東京家庭裁判所 昭和54年(少)2857号 決定 1979年3月27日
少年 S・K(昭四一・三・九生)
上記少年にかかる虞犯(児童福祉法二七条第一項第四号、同条の二)保護事件について、当裁判所は調査、審判の結果次のとおり決定する。
主文
少年を教護院に送致する。
教護院の長は通算九〇日を限度として逃走防止等の強制措置をとることができる。
理由
(一) 虞犯事由
少年は現在江戸川区○○○小学校六年生であるが、父親が受刑で長期間服役したり、母親が病弱であつたため、幼児期のしつけが十分に施されないまま成育し、登校拒否、生徒に対する乱暴、万引、家の金の持ち出し、ゲームセンターなどの出入など問題行動が見られたが、昭和五三年七月二四日単身で千葉県夷隅郡○○町に出掛け、同町○○××××番地路上において同日午後二時ころ小学校四年生から現金四五〇円を窃取、同日午後三時三〇分ころ、同町○○××××番地路上において、小学校五年生の女子をブロック塀の蔭に連れ込み、腹部を殴打したり、瓶の破片を同女の首筋に当てておどし、わいせつ行為に及ばうとしたり、同町○○××××番地先で自転車を窃取したりして○○署員に補導され、同日父親に身柄を引き取られるに至つた。
しかし、少年の行動はこれでおさまらず、同年九月二日から四日にかけて家出し、同日午後九時三〇分ころ○○○駅前で○○○署員に保護された。同年一一月ころから注意する母親に体力を利して暴力で対抗、母親を足蹴りにするようになつて、その指導に全く従わなくなつた。少年は昭和五四年一月一四日無断で下級生を連れて×××に行き遊ぶ金五〇〇〇円を他の小学生から脅し取つた。さらに翌一五日にも同じ生徒とともに無断で○○○に行き小学生を脅して七〇〇〇円を脅し取りさらに他の小学生からも一〇〇〇円脅し取つた上、タクシーで×××に行つて遊ぶなどした。少年は同年一月二八日中学二年生と共に河原土手でダンボールを燃やして暖をとつたり、石油入りポリタンクをたき火に投げ込んで燃え上らせたりする火遊びをした後、同日午後六時三〇分過ぎころ、江戸川区○○○×丁目××番地○○神社の祠に火を放つた。同年二月一一日家出、翌一二日○○○署員に補導され、同月二三日再び家出、同月二六日○○署員に補導されるに至った。同日墨田児童相談所で一時保護され、二日間にわたって指導を受けるも全く反省の情なく、かえって自己のこれまでの問題行動を自慢し、あるいは指導に反抗する言辞を弄するなどし、指導の限界を越えたため本件送致に至つたものである。
少年は情緒が著しく不安定であり、全くの自己本位で衝動的行動に出るタイプであり自己顕示欲求、支配欲求も強い。他人への思いやりや共感性を全く欠いており、被害意識疎外意識も強く、自己に有利なことは嘘をついてもこれを守ろうとする。このような性格に加えて、父親は夜間警備員をしているので夜間の監督が事実上できず、母親は既に体力的に少年より劣り、今後ますますその差がひろがるという家庭環境に加え、年齢の上下を問わず、少年との不良交遊を強めていく問題少年も多い地域環境下にあることに照らすと、このままの状態では年齢が長ずるにつれ、放火あるいは恐喝、窃盗、性犯罪などを犯す虞れが多分に認められると言わざるをえない。
(二) 適条
少年法三条一項三号イ、ロ、ハ、ニ
(三) 教護院に送致した事由
上記状況に加え、これまで学校側からも少年の不遇な幼少時を配慮した十分な指導を受けているにも拘らず少年の問題行動は鎮静化の方向をたどつていないのみならず、かえつて学校側の指導と父親のそれとが齟齬を来たし、父親は一方的に庇護的になり、少年に金を与えて近隣以外で遊ぶ原因を作り出し少年の問題行動を直視しない状況になつている。
母親は度重なる少年の問題行動や、家庭内暴力に疲れはてており、もはや指導監督を放てきせざるをえなくなつている。
少年は、大人の犯罪者的狡猾さと、子供のもつ無鉄砲さを合わせ持っているとの状態にまで立ち至っており、在宅の指導は極めて困難であり、少学校六年生ということおよび家庭的な愛情をこれまで十分には受けていないという事情を斟酌してもなお施設に収容して生活指導や、情緒面での安定さらには罪障感の育成をはかる教育を施さざるをえない。そこで教護院に送致することとする。又、少年のこれまでの行動・言辞から見て逃走の危険性も高いので、教護院の長が通算九〇日を限度として強制措置をとりうることとした。教護院においては極めて初歩的な事柄から受容的雰囲気のもとに地道に長期間指導し、著しい困難性はともなうが、他への思いやりや、共感性を深め、罪障感を育成し、情緒の安定をはかれれば、予後の問題行動は減少していくものと思われる。
なお、本件には虞犯の徴憑事実として前記放火のほか、二〇件に及ぶ放火あるいは放火未遂の事実が指摘され、警察における取調べの段階では、それに添う焼燬の事実と少年の自白調書、少年自らの反省書がある。しかしいずれも少年が当審判廷では、否認するところであり、一部については放火時間が在校中の時間帯に係るものもある。これらについてはいまだ捜査未了の段階にあると捜査官自らが述べているところであり、このような事実すべてを当裁判所自ら職権で捜査して事実を確定することは司法の中立性を害する虞れがあり、かつ身柄の確保も時間的制約があつて、本件の継続捜査として証拠資料の追送の勧告も出来ないので、本件では上記二〇件に及ぶ放火については虞犯事由としての審判の対象とすることは不相当と認めこれを審判において明示的に除外し、改めて触法少年としての送致があった場合にその存否を確定することとした。
よって、少年法二四条一項二号を適用し、主文のとおり決定する。
(裁判官 佐々木一彦)