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東京家庭裁判所 昭和62年(家イ)3583号 審判 1987年10月08日

申立人 デ・バルグ・ガボウ・テレサ・エリア 外1名

未成年者 山下和裕

主文

申立人は相手方の子であることを認知する。

理由

1  申立人は、主文同旨の審判を求め、その原因となる事実を次のとおり述べた。

申立人の母マダレール・セサリーナ・テレサは、ブラジル国籍を有するリベール・パウロ・デ・バルクと1975年10月21日婚姻し、ヌメール(1976年8月9日生)およびドミアン(1977年11月21日生)をもうけたが、やがて夫婦関係が破綻をきたし1978年1月夫バルクと事実上別居し、1983年8月15日サンパウロ第一家庭裁判所判事により夫バルクとの法的別居の決定を得、その後離婚に必要な法定期間を経過した1987年2月12日離婚の判決を得た。

申立人の母テレサは1984年1月ごろサンパウロ市内において相手方と知り合い親密な関係となつた。相手方は同年4月ごろ日本へ単身帰国したため申立人の母テレサも同年7月来日し、それ以来両名は都内において事実上の夫婦として同居生活を送り、申立人の母テレサは申立人を懐胎するにいたり1986年3月11日都内港区○○大学付属病院において相手方の子である申立人を出産した。相手方と申立人の母テレサとは1987年4月13日婚姻の届出を了した。

よつて、申立人は相手方の子であることが明らかであるので管轄裁判所である日本の裁判所にその手続により申立人が相手方の子であることの認知を求める。

2  当裁判所調停委員会の昭和62年10月8日の調停期日において、当事者間に主文同旨の審判を受けることについて合意が成立し、その原因となる事実についても争いがなく、本件記録添付の各資料及び事実調の結果によれば、申立人の主張事実はすべて認められる。

3  右認定事実によれば、本件について日本の裁判所が裁判権を有し、しかも当裁判所が管轄権を有することは申立人および相手方いずれも肩書住所に居住することから明らかであり、更に申立人と相手方間に血縁上の父子関係があることも明らかである。

次に本件の準拠法であるが、法例18条により父たる相手方については日本民法により、子たる申立人についてはブラジル民法によることとなり、ブラジル民法355条は「私生子はその父母双方によりまたは各別に認知せられることを得」と定めている。

そこで、申立人が私生子であるか否かが問題となるが、ブラジル離婚法(1977年12月26日法律第6515号)3条によれば「法的別居は相互の貞節義務を終結する」と定められ申立人の母テレサは1983年8月先夫バルクとの法的別居の効力が生じた後である1984年相手方と知り合い申立人が出生したのであるから、申立人は申立人の母と先夫との婚姻の効力が及ばない時期の懐胎出生であり非嫡出子と同視すべき身分関係にあると解することができる。更に同民法363条は懐胎の時母がその推定の父と内縁関係にあつたことを認知の要件としているが、申立人の母と相手方とは申立人の懐胎の時内縁関係にあつたことも前記認定事実から明白であり、その他同民法183条1項ないし6項、358条の認知障害事由に該当する事情も認められない。

他方、日本民法によつても被認知者は法律上の父を有しない子であることを要するが、前述のとおり申立人の母テレサは先夫と別居後は外観上明白に離婚状態であり、形式的には婚姻継続中に申立人が出生しているが申立人は日本民法772条に定める嫡出推定のおよばない子に該当し、このような場合には外形上の父子間に血縁上の父子関係がなければ法律上当然に父子関係がないと認められている。従つて申立人は前述のとおり外形上の父バルクと血縁がないので同人との父子関係は否定され、相手方は血縁上の父として申立人を認知することが許される。(なお、相手方は昭和61年4月11日申立人について任意認知の届出をしたが、これは市長村長の形式的審査権限を前提にすれば申立人の場合外形上の父が存在するので不適法と解される。)

結局、申立人の被認知適格についてはブラジル民法、日本民法いずれも形骸化した婚姻の継続している時期に出生した子と父との関係について婚姻の効力を制限的に解する制度を有するものであり、父子関係の実体に即した法律関係の形成を容認しているものであるから、これを肯認することができる。

