東京家庭裁判所八王子支部 平成14年(少イ)5号 判決 2002年12月25日
被告人 B・Y(昭和49.6.28生)
同 I・A(昭和51.12.2生)
同 D・H(昭和52.12.21生)
同 有限会社○○○○○
(代表者取締役B・Y)
主文
被告人B・Yを懲役1年に処する。
被告人I・Aを懲役10月に処する。
被告人D・Hを懲役10月に処する。
被告人有限会社○○○○○を罰金30万円に処する。
被告人B・Y、被告人I・A及び被告人D・Hに対し、この裁判が確定した日から3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中、被告人B・Y及び被告人有限会社○○○○○が風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反の罪を犯したとの点については、いずれも管轄違い。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社○○○○○(以下「被告人会社」という。)は、神奈川県相模原市○○×丁目××番×号○○○×××号(本件当時)に本店を置き、東京都八王子市○町××番×所在の○○ビル×××号において「□□□□□」の名称で風俗営業を営む会社、被告人B・Yは、被告人会社の代表取締役(本件当時)として同社の業務全般を掌理し、「□□□□□」の営業に従事していた者、被告人I・Aは、被告人会社の従業員として「□□□□□」のホステス面接採用等の業務に従事していた者、被告人D・Hは、被告人会社の従業員として「□□□□□」の店長の業務に従事していた者であるが、被告人B・Y、被告人I・A及び被告人D・Hは、共謀の上、被告人会社の上記営業に関し、平成14年7月3日ころ、「□□□□□」のホステスとして雇い入れた満15歳に満たない児童であるA(昭和63年3月××日生、当時14歳)をして、別紙一覧表記載のとおり、平成14年7月3日ころから同年9月4日までの間、前後22日間にわたり、同店店内において、客を相手に接待させ、もって、満15歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせたものである。
(証拠の標目)
<編略>
(法令の適用)
1 被告人B・Y、被告人I・A及び被告人D・Hについて
被告人B・Y、被告人I・A及び被告人D・Hの判示所為はいずれも包括して刑法60条、児童福祉法34条1項5号、60条2項にそれぞれ該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で、被告人B・Yを懲役1年に、被告人I・A及び被告人D・Hをいずれも懲役10月に各処し、情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間それぞれの刑の執行を猶予することとする。
2 被告人有限会社○○○○○について
被告人有限会社○○○○○の判示所為は包括して児童福祉法34条1項5号、60条2項、4項本文に該当するところ、その所定金額の範囲内で被告人を罰金30万円に処することとする。
(管轄違いの判決をした理由)
被告人B・Y及び被告人有限会社○○○○○(以下「被告人会社」という。)に対する風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)違反の罪にかかる公訴事実の要旨は、「被告人有限会社○○○○○は、神奈川県相模原市○○×丁目××番×号○○○×××号室に本店を置き、東京都八王子市○町××番地の×○○ビル×××号において「□□□□□」の名称で風俗営業を営む会社、被告人B・Yは、被告人会社の代表取締役として同社の業務全般を掌理し、同社が営む上記「□□□□□」の営業に従事していた者であるが、被告人B・Yは、被告人会社の上記営業に関し、東京都公安委員会から風俗営業の許可を受けないで、別紙一覧表記載のとおり、平成14年7月3日ころから同年9月4日までの間、前後22日間にわたり、上記「□□□□□」において、△△ほか多数の飲食客に対し、Aら同店ホステス数名をして接待させた上、酒肴等を提供して飲食させ、もって、東京都公安委員会から風俗営業の許可を受けないで設備を設けて客の接待をして客に飲食させる営業を営んだものである。」というものである(なお、別紙一覧表は前記罪となるべき事実において引用した別紙と同じものである。)。検察官は、この風営法違反の罪(同法49条1項1号、3条1項、2条1項2号、50条)が、前記認定の児童福祉法違反の罪と刑法54条1項前段のいわゆる観念的競合の関係にあり、少年法37条2項により当家庭裁判所に管轄がある旨主張する。
そこで職権をもって前記風営法違反の訴因が当家庭裁判所の事物管轄に属するか否かを調査するに、少年法37条2項によれば、前記風営法違反の罪と前記認定の児童福祉法違反の罪が刑法54条1項に規定する関係にあり、かつ、児童福祉法違反の罪をもって処断すべきときに限り、当家庭裁判所が管轄を有することになる。
この点、公安委員会の許可を受けないで風俗営業を営んだ旨の前記風営法違反の行為(以下「無許可営業行為」という。)と、満15歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせた旨の前記児童福祉法違反の行為(以下「禁止行為」という。)のそれぞれにつき、行為者の動態を自然的観察の下でみた場合、無許可営業行為が継続的な行為形態であるのに対し、禁止行為は(いわゆる「業務性」が要件とされているとはいえ)継続的な無許可営業行為の途中における一時的現象にすぎない。また、両行為を構成要件的観点からみた場合、相互に統一的な関連性を有するといった関係にあるとは認め難い。両行為は、社会的見解上異なる別個の行為というべきであり、刑法54条1項前段のいわゆる観念的競合の関係にはない。
