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東京家庭裁判所 昭和63年(家)10886号 1989年2月21日

主文

被相続人亡吉田紀三郎の遺産を次のとおり分割する。

1  別紙遺産目録(編略)記載の宅地及び建物は相手方三木久美子の単独取得とする。

2  相手方三木久美子は、

(1)  申立人吉田明子及び申立人吉田博子に対し各金8750万円あて、

(2)  相手方小林典子及び相手方勝田公子に対し各金2916万6666円あて

並びに上記各金員に対する本件審判確定の日より各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  申立人米村峰子及び申立人吉田忠夫は、第1項の遺産につき何も取得しない。

4  手続費用中鑑定費用金40万円は、申立人吉田明子及び申立人吉田博子において各9分の3あて、相手方ら3名において各9分の1あてのそれぞれ負担とする。

理由

当裁判所は、本件審理の結果に基づき、以下のとおり認定判断する(なお、相手方久美子は、正当な理由があるとも思えないのに本件調停・審判の期日に一度も出頭しなかつたが、当裁判所は、本件についての法律関係をこれ以上不安定な状態に置いておくのは相当でないと考え、同相手方の審問をなさないまま審判するも巳むなしと判断したものである。)。

1  相続人及び相続分

被相続人吉田紀三郎(明治元年11月10日生)(以下「被相続人」という)は、昭和23年3月30日死亡し、同日相続が開始した。その相続人及び各法定相続分(以下「相続分」とのみ表示する)は、妻吉田ヨネ9分の3、長男吉田豊、申立人である長女明子(以下「申立人明子」という)及び二男吉田忠明(ちなみに、同人の父母との続柄に関する現在の戸籍記載は二男とされているが、戸主吉田常男の除籍された戸籍によれば、明治34年10月8日被相続人とヨネの二男として重男が出生したものの、同人は同36年9月24日死亡している旨の記載が認められるので、忠明の父母との続柄は本来三男が正しいものと思料される。しかし、本件においては、現在の戸籍記載にしたがい二男と表示することとした。)各9分の2であつた(なお、被相続人とヨネとの間には大正10年1月5日三男(実際は四男が正しいと思料される)道男も出生しているが、同人は昭和14年6月4日死亡している。)。

しかるに、昭和40年4月9日ヨネが死亡したことにより、同女の相続分9分の3は、豊、申立人明子及び忠明が相続し、このため、被相続人の相続については、豊、申立人明子及び忠明が各3分の1あての相続分を取得することとなつた。更に、豊において昭和59年1月4日死亡したため、同人の子である相手方ら3名がこれを相続し(豊の妻吉田良子は昭和53年9月1日死亡している)、又、忠明においても同62年9月10日死亡したため、同人の妻である申立人博子(以下「申立人博子」という)、長女である申立人峰子及び長男である申立人忠夫がこれを相続した。

以上に記した各相続及び再転相続の結果、結局、被相続人の相続に関しては、申立人明子において36分の12、申立人博子において36分の6、申立人峰子及び申立人忠夫において各36分の3、相手方ら3名において各36分の4あて、それぞれ相続分を有することとなつている(被相続人及びヨネの各相続については、民法890条並びに昭和37年法第40号による改正前の同法887条1項及び昭和55年法第51号による改正前の同法900条1号を、豊及び忠明の各相続については、同法890条及び同各改正後の同法各条項をそれぞれ適用する。)。

2  分割協議の不調

申立人ら4名は、当事者間で遺産分割協議が調わないとして、昭和63年5月31日相手方ら3名を相手として当庁に遺産分割調停の申立をし(当庁昭和63年(家イ)第2946号事件)、同年7月11日、8月1日、9月16日の3回にわたり調停が試みられたが、前記の如く相手方久美子において一度も調停期日に出頭しなかつたため合意が成立するに至らず、調停は不成立となり審判に移行した。

3  遺産の範囲、現況及び評価

(1)  被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載の宅地及び建物(以下これらを「本件各物件」という)であり、他に遺産に属するものは存在しない。

(2)  本件各物件には、従前、ヨネ及び相手方ら3名を含む豊一家が居住していたが、前記1の如く、ヨネ及び豊夫婦が死亡し、又、相手方典子及び相手方公子も婚姻して家を出て行つたため、現在では、相手方久美子が夫研二と共に居住している。

なお、本件各物件については、被相続人が死亡したことにより、ヨネ9分の3、豊、申立人明子及び忠明各9分の2あての相続分にしたがつた共有登記がなされていたが、前記1の如く忠明の死亡に伴い、後記のとおり同人の持分9分の2は申立人博子が取得したため、結局現在では、ヨネ9分の3、豊、申立人明子及び申立人博子各9分の2の共有登記名義となつている。

(3)  鑑定人○○の鑑定結果によれば、本件各物件の昭和63年12月15日(鑑定時)における評価額は、自用の宅地建物一体のそれとして3億7500万円と認められる。そこで、この評価額を前提にして本件分割審判を行うこととする。

4  遺産の分割

本件においては、被相続人の相続に関し、申立人ら及び相手方らのいずれにも、特別受益あるいは特別寄与分として考慮されなければならないような資料は見出し難い。したがつて、遺産の分割については、各自の相続分に則し、以下のとおり判断する。

