和三六年二月六日生)、二男事件本人直和、長女事件本人てるみがそれぞれ出生したこと、

2  しかるに、妻隆子の実母石田とし(明治三二年生)が老齢となり一人娘の隆子に後を嗣いでもらいたい等との同女の希望をいれて、申立人と妻隆子は昭和四九年二月五日協議離婚し、その際右長男の親権者は申立人、事件本人直和、同てるみの親権者は隆子と定めたこと、

3  しかし、申立人と隆子は右協議離婚届出後も従来と変わらない同居生活を続け、したがつて右事件本人両名についても従前と同様の共同生活を申立人はもつてきたこと、

4  右隆子は右協議離婚後の昭和四九年八月五日事件本人律子を二女として出生したが、同女についても他の子供達と同様申立人がその出生以来共同生活をしてきたこと、

5  しかるに、右隆子は同月一〇日死亡したため、右事件本人三名について親権を行う者がない状態を生じたこと、

6  申立人は現在一日七、八〇人程度の患者を診察する開業医で、月収一〇〇万円位、資産は、自宅兼医院の建物(床面積七〇坪程度)、隣接地の宅地(面積一〇〇坪程度)等を有していること、

7  申立人は隆子との協議離婚にもとづき事件本人直和、同てるみの親権者を隆子としたにもかかわらず、前記のとおり右事件本人等とは従前と変らない共同生活を前記長男と一緒にもつてきたものであり、その後出生した事件本人律子についても同様であつて、この際、長男に対すると同じように事件本人三名についても申立人が親権者となつて監護養育していきたいと強く希望していること、

以上認定事実によれば、事件本人三名について後見開始事由があるのであるが、申立人には特に親たる地位において親権者として彼等を監護養育あるいは財産管理するにふさわしい事情が認められるので、各人について父たる申立人を親権者の地位につけるべく事件本人直和、同てるみの各親権者を申立人に変更し、事件本人律子の親権者に申立人を指定するのが相当である。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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