また、無許可営業行為と禁止行為との間に、構成要件自体が手段・目的又は原因・結果の関係を予定しているといった関係は存在しないし、罪質上、一方の犯罪行為を手段として他方の犯罪へと発展することが予定されているといった関係も認め難い。したがって、両行為の間に、通例その一方が他方の手段又は結果となるような関係を認めることはできない。さらに、本件事案を具体的にみても、被告人B・Y及び被告人会社は、一方の犯罪行為を他方の手段又は結果として実行したわけではない。そうすると、結局、両行為が刑法54条1項後段のいわゆる牽連犯の関係にないこともまた明らかである。
以上から、本件風営法違反の点について、当裁判所には管轄権がないというべきであり、刑事訴訟法329条本文により主文のとおり判決する。
(量刑の事情)
1 本件は、犯行当時14歳の義務教育年限の被害児童を、前後合計22日間にわたりホステスとして酒の席で働かせたという、児童福祉法違反の事案である。
2 被告人らの判示所為が、被害児童の社会性の未熟さにつけ込んだ悪質な犯罪であることは論を待たず、青少年の健全育成という児童福祉法の趣旨にかんがみれば、店の利益を上げるためという自己中心的な犯行動機に酌量の余地はない。店の収益が落ち込んで従業員に対する給料の支払に窮していたなどという事情が、本件犯行を正当化するものではないこともいうまでもない。一般予防の見地からみても、本件は同種事案の再発を招来しかねない悪質な事案であり、被告人らの罪責は決して軽いものではない。個別にみても、被告人B・Yは、本件当時、被告人会社の代表取締役として本件犯行の中心的役割を果たしていたほか、被告人会社の設立にも関わったなど、本件児童福祉法違反のいわば主犯格であり、その責任は重い。被告人I・Aは、被害児童が本件当時14歳であることを知りながら「□□□□□」の代表として同女をホステスとして雇い入れるなどして安易に本件犯行に至っており、その責任は軽視できない。被告人D・Hは、「□□□□□」の店長として同店営業の責任者であり、かつ、実際に被害児童を酒の席で接客させて働かせていた現場の中心者であるから、被告人I・Aと同様、その責任を軽視することはできない。被告人会社は、本件の営業主体として、いわば犯罪の温床となった法人組織である。本店所在地等が変更されており、「□□□□□」等の店舗も既に閉鎖されてはいるものの、定款上はいまだに「飲食店の経営・企画及び運営管理」等の目的が掲げられており、代表者である被告人B・Yの公判廷における供述にかんがみても、今後、被告人会社の活動がどのようになされるのかは曖昧なままであって、再犯防止の観点からも厳しい処分が必要である。
以上によれば、本件が児童福祉法違反の訴因によってのみ処断されるという前提に照らしてみても、被告人らの刑事責任は相当程度重いというべきである。
3 しかしながら他方、被告人B・Y、被告人I・A及び被告人D・Hらには、その量刑を判断するにあたって酌むべき有利な情状も認められる。すなわち、被告人B・Yについては、当公判廷における言動から一定の反省の情が認められるほか、これまでに前科がないこと、被告人会社の代表者として自ら積極的に店舗閉鎖等の措置を講じるなど再犯防止に向けた自発的な対応を講じていること、被告人B・Yの父親が出廷して今後の指導監督について証言したこと等の事情が認められる。被告人I・Aについては、これまでに前科がなく、母親が上申書を提出して被告人I・Aの自律的な更生と一日も早い社会復帰を願っていること、被告人I・A自身も当公判廷において今後の更生を誓っており真摯な反省の態度をみせていること等の事情が認められる。被告人D・Hについては、これまで前科がなく、被告人I・A同様、公判廷において真摯に反省していること等の事情が認められる。
以上から、被告人B・Y、被告人I・A及び被告人D・Hに関しては、今回に限りその刑の執行を猶予し、各被告人の社会内における自律的な更生を期待することとし、主文のとおり判断した。しかしながら、被告人会社については、代表者である被告人B・Yの手により店舗を閉鎖したなどという事情はあるものの、これらについてはむしろ被告人B・Y自身の真摯な反省態度として斟酌すべきものであり、逆に、先に述べたとおり、被告人会社の今後の営業活動の行方については強い不安を感じさせる面もあり、被告人会社自体についてみれば、量刑判断においてことさら酌むべき事情は認められない。したがって,被告人会社については検察官の求刑程度の刑罰をもって臨むのが相当であると認め,主文のとおり判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人B・Yにつき懲役1年,被告人I・Aにつき懲役10月,被告人D・Hにつき懲役10月,被告人会社につき罰金30万円)
(裁判官 佐藤卓生)
別紙 一覧表
番号
稼働年月日
1
平成14年7月3日
2
同月4日
3
同月5日
4
同月8日
5
同月9日
6
同月12日
7
同月13日
8
同月15日
9
同月16日
10
同月18日
11
同月28日
12
同月29日
13
同年8月11日
14
同月12日
15
同月16日
16
同月19日
17
同月20日
18
同月22日
19
同月29日
20
同年9月1日
21
同月2日
22
同月4日