(1)  ア 前記3(2)の如く、本件各物件には、現在相手方久美子夫婦が居住しているところ、同相手方は、当裁判所に提出した回答書中において、本件各物件を単独取得することを望んでいる。

イ  申立人ら4名は、いずれもそれぞれの自宅に居住しているところ、本件分割については家庭裁判所による適正な処分を望む以外格別具体的な意向は示していない。

ウ  相手方典子及び相手方公子両名も、それぞれの自宅に居住しているところ、本件分割については、両名共、本件各物件をできれば相手方ら3名による共有取得にしておきたい旨の意向を示している。

(2)  上記(1)で認定した各当事者の意向のほか、本件各物件は面積350.41平方メートル(100坪余)の宅地一筆とその上に存する床面積79.33平方メートル(24坪)の木造瓦葺平家建居宅一棟のみであることをも考慮すると、本件においては、これらの各物件を各相続人に現物で分割するのは相当でないし、又、相手方典子及び相手方公子の希望するような相手方ら3名の共有取得による分割方法も、相手方典子及び相手方公子の現在の居住状態からみて、同相手方らが本件各物件を取得しなければならない必要性は大きくないと思われる反面、共有状態にしておくことによる紛争再燃の可能性は決して少なくないと予想されること等に照らすと、やはり当を得た判断とは解されないところである。

(3)  ア 以上によれば、本件遺産の分割は、本件各物件を相手方久美子が単独取得する代わりに、同相手方は、その相続分36分の4を超える取得部分につき、家事審判規則109条により、申立人ら及びその余の相手方らに対し、それぞれ所定の調整金を支払う方法で行うのが相当と思料するものである。

イ  そこで、相手方久美子が負担すべき調整金の額を算定すると以下のとおりとなる(計算上円未満はすべて切捨て)。

(ア) 本件各物件の評価額は前記3(3)の如く3億7500万円である。ところで、本件各物件には、従前から相手方久美子が居住し占有使用しているという前記3(2)で認定した経緯に照らすと、同相手方において当該占有使用を継続する正当性が認められるのであるから、かかる状態を保障・保護するため、本件各物件には賃借権に類似した利益が付帯していると解するのが相当であり、したがつて、調整金の算定に当たつては、これを考慮に入れるのが合理的と認めるものである。しかして、前掲鑑定結果により認められる本件各物件の形状ないし構造、建物の建築時期、立地条件等を考慮して判断すると、当該占有使用の利益は、上記評価額に対する30パーセントの割合とみるのが相当である。

(イ) 相手方久美子の上記占有使用の利益を控除した本件各物件の評価額

3億7500万円×0.7 = 2億6250万円

(ウ) a 各相続人が取得すべき価額

申立人明子

2億6250万円×(12/36) = 8750万円

申立人博子

2億6250万円×(6/36) = 4375万円

申立人峰子及び申立人忠夫

各2億6250万円×(3/36) = 2187万5000円

相手方ら3名

各2億6250万円×(4/36) = 2916万6666円

b 各相続人が取得すべき価額は上記のとおりであるが、申立人博子は、夫である忠明の相続に関わる遺産分割において、子である申立人峰子及び申立人忠夫が承継すべき本件各相続分各36分の3をも取得しているものと認められるので(この点は、本件各物件につき申立人博子の共有持分が9分の2と登記されていることからも肯定される。)、申立人博子は、本来のその取得価額4375万円に申立人峰子及び申立人忠夫の各取得価額分合計4375万円を合わせた8750万円を現実に取得する反面、申立人峰子及び申立人忠夫の現実の各取得額はいずれも0と認めてよいと解される。

(エ) 如上の計算結果によれば、相手方久美子は、申立人明子及び申立人博子に対し各8750万円あて、相手方典子及び相手方公子に対し各2916万6666円あての各支払義務を負担すべきこととなる。

(オ) なお、本件においては、上記各調整金の額に照らすと、これの支払義務を負う相手方久美子と支払を受けるその余の当事者間において衡平を図る必要が存すると思料されるので、同各調整金の支払につき、民法所定の利率に準じ、本件審判確定の日から各支払済みまで年5分の割合による金員を付加して支払をなさしめるのを相当と解するものである。

(4)  本件遺産分割は以上のとおりであるところ、本来であれば、これに伴う付随処分(家事審判規則110条、49条)として、本件各物件の単独取得者となる相手方久美子のために、その余の当事者に対し、同各物件に係る各自の相続分に相当する持分の移転登記手続を命じるのが筋合いと解される。しかし、本件各物件になされている前記3(2)に掲記した如き共有登記名義のままで当該処分を命ずることは、遺産分割審判における付随処分の範囲を超えるものと考えられるので、本件においてはこれを見合わせることとする(本件各物件を相手方久美子の単独登記名義とするには、別途不動産登記法上の所定の手続を履むべきである。)。

5  手続費用中鑑定費用40万円は、申立人明子及び申立人博子において各9分の3あて、相手方ら3名において各9分の1あてそれぞれ負担するのが相当である。

よつて、主文のとおり審判する。

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