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東京家庭裁判所 昭和51年(少ハ)22号 決定 1976年10月06日

少年 K・H(昭三四・三・一一生)

主文

少年を昭和五四年三月一〇日まで医療少年院に戻して収容する。

理由

1  (申請の趣旨・理由)少年に対する関東地方更生保護委員会の申請の理由は別紙のとおりであり、よつて少年が満二三歳に達するまで少年を医療少年院に戻して収容するのが相当であると言うにある。

2  一件記録(顕出にかかる昭和五一年少第一一三九一号事件記録を含む)及び審判の結果によれば次のとおり認められる。

少年は昭和四九年二月二二日当裁判所の決定に従い初等少年院に送致された。当時少年について裁判所は、夜遊び、徘徊、怠学、シンナー乱用を少年の非行性格の顕現として認め、これらから判断するに少年は洞察力を欠き、堅実な生活志向がなく安直怠惰な生活態度に終始しており、家庭環境も父母の別居、母の自暴自棄などの事情があり劣悪であるとしたものである。

昭和五〇年七月二日初等少年院千葉星華学院を仮退院するに際し、イ人にめいわくなことは絶対にしないこと、ロ悪い友だちとつきあわないこと、ハまじめにはたらいて母に心配をかけないことの三項が特に遵守すべき事項として少年に課せられた。

ところで仮退院後の少年の生活を観察して見ると、退院後間もなく昭和五〇年九月五日、六日に窃盗の非行を犯し、同年一一月一四日には、現在保護観察中の実弟K・Oと共に自動車盗をなし、本年に入つて三月二二日には恐喝事件(昭和五一年少第一一三九一号)を引き起こしている。それらの間の生活態度はサパークラブに一〇日、二〇日と稼働し、喫茶店のウエイターをしたりで極めて不安定、不誠実であり、周囲の者が就労を勧めてもこれを聞きながし、少年院送致前に問題視された不良交友がほぼ同じ顔ぶれで復活し、同時にシンナー等乱用も再び始つている。仮退院後五か月程の生活の詳細は面接調査によつても明らかにはなし得ず、仮退院直後の感銘すら極めて浅く無反省な時を過していたと見うる。

ところでここに心配な事情が新たに一つ加わつた。少年は本年七月二〇日ころから約一か月埼玉県内の土工飯場に起居する機会を持つたが、その際に覚せい剤及び鎮痛剤ベタスの使用をおぼえ、覚せい剤は三回程注射経験し、ベタスは二〇回以上服用経験している。その影響は顕著に現われ、本年九月一一日保護観察所の指導で新たに居所と定められた更生保護会善隣厚生会を一日で飛び出し、一時テキヤに匿われたのち同月二一日裁判官の発する引致状により鑑別所に収容された際、不眠、不安感、焦燥感を訴え、意欲、注意力、機敏性が減退し、室内徘徊、粗暴行為、自殺企図の振舞が見られた。

極めて抽象的な定めの特別遵守事項ではあつたが、少年の仮退院後の生活がこれらに全く反することが明白で上記申請の理由は概ねこれを認めうる。少年の保護環境は従前に変わらず、父母の別居は、父が他

の女性との間に子を得、母は子の不始末の尻ぬぐいを父にもさせろという主張を持つのみで固定し、両者の協力体制は採り得ない。他に強い指導を頼める人もいない。

以上認めた事実によれば少年を医療少年院に戻して収容するのが相当であるところその期間は少年が成人に達するまでを以て十分である。

よつて、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条五項を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 曾我大三郎)

別紙

申請の理由

本人は、当委員会第四部の決定により、昭和五〇年七月二日千葉星華学院から仮退院を許され、表記住居の実母のもとに帰住し、仮退院期間を昭和五四年三月一〇日までとして、以来東京保護観察所の保護観察下にあるところ、昭和五一年九月二一日同保護観察所に引致され、同日当委員会第二部において、「戻し収容申請について審理を開始する」旨の決定を受け、同日以降、留置期限を同月三〇日までとして、東京少年鑑別所に留置されているものであるが、

一 遵守事項違反の事実

1 昭和五〇年九月一〇日、および昭和五一年七月下旬の二回にわたつて、あらかじめ東京保護観察所長の許可を求めることなく、表記住居から無断で他へ転居をし、

2 仮退院後昭和五〇年九月一〇日ころから約一か月、同年一二月一五日ころから約一か月、昭和五一年六月中旬ころから約二〇日、同年七月下旬から約一か月の合計約四か月、調理士見習、土工等の仕事に就いた以外は、ほとんど仕事に就かず、徒食の生活を続けて、まじめに働く努力をせず、

3 仮退院後間もなく、以前窃盗等の非行を共謀し、累行したことのあるA、B、Cらとシンナー吸引等をして、再び交際をしたり、昭和五一年二月ころから同年四月ころにかけ、近所に住むDのアパートにひんぱんに出入りしたりして、実弟のK・OやE等数名の仲間、あるいは女子中学生らとシンナーを吸引したりして不良交友をした外、左記4に記載の共犯ら素行のよくない者達と交友をしていたもので、もつて犯罪性のある者、および素行不良の者と交際をし、