よつて、本件申立は理由があるので家事調停委員○○○○、同○○○○○の意見を聴いたうえ、家事審判法23条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 若林昌子)

参考

ブラジル民法

第355条 私生子はその父母双方により、もしくは各別に認知せられる事を得。

第358条 近親婚ならびに姦通より生ずる子は認知せられることを得ず(363、364、405条)。

第363条 第183条1乃至6に列挙した以外の者の私生子は左の場合に父母またはその相続人に対し認知の訴を提起することができる。

1 懐胎の時に母がその推定の父と内縁関係にあったこと。

2 その懐胎は母が推定の父により略奪、誘拐せられた時と一致していること、もしくは双方の肉体関係ありし時と一致していること

3 親権者である者が明白にこれを認知している旨を記載した書面がある時第183条左の者は、婚姻することを得ず。

(一) 自然血族たると法定血族たるとを問わず、親族関係の正統たるや否やに関せず、尊属卑属との間

(二) 続柄の正統たると否とを問わず、直系姻族間

(三) 養親と養子の配偶者との間及び養子と養親の配偶者との間

(四) 嫡出たるや否や及び同父母たると異父母たるとを問わず、兄弟姉妹間正統たるや否やとを問わず、3親等迄の傍系親族間

(五) 養子と縁組後出生した養父母の子との間

(六) 既婚者間

(七) 姦通配偶者と相姦者として判決された者との間

(八) 生存配偶者と他方配偶者の殺人犯人又は殺人未遂犯人として判決された者との間

(九) 何等かの動機をもつて脅迫されたる者及び同意無能力者若しくは明瞭に同意の意思表示をなし得ざる者

(十) 誘拐者と被誘拐者との間、但し、被誘拐者が誘拐者のもとに在るか若しくは安全なる場所に在らざる間に限る。

(十一) 親権、後見又は管財に服する者にして親権者、後見人又は管財人の同意を得ず若しくは其同意を補充せざる間

(十二) 16歳未満の女子及び18歳未満の男子

(十三) 死亡配偶者との間の子を有する鰥夫又は寡婦、但し、未だ遺産目録の作成並びに遺産分割がなされざる間とする。

(十四) 寡婦又は其婚姻が無効なるか若しくは取消されたるかにより婚姻解消したる女にして、寡婦となり又は婚姻解消後10ヶ月を経過せざる者但し、此期間内に子供を分娩したる時は此限りでない。

(十五) 後見又は管財が消滅せず且つこれに関する清算が終了せざる間は、後見人、管財人及び其卑属、尊属、兄弟姉妹、義保弟姉妹、姪甥と被後見人又は被管財人との間、但し、父、母の公正証書若しくは遺言による同意ある場合は此限りでない。

(十六) 判事、書記及び其卑属、尊属、兄弟姉妹、義兄弟姉妹、姪甥と其裁判所の管轄内に居住する孤児又は寡婦との間、但し、上級裁判所の許可ある場合は此限りでない。

ブラジル離婚法

1977年12月26日法律第6515号

夫婦関係及び婚姻の解消、その効果、手続その他の措置に関する規制

第3条 裁判上の離別は、婚姻が解消した場合と同様に、同居及び相互の貞節義務並びに夫婦財産制を終結する。

ブラジル国憲法

(1969年10月17日施行)<仮訳>

第145条 次に掲げる者は、ブラジル人とする。

I 生来の者

a ブラジルで出生した者。親が外国人である場合においても、その親がその本国の公務に服するため居住する者でないときは、同様とする。

b 外国において父又は母をブラジル人として出生した者で、父又は母のいずれかがブラジル国の公務に服するため外国に在住しているもの。

c 外国において父又は母をブラジル人として出生した者で、父又は母のいずれもがブラジル国の公務に服していない場合でも、外国における権限あるブラジル国機関に出生の届出がされているもの又は、届出を行つていないときにおいては、成年に達する以前にブラジル国に居住するに至つたもの。後者の場合には、その者は成年に達した後4年以内にブラジルの国籍を選択しなければならない。

II 帰化人<以下省略>

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