4 昭和五〇年九月五日、および六日、F、Gら七名と共謀して、東京都足立区○○○×-××先路上外一か所において、○泉○男外一名所有の現金三万円位、背広等三点(時価合計三万三、三〇〇円位)を窃取し、さらに同年一一月一四日実弟K・O、Eと共謀して、三重県上野市○○○○○駐車場において、×生×弘所有の普通乗用車一台(時価一〇万円相当)を窃取した(以上いずれも昭和五一年三月二九日貴裁判所において不処分決定)外、

(一) 昭和五一年三月二二日午後七時ころ、Eと共謀し東京都足立区○○×-×先路上において○勇(中学生)に対し、パーテイ券が売れなかつたことで因縁をつけ、同人の顔面を殴打するなどの暴行を加え、さらに同日、午後七時三〇分ころ、同区○○×-××-×○○荘二階Dの居室において、○居○(中学生)に対し、殴る、蹴るの暴行を加え、その際本人は手を怪我したとして、その治療費として、同人に対し、現金五、〇〇〇円を持つてくるよう要求し、さもないと「ぶつ殺す」等申し向け、畏怖させて、

翌二三日同人から四千数百円を喝取し、

(二) 同年四月三日午後一〇時ころ、D外三名と共謀し、同区○○×-××先路上において、オートバイを運転して通行中の○野○外一名に対し、些細なことから因縁をつけ、両名に対し、殴る蹴る等の暴行を加え、もつて両名に対し、加療五日位を要する傷害を負わせ

たことから警視庁西新井警察署の取調べを受けるなど、もつて他人に迷惑をかけ、善行を保持しなかつた

ものであり、以上の本人の行為は、関係資料から明らかであつて、右の各事実は、本人が仮退院に際して遵守することを約束した犯罪者子防更生法第三四条第二項所定の遵守事項第一号、第二号、第三号、第四号および同法第三一条第三項の規定により当委員会が定めた特別遵守事項

第三号 人めいわくなことは絶対にしないこと。

第四号 悪い友だちと、つきあわないこと。

第五号 まじめにはたらいて、母に心配をかけないこと。

のそれぞれに違反しているものである。

二 仮退院後の行状、その他

1 東京保護観察所においては、本人の保護観察を行うにあたつて、本人が、早期非行歴の持主で、各種非行への親和が強いこと、広い不良交友歴を持つていること、薬物への耽溺傾向がみられること、家庭関係に問題がみられること等の点を十分考慮したうえ、

(一) 早期就業をはかり、稼動意欲を高めて、一定の仕事に落着かせること。

(二) 母親との関係調整、実弟への指導等を積極的に行い、家庭内の安定を計ること。

(三) 本人の自覚を高め、不良交友や薬物への接近を防止すること。

などを主な処遇の方針とし、担当保護司はもとより、保護観察官の直接処遇を積極的に行うなど、めんみつな保護観察を行つてきたが、その経過は、別紙「保護観察の経過及び成績の推移」のとおりであり、

2 本人は、仮退院直後から徒遊生活に戻り、断続的に就業することはあるが、その期間は長くて一か月そこそこであり、就業意欲は極めて低く、保護観察官の強い指導を受けた時など、一時的に就業するだけであり、最近は殆んど徒食状態であること等考えると、今後安定した就業を期待することはむつかしいこと。

3 こうした就業意欲の低さには、多分に不良交友が原因しているとみられるが、周囲には悪友が多く、シンナー等の薬物を媒介にした交友が中心であり、時として交友相手が変ることがあつても、その相手は常に素行の不良な者達であり、時には非行犯罪の共謀者であるなど、不良交友への親和傾向はいぜんとして強く、改善の兆しはみられないこと、

4 仮退院早々にして、シンナー吸引を始め、その後も度々シンナー吸引をして警察官の補導を受けているもので、最近ではベタスと呼ばれる薬物の注射も始めるなど、薬物耽溺の傾向はいぜんとして強く、精神面はもとより、身体への悪影響が現に認められること、

5 貴裁判所で昭和五一年三月二九日不処分決定を受けたが、その後じきに粗暴事件を累行しており、非行に対する罪障感はいぜん希薄で、再非行のおそれが充分予想されること、

6 母親の保護能力や態度はいぜんとして問題があるが、そこには、本人がまじめにやろうとする姿勢をみせないことも影響しており、最近では本人が母親に対して反撥を一段と強めるなど、親子の関係は不安定であり、現状では保護者の監護能力に限界が認められること、

7 不良交友を断ちまじめに仕事につかせるため、本人の同意を得たうえ、更生保護会に入会させたが、わずか一日で逃走してしまうなどの状況にあり社会内で他にとるべき方法も見い出せないこと、などを総合すると、すでに本人に対する社会内処遇は限界に達したものと考えざるをえず、また、このまま社会に留めれば、これまでと同様の行為をくり返すことが予想され、その更生はますますおぼつかず、非社会性や非行・犯罪の傾向を一層助長する結果になるものと考えられる。

よつて、この際、本人を少年院に戻して、積極的な施設内処遇をあたえることによつて、将来の更生を期することが最も妥当な措置と認め、犯罪者予防更生法第四三条第一項の規定により、この申請をする。

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